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ルカさんとそのマスター
ルカさんのマスターは女性です。名前は愛宕(あたご)さん

あとマスターたちのつながりに付いてとか


**********


 起動して、初めて目に入ったのは大きなグランドピアノ。
 それから、淑女然と微笑む女性の顔。


「はじめましてっ」


 にこっ、と笑って弾む声は、僅かにハスキーがかっている。
 どうやらここはどこか広い部屋の窓際らしい。床に直接寝かされていた私は、上半身を起きあがらせる。目の前には日溜まりの中、それにふさわしいような笑みを浮かべる女性。まだ二十歳そこそこといった具合で、だけれどその笑みはあまりに老成していた。
 瞬きをして、まだ水分の馴染んでいないレンズを洗浄する。


「……?」

「ハっ、はじめまして、my master」


 ストップしていたAIを回転させ、慌ててインプットされていた挨拶を吐き出す。正常に作動した人口声帯が『巡音ルカ』の声を響かせた。
 動作に異常なし。
 初期エラーも見られない。
 外部端末のだらしなく投げ出された足を折り畳み、正座の状態へと。三つ指を付いて頭を下げる。其処までが私にインプットされた『ご挨拶』だった。

 のだが。


「喋ったぁああああああ!」

「はいっ?!」

「凄い凄いっ! 喋りましたよ先輩! 起動出来ました!」

「せんぱ……?」


 女性は諸手を上げて私の後ろに向かって呼びかける。
 つられて振り返ると、そこにはダイニングテーブルについてコーヒーを啜る男性がいた。その向かいにはKAITO種のボーカロイド。 彼は私の方を見て、ほんの少しだけ首を傾げて笑って見せた。私よりも数段稼働時間の長いであろう、角のすり減ったなめらかな動き。


「おーおー、良かったなぁ」

「はいっ!」

「……取り合えず混乱してるみたいだから相手してやれよ」

「そうですね!」こちらを向いた女性が私に向かって手を差し伸べる「初めまして、あなたの所有者の愛宕と言います。これから宜しくお願いいたします、ルカさん」

「あ、」その手を握り返す「宜しくお願いします。I'm glad to meet you」

「はい、I'm glad to meet you,too!」





 愛宕さん(と地の文では呼ばせていただこう)はにっこり微笑んだ後、慌てて立ち上がって「歌ってもらいたい曲があるんです」と言った。
 どこに楽譜を置いたっけ、と辺りを見回して、『先輩』と呼ばれる男性とぎゃあぎゃあやりだした。起動五分で早速置いていきぼりを食らうという不幸な状況に陥った私は、思わず深く肩を落とす。もしかしてこれからもずっとこの調子なのだろうか。賑やかなのは嫌いではないけれども。


「はじめまして。えっと、ルカ? でいいのかな?」

「あ、ハイ。そちらは……KAITOさん、でよろしいですか?」

「堅苦しいな」吹き出すように青い髪を揺らし、彼は笑う「カイトで良いよ。特にほかの名前は無い」

「そうですか」


 そうしてちょいと部屋の端で騒いでいる愛宕さんと『先輩』の、『先輩』の方を指さしてみせる。
 あれが俺のマスターね、と。


「会津って言うんだ。愛宕さんとはなんか、大学生時代に先輩後輩だったらしくてね」

「はぁ……」

「それから今はいないけど、鏡音種のマスターは花名さんって言って、初音ミクのマスターは根岸さん、MEIKOのマスターは倭文(しとり)さんって言う」

「……?」

「あー、まぁ、今居ないボーカロイドの話しても分かりづらいか」頬を掻いてカイトさんは眦を下げる「マスター達は『ボカロ家族』ってコミュニティを作っててね、お互いのボーカロイドを一緒に歌わせてるんだ」

「……」数人で数台のボーカロイドをシェアしている、ということなのだろう「my masterもその一員だと?」


 うん、とカイトさんは頷く。
 今日、君が起動されたからだけどね、と付け足した。

 それから両手を広げて微笑む。



「ようこそ、コミュニティ『ボカロ家族』へ!」





**********


ちなみにこの三ヶ月後に愛宕家にはAKAITOがやってきます。愛宕さん家の一人息子。


『ボカロ家族』はミクを鏡音双子と歌わせさせたかった根岸(ミクマスター)が無理矢理立ち上げたものです。
参加人数六名。総ボーカロイド数は九名。UTAUの非常勤も居るよ!


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