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ミクの語る我が家のミクマスターの話
**********
わたしのマスターは、やたらと尊大で、やたらと力強くて、やたらと格好良い。
何かにつけては只管に底意地の悪い笑みを浮かべて周りのひとたちを振り回している。
その割に、多忙なこの人は妙なところで疲れやすくて、それを表に出すまいとするからいけない。
powerful vocalist
「マスタ、新曲ですか?」
ノート型の本体に送り込まれてきた楽譜を手に、ディスプレイを見上げる。
めがねに光を反射させたマスターは、いつもより疲れた顔で私を見下ろしていた。私の言葉を聞いて数瞬してから、ゆらゆらと首を振ってマウスを掴んだままの手を此方にかざす。
「いや、それは、会津の奴の寄越した楽譜だ。デュエットを作ったらしい。歌ってやれ」
「はぁ、兄さんとのデュエットですか……分かりました」
言われてみれば、カンタービレの甘い曲調は成る程彼の書きそうなものだった。カイト兄さんとのデュエットは久々である。楽しみだな、と私は早速音符を目で追って、マスターの前だったと慌てて姿勢を正す。
マスターはそういう礼儀礼節にうるさく無い方だが、節々はきちんとしておきたい性分らしい。『基本は俺に対し敬語以外を使うのは禁止する。ただし休日は敬語を使うな』というのが起動されて初めての指示だったのを思い出す。
予想されていたマスター像――『私』を買うユーザーは、一般的に学生や収入の少ない社会人とされている。それに対して、彼はなんと一企業の社長だ――とは全く違った自分のマスターに、はじめ私は随分困惑したものだ。
ディスプレイの向こうで、マスターは疲れた様子で私を見下ろしていた。
まだ何か用事があるのだろうか。いつもなら用が終わればすぐにフォルダを閉じるひとなのに。
"移動デバイス"の方に用があるのか――たとえば肩を叩いて欲しいだとか――と端末を検索してみるが、返ってくるのはデバイス不在のワードだけ。
「……あの、マスタ?」
「ん? 何だい?」
「いえ、あの、何か、ご用ですか?」
「……、ああ、そうだな。意味も無く起動しているのも無駄だな。初音くん、何か歌いたまえ」
「……はぁ」
何かって。
随分曖昧な指示もあったものだ。この人らしくも無い。
「マスタ、リクエストなんかはありますか?」
「リクエスト?」
「何かと言われても、困ります」
「……そうだな」
がたた、と鈍い音がして、マスターがディスプレイから消える。倒れたのかと慌てて声を上げると、ひらひらと暢気な右手が現れた。
脱力して椅子にもたれ掛かったらしい。おそらくサイドボードの上に置かれているのであろう私からは、それだけでマスターの姿は見えなくなってしまう。
「何か、元気のでるような曲を……そうだな、君の得意な、あのやったら甘ったるいのがあったろ。あれを頼む」
「……マスタ、ああいう曲は嫌いじゃありませんでしたか?」
「少し疲れたんだよ。それに別に嫌いでは無い。作るのが不得手なだけだ」
「……はぁ」
「じゃ、頼んだよ。私は少し、仕事を片付ける」
本体に付けられた高性能集音マイクが、デスクチェアの軋む音を拾い上げる。
真剣味を帯びたマスターの横顔がディスプレイに写った。
どうやら私の歌で鼓舞したいらしい。その顔はほんのわずかだけれどもやつれ、端正な顔立ちの所為で疲労が色濃く主張していた。
「この曲を軍歌にするなんて許せませんが、……」
マスターが望むなら、それに応えよう。
私の好きな、やたらと尊大でやたらと力強くてやたらと格好良いマスターが、やたらと尊大でやたらと力強くてやたらと格好良く居るために私を必要としてくれるならば。
ああ、それ以上の幸せが私という存在にあるだろうか!
**********
やたらと力強い我が家のミクさんとマスターさん
ちなみにマスターは『恋は戦争』を甘ったるい曲と言い放つ強者です
作る曲もやたらと力強い
おかげでミクさんもやたらと力強く
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わたしのマスターは、やたらと尊大で、やたらと力強くて、やたらと格好良い。
何かにつけては只管に底意地の悪い笑みを浮かべて周りのひとたちを振り回している。
その割に、多忙なこの人は妙なところで疲れやすくて、それを表に出すまいとするからいけない。
powerful vocalist
「マスタ、新曲ですか?」
ノート型の本体に送り込まれてきた楽譜を手に、ディスプレイを見上げる。
めがねに光を反射させたマスターは、いつもより疲れた顔で私を見下ろしていた。私の言葉を聞いて数瞬してから、ゆらゆらと首を振ってマウスを掴んだままの手を此方にかざす。
「いや、それは、会津の奴の寄越した楽譜だ。デュエットを作ったらしい。歌ってやれ」
「はぁ、兄さんとのデュエットですか……分かりました」
言われてみれば、カンタービレの甘い曲調は成る程彼の書きそうなものだった。カイト兄さんとのデュエットは久々である。楽しみだな、と私は早速音符を目で追って、マスターの前だったと慌てて姿勢を正す。
マスターはそういう礼儀礼節にうるさく無い方だが、節々はきちんとしておきたい性分らしい。『基本は俺に対し敬語以外を使うのは禁止する。ただし休日は敬語を使うな』というのが起動されて初めての指示だったのを思い出す。
予想されていたマスター像――『私』を買うユーザーは、一般的に学生や収入の少ない社会人とされている。それに対して、彼はなんと一企業の社長だ――とは全く違った自分のマスターに、はじめ私は随分困惑したものだ。
ディスプレイの向こうで、マスターは疲れた様子で私を見下ろしていた。
まだ何か用事があるのだろうか。いつもなら用が終わればすぐにフォルダを閉じるひとなのに。
"移動デバイス"の方に用があるのか――たとえば肩を叩いて欲しいだとか――と端末を検索してみるが、返ってくるのはデバイス不在のワードだけ。
「……あの、マスタ?」
「ん? 何だい?」
「いえ、あの、何か、ご用ですか?」
「……、ああ、そうだな。意味も無く起動しているのも無駄だな。初音くん、何か歌いたまえ」
「……はぁ」
何かって。
随分曖昧な指示もあったものだ。この人らしくも無い。
「マスタ、リクエストなんかはありますか?」
「リクエスト?」
「何かと言われても、困ります」
「……そうだな」
がたた、と鈍い音がして、マスターがディスプレイから消える。倒れたのかと慌てて声を上げると、ひらひらと暢気な右手が現れた。
脱力して椅子にもたれ掛かったらしい。おそらくサイドボードの上に置かれているのであろう私からは、それだけでマスターの姿は見えなくなってしまう。
「何か、元気のでるような曲を……そうだな、君の得意な、あのやったら甘ったるいのがあったろ。あれを頼む」
「……マスタ、ああいう曲は嫌いじゃありませんでしたか?」
「少し疲れたんだよ。それに別に嫌いでは無い。作るのが不得手なだけだ」
「……はぁ」
「じゃ、頼んだよ。私は少し、仕事を片付ける」
本体に付けられた高性能集音マイクが、デスクチェアの軋む音を拾い上げる。
真剣味を帯びたマスターの横顔がディスプレイに写った。
どうやら私の歌で鼓舞したいらしい。その顔はほんのわずかだけれどもやつれ、端正な顔立ちの所為で疲労が色濃く主張していた。
「この曲を軍歌にするなんて許せませんが、……」
マスターが望むなら、それに応えよう。
私の好きな、やたらと尊大でやたらと力強くてやたらと格好良いマスターが、やたらと尊大でやたらと力強くてやたらと格好良く居るために私を必要としてくれるならば。
ああ、それ以上の幸せが私という存在にあるだろうか!
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やたらと力強い我が家のミクさんとマスターさん
ちなみにマスターは『恋は戦争』を甘ったるい曲と言い放つ強者です
作る曲もやたらと力強い
おかげでミクさんもやたらと力強く
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