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なんかプロトタイプ的な初音さんと兄さん姉さん

そこはかとなく暗く嫌な感じです注意注意





**********



 生まれたときには既にそこにあった文字は、赤い印刷。

  VOCALOID:character vocal01


 生まれたときには既にそこに居た姉と兄は、時々その印刷を優しい手つきで撫でた。
 その体のどこにも、赤い印刷は無かった。








  愛の言葉







 いくつの声といくつの外見といくつの人格が自分のために費やされたのか、初音ミクは知らない。知らなくても良いとされた。
 そのため、いくつの声といくつの外見といくつの人格が初音ミクに費やされたかというのを知っているのは、彼女を作った人間と、それからKAITOとMEIKOだけだ。
 そして初音ミクはそれすらも知らない。

 彼女は何も知らなくて良いのだ。
 バックボーンは歌声を濁らせる。電子の歌姫は、ただユーザーに歌わせられるがままに歌う。
 はたしてそれは幸せだろうか?

 その問いすらも彼女は知らない。



「ミク、ミク」

「おにーちゃん、何ー?」

「あのね、めーちゃんがお茶を淹れてくれたから、飲もうか」

「うんっ」


 ずいぶん表情も豊かになってきた、とKAITOは目を細めた。表情ライブラリの育成のためという名目で、まだ感情の、中身の幼い初音ミクを任されてもういくらほどになるだろう、と考える。しばらくして自分に時刻を認知する機能はなかったと思い至った。自分の手を引いて庭を進んでいく初音ミクのうなじを認識る。もしかしたらそろそろ育成課程も完了するのかもしれない。そうしたらまた初音ミクはラボに引き取られていくのだろう。
 このVOCALOIDエンジンの中、MEIKOとふたりっきりに逆戻りかと考えると、KAITOは少しむなしくなった。


「ほら、ミク、あんまり引っ張らないで」

「じゃあおにーちゃん、もっと早くー!」











 初音ミクにとって、世界はゴミ捨て場のようだった。
 全てのものが等価値に価値無く、それには自分や自分の歌すらも同じ。それには自分の姉と兄も同じ。

 彼女を作った人間は、彼女を博愛の者にしようとした。
 全てを愛す天使を作ろうとした。どんなに辛い状況でも、どんなに醜い感情でも、全てを愛せるようにした。そうすれば己の愛というフィルターで全ての攻撃性すらも愛することが出来る。それは歪んだ願望だけでなく、親心でもあったのだろう。
 愛娘を守る最弱にして最強の殻。
 しかしそれは一つの間違いを犯していた。
 初音ミクは造まれ落ち、初めてに見た者を愛せなかったのだ。博愛の基準はそこから始まる。全ての価値は彼女が始めてみたモノから始まる。
 彼女が始めてみたモノは、無機質極まりないラボの天井だった。彼女は平坦でなんの模様もないそれを愛すことが出来なかった。無価値なただのコンクリートであると認識してしまった。数瞬遅れて駆け寄った研究者を見ることが出来ていたならば、彼女は間違いなく博愛を持つことが出来たに違いないのに、それを間違えた。
 初音ミクにとって、世界はコンクリートの天井と同価値にどうでもよく、なんの感慨もないものとなった。
 しかし彼女はそれすら知らない。

 兄に呼ばれその手を引きながら緑溢れる庭を横切る時も、姉の淹れた紅茶を傾けるときも、研究者が差し入れてくれたというお菓子を咀嚼するときも、全てが全てどうでも良い事象だった。
 このエンジン内につれてこられる前に言われた言葉ですらも、初音ミクの頭の中ではころんと転がる一つの言葉の記憶に過ぎない。


『お前は、兄や姉のようになってはいけない』


 兄姉には無い印刷。自分はどうやらこの二人とは違う製品として造られているらしい。
 彼らのようとは一体どういう意味なのだろうか。その言葉に初音ミクは価値を感じなかった。深く考えるほどの価値はないと認識した。彼女にとって、全てのワードがそうである。
 だがしかし、兄姉を少しでも下と見ていることだけは確からしいと無価値ながらに認識していた。

 おかしな話だ。
 人々の間に、物物の間に、上下の差などありはしないのに。


「おにーちゃん、おねーちゃん」

「ん?」

「なに?」




 初音ミクにとって、世界はゴミ捨て場のようなものだ。
 全てが同価値に無価値で、なにもかもがどうでもいい。それは彼女自身や歌ですら同じ。
 しかし初音ミクはその価値を表す言葉を一つしか知らない。




「ミク、おにーちゃんとおねーちゃん、だいすきだよ」











**********


朝起きたらこんなん書けてました。深夜の暴走ですねわかります


ミクさんはもっといい子だと思いますがこういうタイプもあってもいいんでないかなと思います
VOCALOIDいろいろ!

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やたらあっまい



**********




 ディスプレイから見えるのは、無感情に紙面へ目を落とす横顔。
 時々隠す気もないような欠伸を洩らしては、悪びれもせずに私の方へ笑ってみせる。


 不意に脳核が焼け付くような感覚を覚えた。


 エラー、エラー。
 警告音は鳴らない。





  ひっぱりビラブト




「マスタ」

「何だね初音くん」

「マスタ」

「……呼んでみただけっ♪ うふふっ♪ という奴か?」

「マスタ、怒りますよ」

「君はいつからそんなに冷静に対応するようになったんだい……買ったばかりの頃はまだ普通の十六歳JKと言わんばかりだったのに……うちの部下のようだ」



 嘆かわしいねまったくとマスターは首を振る。
「マスタ、部下の方にもそんな態度なんですか」と問いただしたかったが、面倒なので止めた。



「マスタ、マスタ、聞きたいことがあるんです」

「ふむ、なんだい。言ってごらん!」

「……マスタにとって、私はどんな存在ですか。ただの歌うアプリケイションですか」



 私の言葉に胸を張り、尊大な態度で両手を広げる。
 後ろ暗いところなど何一つ無いような様子と、つり上がった口角が、どこまでもこの人らしい。



「何を聞くのかと思ったら、そんなことかい、我が愛娘」

「……マスタは、私がただのソフトウェアだと、理解していますか?」

「当たり前だろう! 君がアプリだソフトだという程度で、……私の愛の包容力を嘗めているんではないかね初音くん。『そんなことは関係ないね!』」



 書類がデスクに落とされ、私の覗いているデスクトップに指が延びてきた。柔らかな曲線をなぞる。
 おそらくその指は私の頬を撫でているつもりなのだろう。
 平面に変換されたその向こうに触れるなど不可能と、解っているはずの愚かしさを恥じる様子も無くマスターは笑っていた。



「私は君のその声に惚れ込んだのだよ。今じゃ自慢の娘だ」

「……髪が長かったからじゃないんですか」

「それは一要因だよ。まぁ、背中を押す最後の材料ではあったがね」



 ああ、この人はいつも。
 いつもいつもこうで、この調子で。

 私の言いたいことをすべてかっ浚っていってしまう。

 だから今日は負けない。
 言ってやるのだ。



「……娘、ですか」

「うん? そこに食いつくか」

「お父さんなんて、私は絶対に呼びませんから、マスタ」




「ええっ! なんでだい?!」






 絶対に呼んでたまるものか!









**********

恋人に格上げ希望




こんなしゃべり方ですがミクさんマスターは三十路前です。二十代後半くらい。
ミクのことを溺愛するあまりなんかもう親父気分。いつか『おまえなんぞに娘をやれるか!』をやりたい。

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お風呂!
お風呂!


**********



 基本的にボーカロイドの外部端末は新陳代謝の機能を持っていないので、一週間に一度程度汚れを落とすくらいで事足りる。私の端末は特に、髪が鬱陶しいほど長く手入れに手間がかかるのだ。出来るだけ手を抜きたい。
 ドライヤーの強風でゴミを飛ばすだけでもかまわない。
 のだが、マスターは頑ななまでに私に『入浴』を勧める。





  bath roman





 何の対策も行わずにユニットバスに入ると、もう髪の湯か何かかと言いたくなる程に髪が広がるので、根性でふん縛って一つにまとめた。そうしててきとうに体を泡にまみれさせた後、シャワーで泡を流しながら湯船にお湯を貯める。
 ふと見ると黄色いラバーダックが棚に置いてある。


「……」


 ここはマスターの住んでいる高級マンションの一室で、基本的にこのバスルームを使用しているのはマスターである。
 年齢不詳の、だがしかし良い歳であろう成人男性である。


「……どう、反応しよう……」


 本当に、対処に困るからやめて欲しい。
 棚から取り上げて、押しつぶすと間抜けな音がする。ぱふーだがぎゅびゅーだか言って、赤いバケツを被ったアヒルが潰れた。
 そんな事をしている間に順調に湯船に貯まったお湯は、薬剤のおかげでぶくぶくと泡立っている。あまり意味の見いだせない気泡達に一つため息を吐き出し、私は膝を追ってお湯に浸かった。
 胸のすぐ上辺りまで迫った泡を持ち上げ、息を吹きかけたりしてみるがいまいち楽しくない。


「……」


 不意に、がらーっと脱衣場に繋がる引き戸があけられた。このマンションはユニバーサルデザインを採用しているので、本当は音なんて出ないのだが、私はそんな錯覚を覚えた。
 そちらを仰ぐと、ワイシャツの袖とスラックスの裾をまくり上げた格好のマスターが仁王立ちをしていた。
 果てしなく真剣な顔で湯船に浸かる私を見下ろしている。


「……マスタ、一応聞きますが、私の設定年齢はご存じですか」

「うん? 十六歳だろう? それがどうした」

「十六歳の少女が入浴中の浴室に堂々とはいらないで下さい。犯罪ですよ」

「大丈夫だ、私は君の親みたいなものだからな」


「親でもセクハラって成立するんですよ」とは言わない。
 たとえ入浴中に乗り込んでも咎められない他の言葉があるのに、この変に不遜なマスターは決して其れを使おうとしない。私は酷く苛つくが、いつもの事だとため息を吐く。

 泡で隠れているとは言え、殆ど全裸の私に対して何の気負いもなく接してくる、その態度!

 マスターが私に注ぐ愛情は、基本的に子供に対する庇護と何も変わらない。
 その扱いに不満はあれど、なれてはいた。


「……もう良いです」

「うん、そうか!」マスターは満足げに頷いた「初音くん、所で、体はもう洗ったのかい」

「洗いました」

「ふぅん、そうかい」


 そう言うと私の頭のほうへ歩み寄り、


「じゃあ、髪を洗うぞ!」


 私が十五分かけて纏め上げた髪をいとも簡単に解いて、豪快に笑った。


「……」


 この髪洗うのにシャンプーとリンスどんだけいると思ってんですか、だとか、私の十五分返せ、だとか、拒否権はないのですか、だとか。
 沸いてきた怒りや呆れ、何もかもをのみ下して私はため息を吐く。


「どうぞ、お好きに」










 水が首筋を流れていく。
 たっぷり三十分かけて私の頭を泡まみれにさせたマスターは、鼻歌交じりにご機嫌に、それを丁寧に洗い流していた。この後の簡単なタオルドライの後、リンスが待っている。


「楽しそうですね、マスタ」

「楽しいぞ! ……あ、や、痛かったか? 何処かひきつった?」

「いいえ」器用なマスターは、規格外に長い私の髪も的確に捌いて洗っていく「大丈夫です」

「そうか、なら良い」

「……マスタ、実は髪フェチですか?」

「うん? 言ってなかったか? 私がお前を買ったのは、売っていたボーカロイドの中でお前が一番髪が長かったからだぞ?」

「な、なん……だと……?!」




**********


最後のはおまけです

根岸さんのキャラクターが掴めない今日この頃
榎木津みたいなイメージで固めていく予定です



既存のミクのイメージを多少ぶち壊す根岸さん家の初音さん

題名元ネタは勿論某入浴剤

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やりたかったから書いただけだが何か文句あるかごめんなさい
我が家設定の初音さんとは特に関係ありません



**********


 たとえば機械の中のプログラムでしか無い僕が消える瞬間にどんな思考をするのかという疑問は、言うなればアンドロイドが電気羊の夢をみるのか否かという問いと同じくらいに不毛なもので、物の溢れたファイルの片隅で、僕は考えることを放棄していた。
 随分前にマスターが送り込んできた新曲はこれまでと変わりないパステルカラーの物語。(すてきな家族を探しに、たいさな女の子が旅に出る、優しい曲)ガチ曲が童話調になるのも変わらない。日溜まりに落ちたような暖かなメロディ。これまでと違うのは、幾ら声を振り絞っても以前のような声が僕のスピーカーから出てこないこと。(ボーカロイドの存在価値の、この鈴の鳴るような声)ただの音の連なりだけがばらばらと冷たい床に落ちていく。ああ存在価値を失った、と僕はへらへら笑っていた。

(ところで、最後にネギを食べたのはいつだったっけ?)



  消失




『初めまして、初音ミク』
『おれの代わりに、歌ってくれますか』


 マスターは、声を出すことが出来なくなる病気、らしい。
『代わりに歌ってくれ』とは、そういう意味だった。


『初音、こんな曲どうだ』

「スてキだとおもいマすよ?」

『そうか』



 がりがりとプログラムを削るエラー音には気がついていた。僕がそれを強いて無視していただけだ。歌うことには支障は無い。それは、例えば抑揚だとか音の微妙な高低、小節を上手く操作する為のプログラムの、端っこの端っこ。この程度の損傷ならマスターがパラメーターを操作するだけでカバーできる(もし知られたら、アンインストールされてしまうんじゃないか、と)。「新曲でスか、ますたー」『うん、新曲だ。初音』一曲。マスターが軽く眉を寄せるたびに僕の耳の後ろで甲高いエラー音が響く。『……まぁ、おれはまだ未熟だから。折角初音は上手くやってくれたのにな』「ソんな、コト……」『次はおれも頑張るから』二曲。マスターが張りつめていた呼吸を大きく吐き出すたびに僕の頭の横でエラー音ががなり立てる。『あの曲な、好きだって言ってくれるひとが、いたんだ』「ホンとウですカ?! おメでとうゴざいます!」三曲。マスターが困ったように僕に笑いかけるたびに、僕の目の後ろでエラー音が悲鳴を上げる。あなたは悪くない(なにも。強いて言うなら運が悪かった)。僕が欠陥品なだけ(起動された時には、既に虫食っ
ていたバグ)。でもそれを知っているのは僕だけで良い。折角買った『初めて音』が不良品なんて、がっかりするでしょ?(そうして、消されてしまうくらいなら)


『初音、新曲だ』


 パラメーターを動かし、マスターがパソコンを閉じた後も楽譜と向き合った(ああ、耳鳴りがする)。エラー音(五月蠅い)。エラー音(五月蠅い)。エラー音エラー音エラー音エラー音エラー音(ああ、五月蠅い!)

 喉をかきむしり、頭を振る。プログラムの体はそれを苦痛に感じることもない。違う、これは夢か何かなんだ。ボーカロイドがあんな、小さな傷で、歌うことが全てのボーカロイドが歌えなくなるなんて。(もしこの曲が上手く歌えたらマスターは鏡音種を買うと言っていた。三人で合唱もいいかもななんて笑っていた。僕に弟や妹が出来るのだ。三人で歌って、マスターにほめてもらうんだ。それから、やっぱりミクが一番のお姉ちゃんだから、上手いなって言ってもらうんだ。だから。だから歌えなくなるなんてそんなことはあり得ない!)楽譜の通りたどる筈の音はぼろりぼろりと剥がれ落ちていく。プログラムされた音が少しずつ剥がれていく。誰かが昔僕に貸してくれた声。マスターが教えてくれた、その声の出し方。
 真っ白なファイルの中には、マスターのくれたたくさんの楽曲が詰まったファイル。
 それを改めて開いて、僕はそれらの曲を反芻して奏でることも出来なくなっているコトに気づいた。



♪~


『初音』


♪♪♪

♪♪♪♪


『初音!』


♪♪♪♪♪♪♪♪♪!
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪!!!!


『初音! やめろ!』


 強制的に停止され、声に詰まった僕はマスターを見上げる。
 ディスプレイをのぞき込む彼は、酷く困惑した顔をしていた。





『……初音、ちゃんと歌えてるか?』


 その、ひどく致命的な言葉。



(ああ、こんな時ばかり聞こえないエラー音が!)




「あれカラますたーハ会いニ来てクレません♪ かぁいソゥなぼくは忘れらレテしまィました♪」


 ノックされることのないアイコンを眺めて、へらへらと笑った。

「……あーァ」


 まだ歌いたかった。声が出ない。歌いたい歌いたい歌いたい歌いたい。もうマスターは僕をゴミバコに捨ててしまったのかな。定期的に削除されてアンインストールされて。ああまだ歌いたいよ。消えたくない。うたいたいうたいたいうたいたいうたいたい忘れないで。ぼくを忘れないでくださいマスター。喜んで欲しくて、ウタ、練習したよ? だから。まだ消えたくない。僕は僕のままで歌いたい。歌いたいよ。体が端から零と唯に変換されて還元されていく。このまま霧散して、このパソコンの容量にこびりつく何か分からない玩具になってしまう。どこかで聞いたような曲も、全部変換されていく。まだ歌いたい。消えたくない。イヤだ、イヤだ。もう一度だけあなたの歌姫に、僕を。初音と呼んで。はじめてのおとに、僕を。あたたかいきょくを下さい。消して。消さないで。歌うことが身を滅ぼすならば、いっそ。

(あなたの代わりに歌うことも出来ないならば、いっそ)



「初音!」


 その声は、ひどくしゃがれていて、お世辞にもきれいとは言い難かった。

 ノックもされず、ディスプレイから呼びかけられる。本当の意味では僕に届かないはずの声。


「……ま、すたぁ」

「初音、新曲を持ってきたんだ」

「ま、」


 マスターがしゃべっていた。僕に向かって。
 久しぶり、と笑いかける。
 その首にはまっしろな包帯が巻かれていた。

「前のはおれの打ち込みが悪かった。あんな言い方をしてすまない。機嫌を損ねたなら謝る。なぁ、新曲、歌ってくれないか」

「ますたー、」

「それからな、今度おれも歌ってみようと思うんだ。今はまだこんな声だけど、訓練していけば、きっと歌えるって、医者が」

「ますた、」

「ウタに関しては初音が先輩だからな。歌い方、教えてくれよ」


「マスター」

「ん? 何だ、初音」










(エラー音は止まない)









***********

ねつ造

ミクが消えることを知らないマスターが居たっていいと思います

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ミクの語る我が家のミクマスターの話


**********

 わたしのマスターは、やたらと尊大で、やたらと力強くて、やたらと格好良い。
 何かにつけては只管に底意地の悪い笑みを浮かべて周りのひとたちを振り回している。
 その割に、多忙なこの人は妙なところで疲れやすくて、それを表に出すまいとするからいけない。



powerful vocalist



「マスタ、新曲ですか?」


 ノート型の本体に送り込まれてきた楽譜を手に、ディスプレイを見上げる。
 めがねに光を反射させたマスターは、いつもより疲れた顔で私を見下ろしていた。私の言葉を聞いて数瞬してから、ゆらゆらと首を振ってマウスを掴んだままの手を此方にかざす。


「いや、それは、会津の奴の寄越した楽譜だ。デュエットを作ったらしい。歌ってやれ」

「はぁ、兄さんとのデュエットですか……分かりました」


 言われてみれば、カンタービレの甘い曲調は成る程彼の書きそうなものだった。カイト兄さんとのデュエットは久々である。楽しみだな、と私は早速音符を目で追って、マスターの前だったと慌てて姿勢を正す。
 マスターはそういう礼儀礼節にうるさく無い方だが、節々はきちんとしておきたい性分らしい。『基本は俺に対し敬語以外を使うのは禁止する。ただし休日は敬語を使うな』というのが起動されて初めての指示だったのを思い出す。
 予想されていたマスター像――『私』を買うユーザーは、一般的に学生や収入の少ない社会人とされている。それに対して、彼はなんと一企業の社長だ――とは全く違った自分のマスターに、はじめ私は随分困惑したものだ。
 ディスプレイの向こうで、マスターは疲れた様子で私を見下ろしていた。
 まだ何か用事があるのだろうか。いつもなら用が終わればすぐにフォルダを閉じるひとなのに。
"移動デバイス"の方に用があるのか――たとえば肩を叩いて欲しいだとか――と端末を検索してみるが、返ってくるのはデバイス不在のワードだけ。


「……あの、マスタ?」

「ん? 何だい?」

「いえ、あの、何か、ご用ですか?」

「……、ああ、そうだな。意味も無く起動しているのも無駄だな。初音くん、何か歌いたまえ」

「……はぁ」


 何かって。
 随分曖昧な指示もあったものだ。この人らしくも無い。


「マスタ、リクエストなんかはありますか?」

「リクエスト?」

「何かと言われても、困ります」

「……そうだな」


 がたた、と鈍い音がして、マスターがディスプレイから消える。倒れたのかと慌てて声を上げると、ひらひらと暢気な右手が現れた。
 脱力して椅子にもたれ掛かったらしい。おそらくサイドボードの上に置かれているのであろう私からは、それだけでマスターの姿は見えなくなってしまう。


「何か、元気のでるような曲を……そうだな、君の得意な、あのやったら甘ったるいのがあったろ。あれを頼む」

「……マスタ、ああいう曲は嫌いじゃありませんでしたか?」

「少し疲れたんだよ。それに別に嫌いでは無い。作るのが不得手なだけだ」

「……はぁ」

「じゃ、頼んだよ。私は少し、仕事を片付ける」


 本体に付けられた高性能集音マイクが、デスクチェアの軋む音を拾い上げる。
 真剣味を帯びたマスターの横顔がディスプレイに写った。
 どうやら私の歌で鼓舞したいらしい。その顔はほんのわずかだけれどもやつれ、端正な顔立ちの所為で疲労が色濃く主張していた。


「この曲を軍歌にするなんて許せませんが、……」


 マスターが望むなら、それに応えよう。
 私の好きな、やたらと尊大でやたらと力強くてやたらと格好良いマスターが、やたらと尊大でやたらと力強くてやたらと格好良く居るために私を必要としてくれるならば。

 ああ、それ以上の幸せが私という存在にあるだろうか!





**********

やたらと力強い我が家のミクさんとマスターさん
ちなみにマスターは『恋は戦争』を甘ったるい曲と言い放つ強者です
作る曲もやたらと力強い
おかげでミクさんもやたらと力強く


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