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カイトとミクが只管ぐだぐだする


**********


「……熱ぅ?」

「ほんと、折角来て貰ったのに、ごめん!」


 ぱんっ、と勢い良く両手を合わせたカイトの頭頂部が良く見える。
 先日渡されたデュエット曲の練習をするからと呼び出されてみれば、玄関先で出迎えたのはカイトの外部端末だった。


「二週間仮眠生活って……そりゃ体も壊すよ」

「休め休めって言っただけどなぁ……」


 カイトのマスターは所謂同人作家をしている。本業は別にあるようだが、職場に出向いているのをみたことが無いので、おそらく在宅の仕事なのだろう、とミク達は考えていた。
 昨日まで、その作家活動がかなり差し迫った状態だったらしい。


「何とか納期には間に合ったみたいだけどね。俺、印刷所まで走らされたし」

「それは、……ご苦労様」

「うん」自分で淹れたコーヒーを啜り、カイトはため息を吐く「ミクも、わざわざ来てくれたのにごめんな」

「もういいよ。それより、会津さん大丈夫なの?」

「あー、うん。ちゃんと暖かくして寝かせてるから、大丈夫だと思う……よ?」

「うちのマスタも、時々寝込むよ」

「何であの人たちってときどき機械より無茶するんだろう」

「リカバリーがついてないからじゃないの」

「人間にも付ければいいのに。リカバリー機能」

「兄さん、無茶言うなぁ」


 リビングに上げられ、淹れて貰ったコーヒーを両手で持ち上げる。砂糖の一切入っていないそれはエネルギー変換されにくい。機械が暖まるのも宜しくない。ただ、こうしてカイトと向かい合って、コーヒーを飲みながら穏やかに会話をするという状況が、ミクにとってはひどく心地よかった。

『家族』の正しい形のようで。

 換気の為か、少しだけ窓が開いている。帯状の風がミクの足を冷やした。
 カイトは付けたままのテレビに目をやっている。


「兄さん」

「ん?」


 ミクがカイトのことを兄と称するのは、年数として、製造されたのが先だからだ。それ以外の理由は無い、はずだった。


「暇だし、何か歌おうか」

「……ああ、うん。そうだな」


 短い発声練習を終えて、本来会津――カイトのマスターの名前だ――にみて貰う筈だった練習曲のメロディラインをなぞる。
 柔らかで甘ったるい、可愛らしいそれ。歌詞をよくよく読み込むと、優しい家族のことを歌っているのが分かる。
 日曜の午後。暖かい日差しとゆったりした時間について歌った歌。


「……んー、ここのハモリ、ちょっと難しいかな」

「これは半音あげるんだって。さっきも言ったでしょ」




 それはきっとエラーだが、ミクのリカバリー機能は作動しなかった。




**********

カイトのマスターの名前は『会津』
ミクのマスターの名前は『根岸』です


我が家のミクとカイトは正しく兄と妹。
喧嘩もしますし憎まれ口も叩きます。

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