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リクエストをいただきましたので

京築ひよりさん、ありがとうございます




**********



 マスターからたこ焼きをもらった。
 パックに入ったそれはまだほかほかと鰹節が揺れていて、口の中に放り込むとどろっと熱くそれでも旨い。もすっ、もすっとルカがリズム良くそれをほおばっている時、


「ルカどのー」


 そいつ、神威がくぽは現れた。






  クラップユアハンド







「ルカどのルカどの」


 ひらひら、不器用に手を振っている。
 にぱぁ、と花が咲いているような笑顔はひたすらにあどけない。
 舌が回りきっていないような発声は、どこかほほえましく感じられるような物だった。
 楽譜らしき紙を片手に、こちらへ駆け寄ってくるがくぽを見、ふと彼がもし子供の姿をしていたらとルカは考える。


「ルカどの?」


 顔の作りは、悪くない。
 寧ろかなり良い方、美丈夫と言って遜色はない。このまま外見年齢を半分ほどに引き下げるとしたら、男女を見紛うような子供になるに違いない。足りていない感じのする舌足らずは、変声前のボーイソプラノならばあるいは愛らしいことだろう。
 いすに座っているルカをのぞき込むためにわざわざ床に座り込む仕草も、子犬のようでかわいらしくみえるやもしれない。


「どうしたん、でござるか?」


 しかし、いくらそんな空想をしたところで、目の前の男は悲しいまでに美人な青年で、声も痺れるほどに低い。床に座り込む姿は、なんかもう情けないだけにしか見えなかった。
 軽くめまいを覚えながらも、ルカはたこ焼きをつつく串を止めない。


「ルーカーどーのー?」

「何だ」

「……もっと早くに返事が欲しかった、でござる」

「返事はしてやっただろうが。何だ」


 むう、と不機嫌そうに一つ唸り、しかしすぐに気を取り直したのかにぱっと笑ってみてる。
 その様子も酷く幼い。おまえは足りないな、とつぶやくと、意味を取れなかったのかかくりと首を傾げた。


「この歌詞の意味を教えてほしいでござる」


 差し出されたのは、白い上等紙に素っ気ない字で印刷された言葉の連なりだった。
 作り手も彼が歌うことを考慮したのか、漢字にふりがなが降ってある。

 ルカはそれを受け取り、簡単にざっと眺めた。
 がくぽはその様子を嬉々として見つめ、口を開くのを今か今かと待ちかまえている。


「……またか」

「またでござる」


 がくぽがルカにこうして歌詞の解釈を聞きに来るのは、そう珍しいことではない。
 はじめの頃はほかの成人型ボーカロイド、カイトやメイコ。果てはリンやレン、ミクといった未成年型にも聞いていたらしいのだが、「ルカどのの教えてくれる意味がいちばんわかりやすい」と宣ってからというものの、めっきりルカにばかり駆け寄ってくるようになったのだ。
 ほかの五人は犬が懐いたようなものだとほほえましげにルカに寄るがくぽを見守るが、当人からしてみれば冗談ではない。


「このBメロのところの意味が良く分からないのだ」

「……」


 その内容は、閉塞感を訴えたものだった。
 漠然とした世界や対人関係などに辟易を漏らし、けれども距離感のいらない誰かを求め、いい加減にしてくれと泣き言を言うようなもの。ある程度分別の着いた人格の持ち主ならば共感できるだろうその歌詞は、どうにも幼いきらいのある彼には少し難しいのかも知れない。


「この、語り部のいう『肩を並べられるあなた』というのは、それまで全く言及されておらなんだが、どういった人のことをいうんでござるか?」


 がくぽはそう言ってちょんと紙面の一角を指さしてみせる。
 青に近い紫で着色されたその爪が、白の上等紙にやたらと映えた。


「……これは」一人にしてくれ、もう沢山だ。そう言った舌の根の乾かない内に、語り部は隣でその愚痴を聞いてくれる誰かを求める「気の置けない知り合いっていうのを求めているんじゃないか」

「きのおけない」

「遠慮しなくて良い、気遣いのいらない」ルカの言葉を鸚鵡返ししたがくぽに、言い含めるように「ただ黙って寄り添ってくれるような」

「寄り添う、でござるか。つまり恋人を求めていると」

「そうとは限らないだろうが。友人や家族だってそうとも成り得る」

「……むう?」


 かくん、とがくぽは首を傾けた。その幼い仕草に、ルカは軽く頭痛を覚える。
 大きくため息をついていると、いい加減床にしゃがみ込むのに疲れたのか、ルカの隣に腰を下ろした。


「まぁ、つまり、拙者にとってのルカどののような方を求めている、という訳だな」

「……は?」


 なに言ってやがるこいつ、とルカはたこ焼きに串を刺す。
 が、手応えなくかつんとパックに突き当たった。
 あわてて手元をみると、からになったパックが空しくルカの手の中にある。道理で軽くなったものだと思っていたら。
 思わずぽかんとしていると、横から手が伸びてからになったそのパックを浚っていく。「空でござるよ?」とその手の主は綺麗なものでもないそのパックを、酷く丁寧な手付きで閉じて自らの膝に乗せた。
 そうして「しかし」と何処から出したのか唇に扇をあてる。


「それなら簡単でござるな。ルカどのがまだ居なかった頃を思い出して歌えばよいのだ」

「ちょ、ちょっと待て、おまえ、」

「ん?」


 にこりと笑って首を傾げる姿は、妙な慈愛に満ちている。ちょっと待てとルカは早鐘を打つ胸部を押さえた。
 ちょっと待て違うこいつはあれだから、中身幼児みたいなもんだから。そういうのは違うから!


「ルカどの?」

「……」

「る、ルカどの? ど、何処へ行くでござるか?」

「……」

「ルカどのぉ?!」


 違うそう言うのではない断じて違う!
 違うったら違うのだ!


 ストックしていたタコゲソをぎりぎりと噛みしめながら、ルカは邪念を振り払うように頭を振った。

 
 そんな馬鹿な。
 あいつを好きかも知れないなんて、









    (そんなばかなことがあってたまるか!)




**********

ひよりさん、リクエストありがとうございましたそして遅くてごめんなさい
サイトの方にありましたキャラ観を勝手に拝借させていただきましたがこれじゃあがくぽただのアホの子だ!なんか違う!


とりあえずエセ侍言葉とクール系口調楽しかったです
ルカは何気なく男言葉も似合いますよね
素直クールいいよ素直クール。クーデレもいいよクーデレ

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ぽルカで小話


短いよ!


**********




「巡音」

「なんですか」


「……あの、何というか、顔が怖いんだが」



 楽譜を片手に、僅かに顔をひきつらせながらがくぽは言った。






  きみにラブソングを






「……そんなことは有りません」

「えええ」

「全然全くちっともそんなことはありません。笑顔です」

「そこまで盛大な嘘久しぶりに聞いたぞ」


 涼やかに言い放つルカと手の中にある楽譜とを矯めつ眇めつ、眉を寄せてがくぽは溜息を吐いた。
 珍しく苦々しい形に寄せられたその眉根を見て、ルカは自分の手の中にもあるその楽譜に目を落とす。

『がくぽくんとデュエットすることになりましたから』と言われ、マスターから手渡しされた楽譜はどうやら二人のマスターのコラボ作となっているらしい。流れるような可愛らしいメロディラインに、妙にドスの効いた歌詞が連なっている。マスターの幻想狂気への飽くなき探求は一体何なのだろうか。むしろあの人まともな曲が作れないだけなんじゃないのかなどと想いながらルカはその歌詞をたどる。
 随所で若干物騒な言葉が見て取れるが、それらは確かに愛の言葉。
 ラブソングだ。


「……」


 ルカはどんな曲だろうとあくまで仕事は仕事、と割り切るよう心がけている。
 知ってのとおり、彼女のマスターは血しぶきの飛ばない歌詞を書くほうが珍しいような人間だし、多少の折り合いを持たなければ遣っていけない。
 だから、それが例え好意的に想っているがくぽを相手に取ったラブソングだからといって、恥ずかしいだとか照れくさいだとか、そんなことはない。

 決して無い。

 断じて、








「そんなことはありません!」




「……そ、そうか」





 絶対に、ないといったら無いのだ。







**********

だから短いって!



我が家の連作ボカロ家族のルカさんは一体全体何デレなんだろうかと小一時間問いつめたい
クーデレとかのつもりで書いてたんですけど クールどこ行ったし







ドSなルカ様とそれに踏まれる跳ね返りがくぽとか書いてみたいですが一体全体どこに需要があるのかしら
というかどれだけ想像しても十八禁にしかならない。
駄目だどんなにソフトにしてもルカ様ががくぽを監禁しやがる! 飛んだ誘拐だよ! ラブラブのかけらもねぇな!




後最近書きたいのが(鏡音双子)×(ルカ+がくぽ)
あくまで後ろ二人はプラス

こうリリースされたばかりでまだ精神的には子供の二人に、だいぶ成熟して精神的には大人な鏡音がそれぞれ何か劣情的な物を抱いてる感じ。劣情ってもうちょっと言いかたなかったのか私
基本はリンぽとレンルカだけど、ちょっとした拍子で百合にも薔薇にも走りかねない

そんでもってぽルカはふつうに仲良しだといいよ!なんにも知らず二人仲良くおうたうたってる所見て鏡音の二人がハート打ち抜かれてたらいいよ!
この場合カイメイミクは「あの四人は癒し系だねぇ」「そうだねぇ」って鏡音ズの劣情も知らずに和んでいたらいいよ!だから劣情ってもうちょっとなんか無いのか!
しかしどこまで語ってんだ私気持ち悪いな!


最近もうルカもがくぽも好きすぎてどっちかが画面にいたら割と幸せです
幸せやっすい!激安い!

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グミのことは好きです


好きですがキャラが掴めません
めぐぽって呼び方はかわいいと思うんですよ




**********



 掴めないひとがらだよなぁと、グミについてミクは思う。
 まぁ、彼女の周りにはマスターをはじめとしてその友人、彼女自身の家族をも含め、がっちり掴める人という人がいたならばそちらの方が少数派なのだが。



「にっんじっんケーキ! にっんじっんケーキ!」

「じゃあ私はー、抹茶パフェで」

「あーパフェいいなぁ」

「じゃあ半分こしよーか?」

「おっ! その発言待ってました!」

「……グミちゃん、ねらってた?」

「えへへ」




  がぁるずみーつらぶらぶあっぷる!!





「うまぁー」



 モムモムとご満悦という表情でオレンジ色のスポンジを頬張る姿は、ほとんどミクと歳差のない少女のように思える。

 けれどしかし、大人しか参加させて貰えない飲み会にちゃっかりと参加している辺り、もしかしたら成人型なのかもしれない。そんな風には見えないけどなぁ、とパフェ用スプーンを口にくわえながらミクは思う。たとえばルカやメイコは絶対に成人型だと言い切れる。けれど目の前にいるグミは、何だか仕草も幼いし挙動も決して落ち着いているとは言い難い。まだミクの方が落ち着いている自負があるくらいだった。

 むうむうとうなっている内に、もしかして成人型かそうじゃないかって胸で決まったりするのだろうか、などと変な方向へと思考が飛んでいく。確かにグミはそれなりにそれなりなものを持っていらっしゃる。ミクだって別にそこまで小さいわけではないが、どちらが大きいかと問われれば十人中十人がグミを指さすだろう。
 それは事実だし、ミクは一般的な初音ミクよりもそういった事に対してコンプレックスを持ったりはしていなかった。どちらかと言えばどうでもいい類の事象に入っている。「やたらとあってもじゃまだと思うぞ私は。けしからん。しかしもっとやれ」というマスターの発言の影響を多大に受けているとかそういうのではない。受けていたらもうちょっと悩むし、あの人物の発言で思い悩んでいたらAIがすり減って機能が停止する。

 そんな下らないことを考えていると、ぼおっと見つめられているのに気づいたらしいグミがかくんと首を傾げてきた。



「ミクちゃん? どしたの?」

「あ、ううん。グミちゃんもう一口食べる?」

「えっ、くれんの? やった! 食べる食べる、あーん」



 あーん、と開いた口の中に抹茶アイスとクリームとコーンフレークの混ざった物を放り込む。
「じゃあミクちゃんにももう一口ー」と差し出されたオレンジ色のケーキをこれまたあーんして食べる。
 ミクはグミと仲が良いのだ。

 きっかけは、グミがミクをとあるホテルのケーキバイキングに誘ったことだった。
 マスターの知り合いがくれたらしいんだけどさあ、マスターもめーこさんも甘いの嫌いなんだって。お兄ちゃん達にやるのは癪だからさ、ミクちゃん一緒に食べに行かない? という非常に(ミクの)設定年齢相応なお誘いに、ミクはぱちくりしてしまった。

 甘い物は好きだ。
 ケーキバイキングなんてこの世に存在する天国みたいなものだろう。

 けれど、それまで別に其処まで接点があったわけでもないグミが、なぜミクを誘ったのか。
 まぁ真実を言ってしまえばそのお誘いは、ケーキバイキングのチケットを運良く手に入れたグミがミクと仲良くなるべく立てた計画だったのだが、そんな事はミクは一切知らない。

 取りあえず、彼女が食事をするのは完全に趣味の域だったので、こうしてつきあってくれるひとが出来たのは大変喜ばしいことであった。







「で」

「で?」

「そろそろ本題に入ろうか、ミクちゃん」



 人参ケーキと抹茶パフェをそれぞれ食べ終え、お代わり自由の紅茶を一杯飲み干し、新しい中身が運ばれてきたところで、グミの瞳がぎらりと光った。



「……本題、ね」相対するミクも、いい具合に足を組み替える「そうだね」



 かたりとミクのカップがソーサーに置かれた。



「兄さんと姉さんの進展はどうよ?」

「お兄ちゃんとルカさんはー?」




 初音ミクとmeguppoido

 通称頭緑同盟は、全力で他人の恋愛模様を出歯亀する。








**********

グミとミクは正統派オンナノコずという感じで好きです
カフェとかでお茶してるイメージがめっちゃ強い
普通のJKみたいな感じで

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ぽルカ!
ぽルカ!



**********




 ぱんっぽーん、と

 チャイムが鳴って、出た先に居たのは見慣れた桃色のロングヘアだった。
 うつむきがちに手の中の包みを気にする様子は、まるで成人型には見えない。



「ルカちゃん? どうしたのー?」

「あ」ば、と顔を上げたルカの表情が一瞬タイムラグを作ったのを認識「カイト、さん」



 んんん、とカイトはほほえみを作りながら少し複雑な気分になる。別に良いけどさ、がっかりした顔されるより。
 当のルカは持っていた手提げをがさがさやりだし、陶器で出来た保存タッパーを見せた。半透明のふたからは、チョコレートの色が見て取れた。
 ケーキか何かか、と目敏くチェックする。マスターもカイトもがくぽも、揃いも揃って甘い物に目がない一家な事をルカは知っているため、時々こうして差し入れを持ち込んでくれるのだ。

 発揮できない若干のえこひいきを伴って。



「あの、これ。ケーキを作りましたので、みなさんで召し上がって下さ」

「ちょおっと待て! 今連れてくるから!」


「へ?」




  お茶にしょうか





「がくぽがくぽがくぽがくぽ」

「何だ何だ何だ兄者、髪ひっぱるな痛いだろうが」

「早く! 早く来なさいお前!」

「いだだいだだだいだ抜ける抜ける抜ける」



 今でテレビを見ながら今にもスリープに入らんとしていたがくぽを引っ張り、ルカの元まで引いていく。どたどたと成人男性二人分の足音が響いて、ご近所さんごめんなさいと内心でカイトは謝罪した。
 ぽかんと玄関で待ちぼうけをしていたルカは、がくぽが現れると共に身をぎゅっと固めた。細い肩が怒り、顎を引いて右斜め下を睨みつける格好。
 がくぽもがくぽで寝ぼけかけた顔でカイトに思い切り引っ張られた髪を気にしている。

 相対しながらも全く視線の交わらない二人に、少しは気まずさを感じても良いのだろうが、カイトはあえて気付かないことにした。むしろ気づいてたまるかと若干やけになっている。
 ぐいとがくぽの髪を引っ張った。「いたい」の悲鳴には完璧な無視をかます。
 そうしていつだかアカイトにも伝授したにっこりスマイル。



「ほらルカ! がくぽ!」

「……ですわね」



 いやだから何だよというつっこみを入れるはずだった彼らのマスターは、胃痛と闘いながら仕事に励んでいた。後々カイトからの報告によりこの時の状況を知った彼が、うわその場唯一のつっこみに成らずに済んで良かった、仕事gjと二十数年間の人生で初めて労働していたことに感謝した事はただの与太に過ぎない。

 手を広げてがくぽを指し示し、満足そうに言う兄妹機をどう思ったのか、ルカの対応はひたすらに冷淡。もしも大人の遠慮という物がなかったら「だからなんだってんだ」とでも吐き捨てそうな勢いだ。
 だがしかしカイトは全く動じない。伊達にコミュニティ内で最古参を貼っている訳ではない。いろんな開き直りには定評がある。
 うろうろと視線をさまよわせるルカの手からトートバックを受け取り、奥を指し示す。



「まぁ取りあえずルカ、上がってってよ」

「え、ちょっと待て兄者、俺何で呼ばれたんだ。ちょっと全然意味が分からないんだが」

「今日風強かったでしょ? 暖かいもん淹れるから。これケーキ? ちょうど良い、おやつにしよう」

「兄者? おい兄者聞いてるか? 聞いてないな?」

「がくぽルカの荷物持ってあげて。俺、皿とか用意してくるから」

「なぁこれ俺怒ってもいいんじゃないか」



 ルカから取り上げた鞄をがくぽに押しつけ、二人をほっぽって台所へと舞い戻る。
 手早くポットからケトルにお湯を移した。がたたんと慌ただしい音を立ててコンロへおろす。確か先週ワゴンセールになっていた茶葉があったはずだ。アールグレイなら、取りあえずはずれはないはず。

 外部端末が暖まるのはよいことではないが、其れでもカイトは温かいお茶を飲むのが好きだった。
 それがなんだか正しい形のように感じられるのだ。
 AIの端にこびり付いたバグのような違和。



 いい加減来客用のティカップを用意するようマスターに提言しようと心の底から考えながら、三人分のマグカップを用意した。ルカの分はマスターのもので代用する。
 鼻歌(トマト嫌●の歌)を奏でつつ、戸棚からティポットを取り出した。カイトの片手でも収まらないようなそれは、明らかに一人暮らしには大きすぎるサイズだ。あんたはイギリス人かというマスターへのつっこみは随分前に済ましていた。
 ポットからお湯を注ぎ、ティポットを暖める。



「あ、ルカ、紅茶でいいよね」

「……はい、構いません」



 一言も喋らないままにリビングへとやってきた二人にそう問いかけた。
 ぼそりと応えるルカの視線は相変わらず右斜め下を睨み続けているが、その表情はさっきよりも幾分柔らかい。がくぽの服の端をちょいと摘もうとしているところもポイントが高い。いいなぁオイ、俺だってめーちゃんにそんなことして貰ったこと無いぞ。なにを言ったのか知らんがよくやった弟よ、とカイトは背中に回した手で密かにガッツポーズを作った。



「じゃあこれ切るけど、がくぽフォーク配って」

「ん、わかった」



 お気に入りらしい陶器の容器から現れたのは、ごとりと重たそうなガトーショコラ。おお旨そう、と期待に胸を膨らませながら皿に移すと、台所をのぞき込んだがくぽの顔がひくっとひきつった。
 まるでトラウマでも引っかかれたかのそうなその顔に首を傾げる。



「どうしたがくぽ」

「あー、いや、なんでもない」

「あ、あのカイトさん、生クリームがあるんですが、トッピングいたしますか?」

「なんでそんなの常備してんのルカ」









**********


あ、あれぇ……ぽルカ……?



カイメイとぽルカはもう四人で仲良し仲良しなイメージがあるのはいいんですが、どっちかで話を作ろうとするともう片方も出張ってくる罠
大人組が大好きすぎるにも程がある



拍手[7回]


カイメイとはいいものです
ぽルカもいいものです

総じて、大人組とはいいものです



子供たちも大好きだがな!



**********




 間抜けな歌声がリビングに響く。




  ダーリンダーリン!






「ねっえだーりん♪」

「……」

「こっちむーいて♪」

「……兄者」

「んだよう、何でおまえがこっち向くんだよ。おまえは俺のダーリンかコラ」

「兄者、戻ってこい。現実に戻ってこい」

「ハニーって呼べよ。ダーリンなんだろええコラ。給料三ヶ月分のリングしか受け付けないぞ」

「兄者、キャラが可笑しい……というか俺たちは給料とか貰ってないぞ」

「なんだと?! 雇用の改善を申し立てーる!」

「まず雇用されていないが」


 カイトと爛れた会話をしながらも、がくぽの両手はてきぱきと動く。
 会津家に購入され叩き込まれた同人アシスタントテクニック保持者の悲しい性だったが、そんな事はあんまり知らないメイコの目にはなんか凄く手際いいなぁという風に映っていた。

 台所には芳しいチキンライスの匂いが漂っている。


「チキンライスって若干鳥南蛮と匂い似てるよね」

「そうだな」


 がくぽはなんかもう訂正する気にもならないらしい。

 椅子に逆向きに座りぐったりとするカイトを見もしない背中を見ながら、メイコはううむうちにも料理手がほしいと考えていた。
 彼女のマスターは一人暮らしの学生らしく適当に料理をするにはするがやはりお粗末感は拭えないし、メイコには基本居酒屋のつまみ的レパートリーしかない。同居するグミに至ってはニンジン関連の料理しか作らないし作ろうとする気も感じられない。
 すると、人同様食物でもエネルギーを充填できる彼らの食卓は、近所のスーパーでニンジンが大売り出しをしてグミが腕を捲ったりでもしない限り、所謂インスタントと呼ばれる物が主食になるのだ。グミや自分はともかく、マスターに対してそれは非常に良くない。若いとは言え、栄養が偏れば健康も偏ってしまう。

 しかし自分が目の前の彼らのように料理をマスターするのは、なんか負けみたいな気がする。

 主に、ボーカロイドとしての尊厳的な意味で。



「兄者、塩どこだ」

「はぁ? 普通にその辺にあるでしょ、ほら」

「いや、この前買った岩塩のあれは」

「あーはいはいあれね。いれるの? そっちの棚の奥だけど。えっと、マヨネーズの買い置きの隣」

「む、ちょっとフライパン見といてくれ。もう一品なんか作る」

「はいよー。味付けもしとくよー」


 カイトがのそのそとダイニングに入っていくのをソファから眺めていると、ふいに手招きをされる。
 片手に携えていた鬼ころしの紙パックを机に戻し立ち上がると、木ベラにのったままのチキンライスを差し出された。


「めーちゃん、味見する?」


 がこがことフライパンを揺すりながら、カイトはへなりと笑う。

 ほかほかと湯気を立て、良い匂いをたてるそれにつられメイコが思わず頷くと、「あーん」と差し出された。こいつはこういう事を平気でするよなぁといっそ感心しながらメイコもそれに応え、口を開く。


「んー」

「どう?」

「ちょっと薄いわね」

「そっか。でも今から塩入れるんだしなー……ガラムマサラでも入れよっか」


 がさがさと片手で棚を漁り、小瓶を取り出す。
 がくぽと同等かそれ以上に良い手際で味付けをすませ、流れるような手つきで自らも味見。

 ううん、やっぱり料理は覚えたら負けな気がする、とメイコはそれを見守った。


「……あんたさ」

「んー? どしたのめーちゃん」

「うちに嫁ぎに来ない?」



「……」

「……」

「……えっ」



























「姐さん何いっちゃってんの?!」

「よぉしカイトなら持ってってもいいぞ倭文! 俺は愛宕からルカちゃんをいただく!」

「何言ってるんですか先輩の所なんかにルカは嫁がせられません。がくぽくんを婿に下さい」




**********

どういう状況なんだろう。


我が家の姉さんはなんとなく言葉足らずな感じ。
頭では色々考えてるのに面倒くさいとかそんなんで殆ど口に出さない。
後ジュースのように紙パック酒を飲む

メイコとグミのマスターは学生さん。一番普通っぽい設定。
マスターズの設定ってさぁ…需要、あるのかなぁ…

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リクエストをいただいたがくぽ×ルカ


特に指定は無かったので、もうフリーダムにしようかとも思ったのですが、
まぁそんなにフリーダムでもなく、前から書きたかった相互ツンデレのぽルカ

いいよね相互ツンデレ。初々しくて


ぐみたん視点。ぐみたん語り

**********



 こんにちわ、グミです。
 グミはがくぽさんというひとの妹なんですが、ちょっとそのお兄ちゃんについて、聞いてくれませんか?
 あ、がくぽがグミのお兄ちゃんなんではなくて、グミががくぽの妹なんですよ。それだけは絶対に譲れない事なんです。
 って、そんな風なグミのこだわりは置いておきまして、ちょっと聞いて下さい。






  いい加減にしてよね!






 お兄ちゃんとグミのお友達はだいたいが共通しているのです。例えば、ミクさんとか、MEIKOさん、リンちゃんなんていうお友達はみんなお兄ちゃんから紹介していただいて、仲良くなったんです。そのかわり、グミのお友達もお兄ちゃんに紹介しているんですよ? mikiちゃんや、キヨテル先生とか。
 その中の一人にルカさんっていうお友達がいるんです。
 ルカさん、知っていますか?

 あの髪が長くておっぱいが大きい綺麗なひとです。
 グミはあのハスキーな声が大好きなんですが、それはどうでもいいですね。

 どうやらお兄ちゃんはあの人が好きで、ルカさんのほうもお兄ちゃんが好きみたいなんです。


 ……え? 両想いだから? さぞラブラブだろうって?


 とんでもない!
 あの二人と来たら、顔を合わせれば喧嘩、喧嘩の嵐で、素直になるなんてもってのほかなんです!
 聞いて下さいよ、この前だって、










『何よ、この茄子っ!』

『せらしい、蛸女がほざけ!』






 その、ボーカロイドとしての美声を無駄遣いした怒鳴り声を聞いたとき、グミはああ、またかぁ、って思いました。



 その日も、お兄ちゃんとルカさんは、言っちゃあなんですけど低レベルな、幼稚園児みたいな言い争いをしていました。確か原因は、お兄ちゃんの腰に付いた美振がルカさんに引っかかったとか、そんなくっっだらないことだったはずです。
 お兄ちゃんが謝れば済むことですし、ルカさんもそこまで激怒するほどのことでもないですよね?
 なのにもう、今にもつかみかからん勢いでの罵声の応酬に、グミはちょっとうんざりしてしまいました。

 パソコンの中のみなさんは二人が喧嘩するのはいつもの事って分かっているので、もう日常みたいになんとも思わないんですけど、やっぱり喧嘩は良くないって、一応頃合いを見て仲裁するようにと取り決めをしてたんです。
 なので、グミも二人が息切れをするくらいの頃を見計らって、間に割り込みました。

『二人とも喧嘩はやめて下さい。お兄ちゃんが謝れば済む話でしょう?』と恐らく幼稚園児でも思いつく解決策を提案したんです。まぁ、ヒートアップしたお兄ちゃんが謝るとは思えませんでしたし、もし謝ったとしてもルカさんも引っ込みが付かないだろうって、分かってはいたんですがね。
 何だかんだ言って、そういうのが一番効果があるかなあって、何となく思っちゃったんです。


『五月蠅い、メグは黙っておれ! 口出しをするでない! 下がれ!』

『あう』


 お兄ちゃんにびしりと言われ、思わずグミは身を引いてしまいました。
 こんな時ばかりにお兄ちゃんの殿属性は遺憾なく発揮され、泰然とした立ち姿から放たれる声はまるで威圧感の無駄遣いです。それに相対するルカさんも限りなく威風堂々という感じで、女王様の無駄遣いという感じでした。この二人はいろんな物を無駄遣いしすぎだと思います。
 二人ともその迫力をガチ曲に注げばいいのにとグミがたじろいでいると、急にぐいっと引っ張られ、奇跡のように柔らかいものに頭を押しつけられました。耳のすぐそばからルカさんの声がして、ああルカさんのおっぱいだと気づきました。なんかすごいいい匂いでした。フローラルの化身って感じで。


『グミちゃんに八つ当たりしないでよ! かわいそうでしょ!』

『はひ?』

『っ八つ当たりなど、――大体、お前が我の周りをうろうろとするのが悪いのだ!』

『誰があんたなんかの周りをうろうろするのよ! それはこっちの台詞だわ! 何よそのカタナ! じゃまなのよ!』


 ぐいぐい、ルカさんはグミの頭を胸に押しつけます。
 もうふわっふわで再現して枕として売り出したら世紀の大ヒット間違いなしの感覚でした。

 ちなみに、ルカさんもお兄ちゃんも、お互いに話しかけようと無意識に近付きあっていることに気付いていないようです。
 確かに会話をすると言う目標は達成していますが、これ、なんか違う思います。

 好きな子を虐めちゃう小学生の男の子みたいなものかなぁ、とグミは考えているんですが、お互いがお互いそんなんなので手に負えません。


『っ貴様、美振をっ!』

『あー! やんなっちゃう! グミちゃん、行くわよ! こんな似非侍の言う事なんて聞いてる事無いわ!』

『え? え?』


 ぐいとまたグミの腕を引き、ルカさんはずんずんとフォルダから出て行きました。そりゃもうぐいぐいと引かれながらお兄ちゃんを振り向くと、お兄ちゃんは毒気を抜かれたような、はと我に返ったような顔をして立ちすくんでいました。
 ずんずん歩いて、一体何処に行くのかなと思っていたら、どうやらデスクトップのようで、着くなりルカさんはグミの手を離して自分の顔を覆いました。
 ずるずると崩れるようにしゃがみ込む様子はまるで小さな子供みたいで、ちょっと可愛いかなぁなんてグミは場違いに思ったんですが、どうでもいいですね?


『なんで、上手く喋れないのよ……』

『あ、あのー』

『あっ、グミちゃん、ごめんね、引っ張って来ちゃって』

『いえぇ、それはいーんですけど、あの、お兄ちゃんがごめんなさい』

『え』

『お兄ちゃん意地っ張りだから、一度言っちゃうと引っ込みが付かないみたいで、あの、多分悪気があった訳じゃないんです』

『え』

『だからグミが代わりに、あの、ごめんなさいです』


 グミがそう言うと、ばっとルカさんは顔を上げました。
 何かすっごい目が据わってて怖かったです。


『違うわ、違うの。貴方達は全然悪くないから……of all、あ、私が、全然別に痛くもないのに大袈裟に、あの人を、困らせてしまったから……あう、Why did...know...そんなつもり、ないのに。仲良く、ううう』


 後半はぶつぶつと自分に問いかけるようにしながら、ルカさんはうつむき、よろよろと自分のフォルダへと行ってしまいました。
 その後ろ姿を見送ってから、グミはため息を吐いて、お兄ちゃんを残してきたフォルダに戻りました。

 案の定、お兄ちゃんはぼうっと手の中の扇をひたすらに、閉じたり、開いたりしているんです。扇をいじるのはお兄ちゃんの落ち込んだときの癖で、だからお兄ちゃんがすごく凹んでいるのがグミにはすぐわかりました。


『……メグ』

『ちゃんと謝らなきゃ駄目じゃん』


 強いて強い口調でそう言うと、お兄ちゃんはおもしろいくらいにしゅんとしてぱたんと手の中の扇を閉じました。
 垂れ下がった目尻で眉根を寄せ、メグを見上げるようにします。


『……分かっては、居るのだ』

『お兄ちゃん、一体幾つの設定にされてるの』

『分かって居る。ぶつかったのは我の方だ。ルカ殿は何も悪くない……ルカ殿の周りをうろうろして居ったのが悪かった。話しかけようとして、居たのに』


 その言葉に、グミは思わず目を見開きました。
 お兄ちゃん、自覚があったんですか。


『どうして上手く行かぬのだろう、メグ。どうすればルカ殿と諍い無しに話せる』

『……グミに聞かないでよ』






 ああ、もう全く。
 大体そんなに喧嘩ばっかりしてる方が可笑しいんですよ。ねぇ?

 その後お兄ちゃんがルカさんのフォルダに入っていくのをみましたから、一応は仲直りできたみたいです。
 その次の日の朝ご飯でまた喧嘩したらしくて、今度はルカさんに『どうしたらがくぽさんと仲良くできるのかしら』と泣き泣き相談されてしまいました。





 二人とも、いつもいつも、飽きもせず、
 喧嘩して悩んで仲直りして、



 だから、もう、早くつきあって結婚でも何でもしちゃえばいいとグミは思うんです!
 お互い好きなくせに、迷惑ったらないですよう!


 もう殆ど惚気みたいな相談をされるグミの身にもなってください!


 あっ、笑いましたね?! 酷い!
 代わってくださいよ、辛いんですよう?!














  いい加減にしてよね!

   (応援はしてあげる気満々だけどさあ!)



**********

リクエスト、『がくぽ×ルカもの』
何かぐだぐだ

殿口調のテンプレがくぽがすごい楽しかった。いいなぁ殿口調も、楽しいなぁ。文語っぽいしゃべり方もいいと思うんですが。
がくぽのしゃべり方はいろいろバリエーションあって良いですよね。そのうち爺口調も書いてみたい

相互ツンデレのつもりでしたが何か違う気がしてならない
まぁ、我が家設定ではあり得ん感じのやりとりができたので良かったです


という訳で、リクエストをしてくれたmuniさま、こんなんでよければお好きにお持ち帰りくださいませ

引き続きリクエストは募集していますので、してくださる方は専用記事のコメントかメールフォームまでどぞー

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バレンタイン話




**********




「神威っ!」


 だーん、と、机に叩きつけられるようにして陶器の器が置かれた。
 置いた張本人は、長い桃色の髪を振り乱し顔を隠している。
 怖い。夜叉だ、夜叉。



「チョコです! 食べなさい!」







  sweet×bitter×sweet










「……は?」



 思わず間抜けな声でそう言ってしまった。
 ええと、と時計を確認する。
 朝の七時八分。主人に影響され、爛れかけた生活を送っているがくぽにとって、起動しているのが奇跡のような時間だ。実際、ほとんど起き抜けのような状態で、AIも暖まりきっていない。
 こんな時間に起きたのは久しぶりだな、と目を擦りモノアイの洗浄を促す。くああと疑似的なあくびが洩れた。

 確か昨日はマスターが珍しく出勤をして、朝帰りを通り越して一泊の夜帰りになりそうだと連絡があったのだ。
 なら、自分が同居人のカイトを起こしてやらねばならないのか、と面倒くさく思う。



「……神威っ!」

「うぁい!?」



 一気に意識が引き戻された。
 がくぽをリビングまで引いてきた薄桃色は、相変わらずわなわなと小刻みに震えていた。だんだんとAIが暖まり、記憶がつながり出す。
 そう、そうだ、自分は彼女に揺り起こされたのだ。
 その際に朝女性の声に起こされるという、ある意味異常な事態にあらぬ事を口走った気がするがそれは忘却領域へ投げ捨てた。



「チョコレート、です」

「お、あ、ああ、うん……」



 何で彼女が此処に居るのか、というのはこの際もう気にしないことにした。住宅侵入など彼女にとっては造作もない行動なのだろう。
 兎も角、先ほどから再三言われているチョコレートの六文字だ。
 おそらく、この陶器の容器の中身のことを指しているのだろう。
 擦り硝子の蓋からはうっすらと茶色い影が見える。


 彼女はこれを食えと言っているらしい。



「あの、巡音?」

「なにっ!」

「とりあえず、座ったらどうだ?」

「――……っ座るわよ! 座らせていただきます!」



 巡音さん敬語キャラ崩れかけてますよ

 そんな事がいえる訳も無く、とりあえず何か飲み物でもと入れ替わるように立ち上がり、台所へと向かう。
 どうやら先ほどまで座らされていたのはダイニングの机らしいと、移動してから初めて気づいた。いつも履いているスリッパが無い。冷たい木目が足の指を冷やした。



「コーヒーに砂糖、入れるか?」

「……ミルクを」

「あいわかった」



 来客用のマグカップなど無いので、青いカイト用のものと紫の自分用のものにインスタントコーヒーを淹れる。
 瞬間湯沸かし器から湯気が飛び出る。
 冷蔵庫から牛乳を取り出し、紫色のマグカップに牛乳を入れてから間違えたとがくぽは動きを止めた。自分はコーヒーはブラックでのみたい人だ。


「……巡音に飲んでもらうか」



 マグカップを持ち、ダイニングに舞い戻る。物音を聞きつけ、机に突っ伏していた薄桃色が跳ね上がりこちらをみた。
 とりあえずその前に紫のマグカップを置いてみる。
 見事に視線がつられていた。



「とりあえず、飲むとよいよ」

「……ありがとうございます」

「いや」



 自分もまた向かいに腰掛け、青いマグカップを呷る。
 彼女はぎこちなく紫のマグカップを眺め、壊れものに触れるように両手で持ち上げて一口した。



「あの、神威」

「ん」

「チョコレートケーキ、作ったんです」

「……ケーキ」



 ず、と細い指が押しやるように容器をがくぽの方へ移動させる。
 指の主はマグカップに手を添えたままうつむいていた。



「知ってますよね、バレンタイン」

「ま、ぁ、一応は」

「食べて下さい」



 今、此処で、全部。

 蓋をあけると同時に付け足された言葉に、思わずひきつった笑みが漏れた。
 容器の中には、がくぽの顔ほどもあるチョコレートのケーキがずっしりと存在感たっぷりに鎮座している。



「巡音、これは……」

「恥ずかしいですから、早く。早く食べなさい。誰かに見られる前に!」

「でも、この量はちょっと、許容範囲が……兄者やマスターと食べてはだめだろうか」

「だめです!」

「えぇ……」

「カイト兄さんや会津さんのために作ったのではありません!」

「は、」

「神威の為に、神威に食べてほしくて……作ったんだから」

「……」

「神威に、……」



 其処まで言うと、あう、と言葉がつかえたように黙りこくってしまう。





 巡音さん、それは少し反則ではないですか



「……」



 深いため息を吐き、言葉にせずに呟いた。
 相変わらず薄桃色はうつむいて、今日は一度もあのすゞやかな瞳をみていない。




「……あい、了承した」




 既に何等分かされている一切れを取り上げ、口へ含む。

 甘い。
 甘い上、重い。
 重量がある。

 生地にチョコレートとココアが混じり、更にチョコレートの固まりと穀物が混ざっている。
 これをこの量か、とがくぽは苦笑した。


「美味いな」

「……昨日の夜中から、朝までかけたのですから当然です。手間が違います」

「寝てないのか、大丈夫か?」

「平気です」

「そうか」

「平気です……」

「……出来れば、巡音も手伝ってくれるとうれしい」



 がばり、と甘い薄桃色が翻って、初めて澄んだ瞳を見せる。
 うれしそうにゆるんでいたその顔が、一瞬にして引き締まった。



「わかりました……仕方が無いから食べてやります」


「ああ、助かる」




 作る菓子は甘いのにな、とがくぽは微笑む。






ああ、あまいあまい!




**********

甘いよ!
ツンデルカさんらしきもの
いっそただの情緒不安定という見方もある。


ルカさん視点も書きたいなぁ……
書けるかなぁ……

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