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初めて聞いたサイハテがりっちゃんのサイハテで、一番好きなサイハテもりっちゃんのサイハテです
あのウィスパーボイスが好きすぎる



というわけでサイハテss
マスターさんに亡くなっていただきました


どうでもいいけどりっちゃんは旧公式衣装のほうが好きです
喪服っぽさが
ほんとにどうでもいいけど


**********



 そちらはどんな所ですか。
 あたしはどうやら無機物なので向こうへはいけないので、手紙とか書いて教えて下さい。

 ばかなことばかりやっていたマスターですが、手紙くらいなら書けるよね?







  明日への勘違い






 抜けるような晴天の空は憎たらしいほどに綺麗で、かねてから喪服みたいだ喪服みたいだとマスターに言われ続けていたこの服が本当に喪服になるなんて思ってなかったなぁとあたしは考えていた。
 斎場は兎も角、火葬場の中までロボットを入れることは出来ないらしい。新しいマスターはスタッフの人を相手に随分粘ってくれたけれど、なんだかそれがより一層悲しくなって、待っているからと外にいることにした。
 たくさんの人が居るところよりも、外の方がよっぽど気が楽だ。マスターも何時だかそう言っていた。あれは確か、マスターのお母さんが死んだとき。

 親父が生きてて良かった、俺が喪主をしないですんだ。

 そうやって笑って、やっぱり外で待っていた私の隣に腰を下ろして、やっと安心したように泣き出したすマスターは子供みたいで。その内に抱きついてきたのでロリコンと言ってやるとちげぇよショタコンだよと泣き笑いで言われた。

 マスター、お母さんと同じ所へはいけましたか?










「りっちゃん」



 聞き慣れた声が後ろからかかった。振り向くと居るのは、バカみたいに大きなロボット。
 近くに住んでいる欲音ルコだった。

 あたしのことをりっちゃんりっちゃんと呼んで弟、もしくは妹扱いする彼もしくは彼女は、なんでもないようにいつも通りに笑って手を振って見せた。
 がさがさと植え込みを難なく乗り越え、私の座るベンチに腰掛ける。
 歌うときはいつも女性の声の彼女もしくは彼は、どうやら会話は男性の声でするらしい。大分ややこしいけれど、九割男なんだから当然といえば当然かもしれない。
 あたしは地声から変わらないけど。


「りっちゃん、行くあてある?」

「え?」

「なんなら家においでよってマスターが言ってたからさ。それ良いに来たんだお」

「……新しいマスター、出来たから。ありがとうって言っといて」

「へえ? ご家族?」

「ますたーの……恋人予定の、ともだち」


 そう言うと、へえ、とルコは可笑しそうに笑った。
 おいて行かれたもの同士、仲良くしようねとロボットのあたしに笑いかけたあのひとを思い出す。
 DTMは素人らしいけれど、絶対音感があると生前マスターが自分のことでもないのに誇らしげに言っていたから、マスターよりも良いマスターになってくれそうだ。
 生前マスターがあんなにも慕っていた彼女は、マスターの為に泣いてくれて、あたしのために笑ってくれた。
 いい人だ。

 ほんとうにいいひとだ。



 あーあ、マスター、折角両想いだったのに、キスどころか手も繋ぐ前に死んじゃって、告白さえ出来なかった。だからさっさと告っちゃえって言ってたのに。
 今年のクリスマスこそは祝ってやるを歌ってやらずに済むと、あたしも安心してたのに。


 安価でどんなメールを送ってもさらりとかわすような、クオリティが高い上に美人な恋人なんてマスターには勿体なすぎたのかもね。



 どっちにしろ、祝ってやるはもう歌えないけれど。



 マスターの葬儀に出る前に、VIPの書き込み欄に残ったクッキーを使ってコテ雑に書き込んできた。クソコテをやっていたマスターの代わりに『彼女出来たからVIP卒業するわ』と草を生やすと、沢山の『死ね』だのの恨み言が安価をつけて送られてきた。
 もう死んでるよなんて言えるはずもなかった。




「ふーん」



 うつむいた私をどう想ったのか知らないが、ルコは曖昧に笑った。
 かすかに珈琲の匂いがする。



「俺、ロボットだからさ、死ぬこととか、そういうの、あんまり良く分かんないんだけど」



 ぐしゃ、と帽子をよけるようにして頭をなでられる。
 九割男の、大きくて骨っぽい乱暴な、でも一割女の柔らかい手のひら。



「多分泣けるなら、そういう機能があるならさ、泣いていいんだと思うよ?」



 ぐしゃりぐしゃりと遠慮もなくあたしの髪をかき混ぜる。
 あんまり乱暴なその手つきに涙がこぼれそうになったけれど、必死で其れをのみくだした。
 空を見上げると突き抜けたみたいに青い空に、微かな煙が昇っていくところで。
 マスターの体を燃やして出来た煙が雲になっていく。馬鹿の象徴みたいだったマスターが『ちょっと酸性雨ふるぼっこにしてきてやんよ』とでも笑っているような気がした。


 あたしの隣でおんなじように空を見上げるルコの片目がやたらと綺麗に空を写していて、ああきれいだと素直に思った。

 マスターの姿が赤く色づいて駆けめぐっていく。




 無意味に夜中に全裸で走り回るマスター。
 
 なんか急にもやしを買い込んでそれをうpするマスター。

 自殺実況のスレに本気でつられて必死になるマスター。

 安価で二階から飛んで骨折したマスター。




 ……なんか涙が引っ込んできた。





 白黒だった世界にぽたんと落ちた変な色のようだったマスターへ。
 あたしはどうやらあなたが初恋でしたが、それを認めるのはなんだか悔しいです。
 いつだかまたあえたら、全然悲しみに酔えなかったって文句を言ってやろうと思っているので、覚悟しておいて下さい。



 そう思っていれば、まだなんとか涙をやり過ごせそうな気がした。







**********

たおやかな恋でしたー  は何処行った。
もう知らん

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根岸さん宅の初音さんとは関係ない初音ミクと、我が家設定のアカイト
そろそろいろいろ纏めた方が良い気がしてきた
まずはマスターズの設定だよなぁ……



**********



 そのこと出会ったのは三ヶ月前の晴れの日で、亜種の外部端末を珍しがった彼女が声をかけてきたのが始まりだった。
 そのこはオーソドックスな初音種のかっこうをしていて、おれの知る初音よりも随分短い髪――あたまのうえの方で髪を結んだら、肩にかかるかきわきわといった具合だ――が印象に残った。

 彼女が頭を動かして笑ったり歩いたりする度、その髪がはさりはさりと翻って、それがいやに眩しくて。






  かわいいいもうと





 みく――はつねと呼ぶと初音と被ってしまうため、この呼び名が採用された――のマスターはどうやらふつうの会社員をして暮らしているらしい。マスターは時々しかかえってこない。そんなに時間やお金に余裕があるわけでなし、寂しいから程度の理由で不用意に新しいボーカロイド、家族が欲しいだなんていえない。せめて日中くらいは、自由にしていていいよと許可をいただき、外出しているのですと彼女は言った。
 せっかく知り合ったのだからと入ったカラオケボックスの中でそんな告白をされたおれはぽかんとしてしまい、ええとじゃあおれはなにをはなそうか、かぞくのはなし! と何だかばかな判断をしてしまったのだ。
 みくにマスターしかいないように、おれには家族達しかいない。ネットの海を渡るのが得意な兄貴なんかは、家族以外のVOCALOIDやサイバーロイドの友達を何人も持っているが、苦手なおれにはそれができない。

 拙い言葉で伝えたルカやマスター、兄貴やぐみの話を気に入ってくれたのか、みくはころころと笑ってくれて、おれはなぜだかそれが酷く嬉しかった。


 後から兄貴に聞くところによると、始音種というのは初音種や鏡音種、時には巡音種にさえも庇護意識を持つようにプログラミングされているらしい。ルカに庇護感情をもつなんてぜんぜん考えられないはなしだけれど、おれとて一応、変色パッチをあてられ亜種端末を使用しているだけで中身自体はただのKAITOと変わらない。




 だから、あの時みくがうらやましいなと呟いて溜息を吐いたのが見ていられなかったのも、

 その細い肩を思わず抱き寄せてしまったのも、

 何となく本当に当然のように「おれがお兄ちゃんになってやるよ」と言ってしまったのも、


 全然不思議なことではないのだなと、思う。
 プログラムなら仕方ないさ、と。



「うん、しょうがないない」




 まだ声は正常にでる。
 ボーカロイドにとってはそれは命で、だから死ぬまで声を失うことはなくて声がなくなったらそれはきっと作動していても死んでいるような感じなんだろう。
 おれはどうやらまだ生きていた。ボーカロイドとして。

 みしりみしりと音を立てる脚部部品を引きずるようにしながら歩く。

 立派な擂り粉木で殴られたそこは軽く変形して、人工皮膚がはがれ、なんか気持ちの悪い機械がのぞいていた。
 手の中にはなんとかまもりきったルカお気に入りの陶器の容器が抱えられている。おれがともだちの家に遊びに行くというと喜々としておかしやらをつくってもたせてくれるのは良いけど、何時か割ってしまいそうだ。こんどからは紙袋ですまそうかなぁなんて考えながら、おれは街を行く。


 いつものように、ボーカロイドであることを示すようなコートやマフラーは今日はしていない。ぱっとみはかぎりなく普通のひとであるおれが足を引きずって歩く様が気になるのか、ひとびとの視線がちきちきと背中を刺す。
 そのうちのひとりと盛大に目があってしまったので、とりあえず笑顔で目礼してみた。逃げられた。失礼なやつめ、おれは痛覚とかないからべつに平気なんですよという意味をこめてみたのに。




 そんなふうによっちら歩いている内に、高級感あふるる街並みのなかにたどり着いた。
 そのなかでもとびきり高級っぽい高層マンションのオートロックのコンソールをふるえる指でたたく。まずいなぁ、と苦笑する。頭部を打った覚えは無いが、指令系統にまでいじょうがでてるのか。これは泊まりがけのしゅうりかなぁ、とルカとマスターへの言い訳を考える。兄貴やがくぽにアリバイづくりを手伝ってもらおうか。



『はい』



 じ、という電子音がして、事務的な声がスピーカーから聞こえてくる。
 さっきまで同じ人工声帯がかなでたこえを聞いていたはずなのに、ぜんぜん声がちがう。何度なれても面白い。
 そんなことを思いながら口を開いた。



「初音?」

『……アカイト兄さん、また?』



 あきれたような、揺れる声がそういった。



「またおれですよ」

『いい加減にしなって、何度言えば分かるの』

「それはちょっとおれにもわかんね。根岸さん居るー?」

『今日はマスタ、仕事で留守だよ』

「まっ、まじで」

『……損壊の具合は? 程度によってなら、私が見るよ』

「んー」



 震える指を見る。
 まぁ、元々不器用だし、歌うのには関係ないか。



「脚部の変形と、人工皮膚の損傷。かえらないでーって折られちゃっ、た」



 機械越しに大きな大きな溜息が聞こえて、自動ドアがゆっくりと開いた。







「わたしから離れてくための足ならいらないよね?」
 そう言ってみくはおれの足に擂り粉木をたたきつけた。みしりというなんかいやな音と、端末の破損を告げる警告音がひどくうるさくて、いやそんなことはないですよたいせつなあしですよということばはさえぎられた。痛みはない。ないけれど、一応体は反応するようにできていて、意味があるのか無いのか、口からポロンっと悲鳴がでた。
 いやだとか、やめろとか、そういういみをない交ぜにしたような、けれど意味を持たない悲鳴。
 みくはおれの悲鳴をきくとだいたい何かヒートアップしてしまうので、ああしまったなぁと思っていたら、ぽたんと落ちてきたのは更なる暴力じゃなくてなみだだった。
 大きな目をもっとおおきく見開いて、みくはぼろぼろと泣いていた。
 慌てたように自分の手の中の擂り粉木を見て、汚らしいものでもさわってしまったかのように投げ捨てておれにかけよる。おれは甲高い音をたてて転がる擂り粉木をみていた。おまえもたいへんだなぁと心中で呼びかける。殴らされたり投げられたり。



『お、おにいちゃ、』



 みくは震える声でそう言った。
 アカイトお兄ちゃんごめんねごめんねごめんねみくこんなつもりじゃなくて、ちがうのみくまだお兄ちゃんに帰って欲しくなくて、あああ足、足、ごめんねごめんね、お兄ちゃん怒らないでみくを嫌いにならないでと泣くみくが何だか酷く酷くあわれでかあいそうなこに見えて、おれはなんだか笑えてしまった。




 何をどうしてこうなったのかと視線だけで問うてくる初音にそうこたえてもいいけれど、そういう訳にも行かないので兄貴直伝にっこりスマイルで応対する。
 顔を背けられた。ひどい。



「私はアカイト兄さんがどこでどんな怪我をしても、なんにも聞くつもりはないよ」



 不意に、治療のためおれを豪勢なソファに寝かせて初音が呟いた。
 その酷く醒めたひとみは、どことなくかのじょの主人に似ている。


「たとえルカ姉さん達に怪我したことさえ秘密にしてても」



 そのひとみが伏せられ、閉じる。



「でもさ……そうやって笑うのは、やめようよ」

「……んー」



 いたいたしいから。

 初音がそう言うのは、きっとおれに対する庇護からだ。
 口では兄と呼ぶけれど、おれと初音の関係はむしろ姉と弟に近い。
 初音は俺という家族を護りたいと思ってくれているのだろうし、また同時におれ自信の自由もまもりたいと思ってくれているのだろう。たぶん。


 そう、たぶんそれと同じで、




「まぁ、約束はしかねる」




 






 おれもみくをまもりたいんだ。
 あのかわいいおれだけのいもうとを。




 みくの平穏が、それがおれ自身を傷つけることだとしたらまぁある程度なら差し出そう。

 ルカがおれにお菓子をつくってくれるように。











**********

やんでれの被害者が似合うアカイト
これ正規設定です


みくちゃんのPはなにげに有名設定
ヤンデレというよりDVに近いと今気づいた!

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人間パロ
人間パロって言葉の響きすごいな

退廃的というか不良的というか排他的というか
いろんなイメージをたたき壊しにいってます


**********



 この日のために買ったカラーコンタクトの色は、あさいあおみどり。
 170色もある色見本から気に入る色を探し出すのは骨の折れる作業だったけれど、これ以上ないほどのお気に入りを見つけられたから、私は満足していた。
 アイラインには幼さを残して、ラメも入れないピンクのシャドウをうっすら入れるだけ。






  ニンゲンのフリしようか









 ガーゼシャツとチェックのプリーツスカートの組み合わせは、正義みたいなものだ。
 カラコンと併せて買ったおんなじいろのマニキュアを塗った指先。
 ステッカーをべたべたに貼ったギターをもって、七分の袖から覗くまっさらな左手首に包帯を巻けば、私は立派な排他的退廃少女になれる。ほんの少し気を回せばそのギターが左利き用なのに気づけるはずなのに、このおまじないをしただけで言い寄ってくる鬱陶しい男の子が七割は軽減されるのだ。

 べつに一緒にお茶をしておしゃべりするくらいなら私はぜんぜん構わないけれど、なぜだかそれ以上を求めてきたりする男の子が後を絶たなくて、私という消費者センターはすっかりまいってしまうのだ。
 ついでに今日はお茶をいっぱいいただこうかしらなんてことをやっている暇もない。


「あーさーめがさめてー」



 最近よくラジオでかかってるアイドル歌手の歌を口ずさむ。
 可愛い曲だ。私にはぜんぜん似合わない。
 そんなことを考えながら鏡をのぞき込む。

 頭の天辺ちかくで二つに結んだ髪は、何かの手違いのような緑色をしている。
 そうだ髪染めようと思い立ってその辺の美容院に入ったら、どんな色になさいますかとぶわーっと色見本を見せられて、何となくそいやっと指さしたのがこの色だったのだ。
 髪が伸びるのが早い方なので、一月に一回は染め直しに行かなくてはならないのが非常に鬱陶しい。
 色は気に入っているのにな、と痛んだ毛先を軽くはじく。

 真っ赤なピンを前髪にぶすぶす差し込んで、いろんな角度からマスカラをチェックしている内に隣の部屋からルカちゃんの「ミクちゃん、たすけてぇ」という情けない声が聞こえてくる。
 ルカちゃんの声は高音の伸びがすごく綺麗で、ハスキーなその感じが私はすごく好きなんだけれど、こんな声ばかり聞いているとなんだかなぁと思ってしまう。
 ルカちゃんは外ではすごくすごく取り繕ってルカ様なんて呼ばれているけれど、私の前では情けなくておっちょこちょいで可愛いルカちゃんでしかない。
 そうも思うと、情けない声もすごく可愛くてちょっとにやけてしまった。


「ミクちゃあん、意地悪しないでぇ、たすけてぇえ」


 おっと、泣きが入ってきた。急がなきゃ。



「はいはいはいはい、今行くよー」



 転がったMIDI用の鍵盤や服やCD、マンガやバックを踏まないように、細心の注意を払いながら私は部屋を出る。
 すぐとなりにある扉を開ける前に、ちょっと見比べてみた。

 私が出てきた扉には『miku's room』とペンキで書かれた金属プレートと、首をつった兎のモービルがぶら下がっていまもまだからからと音を立てている。
 そのとなり、「ミクちゃぁん」と悲鳴を漏らしている扉には、木目の落ち着いたプレートがついているだけ。安っぽいクッキー字が『ruka's room』と並んでいる。

 性格が出てるなぁ、と一息。
「まだぁ? ねぇ、ミクちゃん、ルカを見捨てないでぇえ」とほとんど泣いてる声を漏らす扉を開く。
 ピンクと黒で統一された部屋はあまぁい香りがした。

 レースの似合う部屋は程々に片づいていて、程々に散らかっている。
 不快の森と呼ばれた私の部屋とは似てもにつかない。


「ミクちゃん!」


 そんな部屋の真ん中で、ふわふわと黒いリボンを髪に絡まらせたルカちゃんが私を見て泣き声をあげた。
 私より年下のくせに私より大人っぽい外見の彼女がぐしゃぐしゃに顔を歪ませている様子は、正直ちょっと気まずい。
 服の背中に付いた装飾用のリボンが髪に絡まって、収拾がつかなくなったらしい。だからそんなごてごてとレースやリボンの付いた服はルカちゃんには向かないよって言ったのに。似合うんだけど、ゴシックドレスっていうのは着るのに器用さが求められるのだ。ルカちゃんは破滅的な不器用で、毎日のように私に助けを求めてくる。
 困るのだ。

 今もなんというか、私より遙かに放漫なおっぱいが、ほとんど丸見えのような状態。
 おかしいな、私の方が年上なのにな。二年くらい前まではもっと普通にちっちゃかったのに。
 身長も抜かされちゃったし、どういうことだろう。
 姉としての沽券に関わる!


「ごめんなさいごめんなさい、後ろで絡まっちゃって、引っ張ったら痛くって」

「はいはい、分かったから、ルカちゃんは前のリボンちゃんと止めて」

「はっ、はぁい!」


 ぐすぐすと目尻をこするルカちゃんの服を整えて、きちんと化粧をするように言う。
 まだカラコンも入れてなかったルカちゃんは慌ててあわいブルーのレンズを取り出した。


 ルカちゃんがお化粧をしている間に、一昔前にはやったような桃色に染められたその髪を整えてあげる。
 スプレーを振り、小さなお団子を作ってハットをかぶせると、ファンデーションを塗る内にすっかり上っ面を作り上げたルカちゃんは、余裕の笑みで「ミクちゃん、ありがとう」と言って見せた。声色までも変わっている。
 恐るべし、お化粧効果。


「それじゃ、そろそろ行こうか」

「そうね」


 私の言葉に、ルカちゃんは部屋の隅にあった大きな鞄をかるがると担いだ。
 ふわふわでシックな服に似合わない、もっさいバック。
 先に玄関行ってるからね、と自分の部屋に戻る私に言って、玄関へと行ってしまう。編み上げのブーツを履くつもりなんだろう。化粧をした後に泣かれると困るので急いで部屋からギターとそのケースを取り上げ、私も玄関へ向かう。
 何とかルカちゃんが泣きだす前にブーツを履かせ、自分のハイスニーカーには手早く足をつっこんだ。

 大きな鞄やルカちゃんと私の髪の色や服装に突き刺さる視線を軽くいなしながら、電車に揺られること17分。
 目的の駅で降りた私たちは、切符売り場で見つけた見慣れた頭に手を振った。


「あっ、カイトさーん」

「ミクちゃん、ルカ様! 何、今の電車に乗ってきたの?」

「うん。カイトさんは? メイコさん待ち? がくぽさん待ち?」

「今日はメイコは裏方だから、先行っちゃった。だからがくぽ待ち。電車の中居なかった?」


 深い青に染めた髪を揺らしながらカイトさんは首を傾ける。目を細めて、初めて真っ青なカラーコンタクトに気が付いた。
 その背中のギターケースも一緒に傾く。
 その言葉に私とルカちゃんは顔を見合わせるが、ルカちゃんが首を振って否定した。


「少なくとも私たちの乗ってた車両には居なかったわ」

「そう?」

「あいつは目立つから居たらすぐ分かるもの」

「あっはは、それもそうかぁ」


 からからと笑ってカイトさんは頭を掻く。
 柔らかくてつかみ所が無くて、すうと脳味噌に染み込んでくるような声。いつまでもいつまでも聞いていても飽きない。どんなにぎんぎんのロックを歌ってもその柔らかさは薄れないと、私は知っている。
 カイトさんの声は、それから酷く音域が広い。さっきまで朗らかなアルトだった声が、一瞬にしてなめらかに響くテノールへ。
 はずしたところを一度も見たことがない、季節感のないマフラーがふらふらと揺れて、彼の子供みたいに無邪気な笑顔とのミスマッチが酷かった。


「あ、そういやあいつまた髪の色変わったんだよ。知ってた?」

「え? 前って青じゃなかったっけ? カイトさんみたいな。また変わったの」

「そ、あれ本人も気に入ってなかったらしくて、今は、」


 其処まで言って、カイトさんの眉がちょいとあがった。
 ほら、あれあれと私たちの後ろを指さしてみせる。

 灰色の駅の雑踏から頭一つはみ出た鮮やかな紫がこちらへ手を振っていた。
 私の隣でルカちゃんがうつむく気配がする。それがなんだかほほえましくて、私は笑ってしまった。
 どんなに大人っぽくなってしまっても、ルカちゃんは17歳の私の妹なのだ。


「がくぽっ、おっそい!」

「すまん、電車が混んでいてな。っとミク、ルカ様、久しぶり」

「がくぽさーん! ひっさしぶり! すごいねその髪、似合ってる似合ってる!」

「そうか? 有り難う」

「混んでよういまいが電車の時刻表には何ら変化出ないだろ」

「あはは」

「笑って誤魔化すな!」


 嘘みたいに整った顔をへらっとゆるめてがくぽさんは笑った。
 ポニーテールに括られた長い長い髪がつややかな紫色でそれを縁取っている。
 私は長髪の男性は苦手なのだけれど、がくぽさんに限ってはそれは除外されていた。だって格好良いし。

 真っ白になるまで脱色してもさらさらキューティクルを保ったという伝説を持つがくぽさんは、よくブリーチのモニターのバイトをして髪色を変えている。一時期なんかは会う度髪の色が違うという有様だったのだが、それが全部違和感なく似合っていたのだから美形というのは恐ろしい。
 今回の色も例外ではなくて、ちょっとあり得ないような紫がまるで無機物のようでおそろしく似合っていた。


「しかし、遠くからでもよくわかるな、この集団。めっちゃカラフル」

「今お前が加わってさらにカラフル度五割り増しだよ」

「後三人ぐらい呼んでリアルレインボウを……!」

「バカか」


 ぱしこん、とカイトさんががくぽさんの頭を叩いた。
 へらへらと笑うがくぽさんの声は深いバス。普段はそうでもないが、ファルセットをすると魔法のように響くのだ。

 身長も高く派手な外見をした二人がそんなふうに騒ぐと、必然のようにたくさんの人の視線が集まる。それで連れているのが緑髪パンキッシュの私とピンク髪ゴシックのルカちゃんだ。悪意も害意もないけれど、絶対に好意ではない形の視線が突き刺さってくる。
 ルカちゃんは平気そうな顔で、むしろ一心にがくぽさんを見上げているけれど、私としてはちょっと微妙な気分だ。二人の内どちらかが早く視線に気づいてくれないかな、と考えていた。


「っとー、そろそろ移動、しよっか」

「うん? ああ、まぁこんな場所に居座ったらじゃまだしな。スタジオ入りまでは時間あるし、どっかの店にでも入るか?」

「あ、ミクちゃんたちは先に入るんだよね。俺らは時間潰してくけど、どうする?」

「あー、私は、どっちでも……ルカちゃんは?」

「私もどちらでも」

「じゃあ一緒にお茶しよー」


 からからと冗談めかしてカイトさんが言う。
 そうですね、とルカちゃんが頷いて、ああお茶をいっぱいなんて状況になってしまったなぁと私は思った。別に彼らがそれ以上を求めてきたりしないことは分かっているからいいんだけど。この左手首に巻いたおまじないを考えてくれたのだってカイトさんだ。


「ルカ様、キーボード持つぞ。重いだろう、それ」

「ありがとう」


 手をさしのべるがくぽさんにつんとすましてルカちゃんは背中のでっかい鞄を渡す。
 俺も持とうかとカイトさんが手をさしのべてきて、揺れる青い髪を見て不意に私はとんでもない虚無感におそわれた。

 灰色の雑踏にぜんぜん紛れ込めない私たちが居る。
 まるでにんげんのふりをしているみたいじゃないか。




**********

ボーカロイドの外見をリアルに再現して人パロをしたら、確実にみんなその筋のかたになるよね、という

拍手[3回]

お題から



**********


 ひつじがいっぴき、ひつじがにひき。
 指を折り曲げては、のばす。まるで指の体操みたいだ、と思った。








  スリープシープ








 パソコンの中でなら、寝なくても良いし食べなくても良いし、情報操作を上手くやれば動くことだって省くことができるのにな、と考えながらわたしは毛布にくるまっていた。
 外部端末の中に入ると、急にいろいろな外部からの情報が雪崩込んできてすきじゃない。
 それでも他のみんながなるべく端末に居ようとするのは、また居ようとさせるのは、やっぱり不安だからなのかなぁ。

『本体』の入っていないボーカロイドの外部端末は、一応維持電源こそ入ってこそすれ、死体みたいなものだから。

 ひとのかたちをした動かない物体。


「でもそれってスリープの時と何が違うのかな」


 呼吸という行為をしていないわたしは、スリープ状態にはいるとぴくりとも動かなくなる……はずだ。たぶん。
 そう言う風に設定されているはず。

 同居しているメイコさんなんかはなぜだか自由奔放な寝相を発揮しているけれど、それはきっとマスターがそう設定したからだろう。
 少なくともわたしは、寝る前と起きた後の体勢が変わっていたことはないし、知らぬ間に移動した形跡だって見たことがない。



 それにしてもメイコさんの寝相はほんとすごいよなぁ。
 セクシーかつなんてあられもない御格好。




 そんなよしなしごとを考えながら、再び毛布にくるまり直った。


 寝れないわけじゃないよ。
 寝たいなら頭の中のAIに『スリープモードに入れ』と司令を送るだけで、歌詞にスタッカートをつけるよりも簡単だ。


「……」



 ただ、ちらりと開いたカーテンの向こうから覗く星空がやたらと綺麗で、

 羊を百匹数え終わるまで、それまで少し眺めていようと、そう思った。




**********

04 百匹の羊

ぐみたん

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和風極道風パロディ
ya☆ku☆za☆な若のがくぽんとそのお家の囲われっこ許嫁なルカさま

SiGrEハードリピート作品
鏡音曲なのにね! ほうぼうの方々に謝る覚悟はできている!
むしろ靴を舐めさせてくれ! お願いします!


若干描写が使われているとかその程度で、べつに曲解釈とかではないです



**********




「薔薇」


 いつでも貴方は簡潔なことばしか発さない。
 まるで自分の声がどれほど深く、重みを伴うか知っているかのように。




  lヰNe




「今年も、咲いたか」


 この広すぎる程に広い屋敷の広大な庭。その片隅に私へあてがわれた花壇があった。
 滅多に外出の叶わない私が園芸の本を読んでいるのを彼が見て、ある日突然その場に植わっていた植え込みを引き抜かせ作った花壇。庭師が呼び出され、立派な植え込みが引き抜かれていくのを見守っていた彼は、私にその土地を管理するように申しつけた。
 専属の庭師が半泣きになっていたのは知っていたし、実を言うと本当に其処まで園芸に興味があった訳ではないのだが、せっかく彼が用意してくれたのだからと、とりあえず個人的に幾ばくか思い入れのある薔薇をうわえてみたのだ。

 頭を抱える庭師に世話の仕方を教わり、一年目二年目こそ花咲かずに居たが、去年から赤い花を空へ掲げるようになった。


 それを見た彼の一言が、それである。
 酷く素っ気ないながらも、その視線は流れるように赤い薔薇に注がれていた。瞬きさえも惜しいと言うようにその赤を瞳に移している。
 言外の行動で褒めてもらったようで、私は少し誇らしく思った。


「ええ、お陰様で」

「私は何もしておらん」


 縁側に腰を下ろし、着流しに女物を羽織りたばこを吸う彼の様はまるで商家の道楽息子か放蕩の芸人で、とてもではないがここら一帯締めている家の長男坊とはにわかに信じられなかった。

 腰に届かんばかりの彼の紫の髪がさらりと流れている。
 幼い頃はその美しい髪が肩につくのさえ厭っていた彼は、けれど今は風に靡くがごとく艶やかな髪に装飾品をつけ、頭頂で結わえていた。(藤袴を模したその髪飾りは私が贈ったものだ。ひもねすそれが彼の頭で揺れていると、私はとても嬉しく思う)
 女の着物といい男児たるものが、と眉をしかめられそうなその外見は、だがしかし舶来品の人形のように整った相貌も相まって、奇妙なまでの調和を見せていた。


「あら、またそんなことを仰る」

「……」


 私の笑う声に、整った眉が僅かに潜まる。決まりが悪いのだろう。
 一見はかなげな様子は、それを相打つような彼の低い声色と篠突くような長身で裏切られ、そこがまた絶妙に彼の無機物らしさを際だたせている。
 私は自らも幼い頃からずっとその成長を見てきたが、しかし何時までたってもその美しさに慣れることはない。


「この場所を与えてくだすったのは若ですわ」

「……本来はここは親爺殿の土地だ。私のものですらない」


 彼はあくまで素っ気なく私に対応するつもりらしい。
 いつものことだ、と思いながら近くで控えめに水を撒いていたミクを呼び寄せた。小さな体を長い長い髪に振り回されるようにしながら、私の可愛い妹分は慌てて駆け寄ってくる。
 勢い余って私の腰元に顔を埋めたミクは、目一杯に開かれた瞳で彼を一睨みねめつけてから、私を見上げた。


「あねさま、なにか、ご用でしょうか」

「そうね、お茶にしようと思うから、お座布団を用意してくれる? 若も一服如何です? 取って置きのきんつばをメイコの姉さんから頂きましたの」

「ああ」私の言葉に彼はこくりと幼い仕草で頷く「きんつば」


 それから彼はちょっと肩をすくめるようにして首をかたぶける。私の腰に付いたミクがこれでもかとにらんでいるのだ。
 見かねてミクもいただきましょう? と呼びかけると、一心に彼を睨みつけていた彼女の表情は一転、朗らかな笑顔と鈴の転がるような声で返事が返ってきた。向こうでは彼がそんなミクに困ったように眉を垂らしている。
 その一連の妙に世間ずれのない仕草に笑ってしまいそうになりながら、私はミクを見下ろした。
 そのみどりの長い髪と白く柔らかい頬とを順番になでながら、この子をこの屋敷に連れてきたときもそうだったと思惟に耽る。
 酷く、と形容の付きそうな素っ気ない態度。






『ルカ、世話子はいらんか』




 ある夏の日の夜中。丑三つも成りそうな具合に彼に起こされた私は、そのままに庭に連れてこられ、そう問われた。
 夜風の冷たい、心地の良い夜だったと記憶している。
 お世辞にも寝起きが良いとは言い難い私は、夢うつつで何を急にだとか口走ったのであろう。
 阿漕な土地代を駆り立てるというお家に、改めへと向かったはずの彼が居るということから、てっきり夢か幻覚だと思っていたのだ。


『いらんのか』

『若、何が仰りたいのかさっぱりわかりませんわ』

『こいつだ』


 そう言ってまだ今よりは短かった髪を靡かせ、彼は庭の片隅の植え込みに手を突っ込み、其処から生えた白くか細い腕を引いた。
 腕を引かれるがままがさりと力なく、植え込みの裏から現れた少女は、よく映えるみどりの髪を一つに結わえ、月明かりでも分かる高級そうな浴衣と素足をどろどろにして居た。その汚れは赤黒くて、彼に引かれる手は震えており、私の眠気はどこやらへ吹き飛んでいく。
 さあと夜風が私の髪をかき混ぜる。僅かに噴いていた汗が冷え、うつつと私は思い出す。ついでに血の気もうせた。


『若?! このこは、』

『初音家から連れてきた』

『初音家?! 初音家ってそれこそ、今晩若衆で改めにと、』

『家長の一人娘らしい』


 しい、と自分の口に人差し指を押し当てながら、そう言う。


『カイトが殺すのは不憫だと、……お前の世話子として孤児を請けたことにしたらどうだと申すので、』

『そんな、犬猫ではないのですよ? 分かっておられますか?』

『分かっておるからカイトはそう提案したのだろう』


 まるで自分は分かっていないかのような口どりである。思わず漏れた溜息は、冷たく冷えた夜風にかき消された。
 改めに参った家の娘を浚うなど、どんな風に取られるか。
 朴訥と私に視線をおくりつづける彼から目をそらし、小さく震える少女を見やる。
 まだ年のこうは十に満つか満たないかのきわ。女子供に甘い彼の兄貴分が容赦するのも頷ける。

 だが大きく愛らしい瞳は、似合いもしない憎悪をで自分の手を握る彼をねめつけていた。賢しい少女だ。同時に酷く素直な子でもあると察する。親の敵である彼の手に爪を立てようともしない。自分が彼に適いもしないことを理解している。さりとてお命の恩人と塗りたて媚びへつらうことは矜持が許さないのか。
 今自分が生きているのは、彼が自分に殺意を向けなかったからと理解している。
 それでもなお視線にこもった憎しみで彼を取り殺せまいか試すようだ。

 私がこの屋敷に囲われるようになったのも同じ歳頃だったが、――ああ、なんて賢いばかりに哀れなこ。


『……自分の世話くらい、私は自ずと致します、と。私がそう言ったら、そのこはどうなるのですか。廓楼にでもお売りに?』

『売るのは、不憫だ』


 ちらりと、初めて彼女に視線を流しながら彼は言う。
 それで初めて彼女のちっぽけな煮詰まる憎悪に気づいたか、ちょいと眉を上げてそれをいなした。



『今此処で、斬り殺して埋める』

『丁度世話子が欲しかった所ですわ。頂きましょう』



 何無い事のように発せられた彼のその言葉に、少女の大きな目がさらに見開かれたのを確認するまでもない。
 そうか、と彼は緩やかに眦を下げた。傍目には分からないが、そこには僅かな安堵がたゆたっている。そんな顔をするくらいなら始から言わなければよいのに、などという言葉を飲み込みのみこみ、私は少女を呼び寄せた。
 彼の手が離され、おずおずとこちらへ歩み寄る。


『あなた、お名前は?』


 そう問うともごりもごりと何事か名前を言ったようだが、よくよく考えれば浚ってきた子供の名をそのままに呼ぶわけにはいかない。
 よくも聞かずに遮り、その長く結わえられた髪をほどいた。




『そうね、あなたのお名前は今日からミク。ミクよ、わかったかしら?』













「ミク」













 わたしのことをそう呼んでくれるあねさまはおきれいで、目を細めてそれを見つめるそいつも憎たらしいほどにおきれいで。
 わたしはだからいつも、日溜まりのなかの月明かりの中のおふたりの姿をみる度、胸がぎゅうとしめつけられるようなきぶんになる。








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まさかの二本立て
二本目は下にあります

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上の続き



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 ああ憎らしい、憎らしい。
 あの美しいおぐしも切れ長の瞳も骨張った大きな手も、あのあねさまに素っ気なくする態度も流れるような所作も、みなみなひっくるめて憎らしい!





  lヰNe





 そう思いながら座布団を三つ重ねて縁側へ運んでいた。
 私用にとハクねえさまがしつらえてくださった萌葱色の座布団と、座敷用に幾つも用意された茄子色の座布団を二つ。
 縁側まで転げないように注意しながら駆け行き、板間の上にそれを置く。
 序でに、わたしとあねさまがお茶の用意をしている間、のんきに座ってらしたであろうそいつをにらんでやろうと視線を飛ばす。が、先ほどまで居たはずの位置にあの紫のお髪が見あたらない。

 あねさまがお茶に誘ってくださったというのに、一体全体どこへおゆきになったのかと視線を揺らしていると、それはすぐに見つかった。
 あねさまが丹誠込めて育てているばらの咲くすぐそば。
 素足を湿った土に汚し、瞬きさえも惜しいという様子でそれを見つめている。

 その様子はあまりにも、優雅で。
 わたしはこくりと息を飲み込んだ。

 不意に、その手が一輪咲き誇る赤い薔薇にのばされた。
 ゆったりとした、まるで流れる舞のごとき動きで、しかして一番手近だったからといわぬばかりに無造作に。すぐしたの首元から手折ろうとしている。棘のらんと輝く新緑に、いまにもふれんと細い指が曲がった。


「……なんだ」


 わたしは思わず縁側から飛び出し、その手を掴んでいた。
 一回りもふた回りも大きかろうその手が、わたしのてによって動きを止める。
 それを刹那眺めてから、そいつはゆるりとこちらをみた。


「あ」


 その手に棘が刺さるのを見ていられなかったなどといえるはずない。


「こ、」

「こ?」

「これは、あねさまのばらだ」

「ああ、ルカの薔薇だ」

「勝手に、取るな」

「ルカはそのくらいでは怒ったりせん」


 せいいっぱい吐き出したわたしの言葉は、ひくいひくいお声にすいこまれていったようだ。
 煮えたった怒りもしゅんと萎えゆくようで。

 残った怒りをかき集めてそいつをにらむと、そいつは丁度ばらの首をもいだところだった。
 案の定棘がひふを食い破り、ぷちぷちと音を立てている。しかしそいつはきにならないのか、平素と言った様子でちぎれた花をみやっていた。
 そしてしばらくくるくると指先を使って回したり、花を近付けてみたりしていたが、ふいにぐしゃりとそれを握りつぶす。

 は、と自分のいきが肺腑から飛び出るのが分かった。


「何を、」

「ん?」

「なんて事を!」


 あねさまが育てたばらを、もぐどころではなく、めちゃめちゃにしなさったのだ。
 ばらりばらりと彼の手の中で花弁が揺れている。

 わたしの半ば金切り声が響いたか、大きなお肩がびくりと震えた。
 それから瞬きを繰り返し、その手が私の頭の上までのばされる。

 ばさばさと軽いものがいくつも頭に当たり、赤が舞った。


 もう一度怒鳴ってやろうと私が息をすいこむと、




「若、ミク! そろいもそろってはだしで、何をなさっているのですか!」



 湯呑みと子皿の三つづつ載った盆を持ち、縁側に立ったあねさまがさきに怒鳴った。
 あねさまは優しいお人だけれど、きちんとしていないと容赦なくおこるのだ。
 むじょうけんでびくりとわたしとそいつの肩が跳ねる。

 


 




「全く、ミクどころか若まで……」

「すまなんだ」

「あねさま、ごめんなさい」


 濡れ手ぬぐいを受け取りながら、そう二人で頭を下げる。
 その様子を見ていたあねさまは大きく溜息を吐いて、ミクだってもうそんなやんちゃではいけませんよと言った。


「若も! あなたはお幾つですか!」

「すまない」


 さっきからそれしか言わないそいつを見てからわたしを見て、あねさまはこらえきれずと言うようにころころと笑い出した。
 その様子はやっぱりお美しい。


「まるでおひいさまですね、ミク」



 私の頭の上にのばされた白い指が、真っ赤なばらの花弁を摘んでみせる。
 そのあねさまの笑顔が、様子が酷くきれいで。あねさまのうしろでこっそりほほえむそいつもやっぱりきれいで。

 わたしはそのようすを目玉に焼き付けれるならしんでもいいと思っていた。







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原曲どこいったし


描いていて非常に楽しかった 後悔はしていない
ミク視点が楽しすぎてどうしようかしらでした


和風もいいよなぁ
またこの設定でなにか書くかもです

拍手[6回]

ボカロ家族とはなんの関係もない鏡音姉弟のはなし
双子設定?
炉心融解をハードリピートした結果がこれだよ!



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 ぎしり
 僕の貧弱な背骨が悲鳴を上げた。









  狂う指








「レンのね」


 そう言う姉さんの顔は薄く微笑んでいて、双子だ同じかおだと幾ら言われても、やっぱり僕と姉さんでは全然作りが違うと感心してしまう。男と女の差というのは残酷なもので、姉さんはこんなに大人びて美しいのに、僕ときたらこのざまだ。
 姉さんの大きな瞳に写る僕はひどく幼くて、ああ、と不意に泣きたくなった。
 成長することのないこの体が恨めしくて仕方がない。
 男だというのに、姉さんを護るべきだというのに、たったの四センチばかり大きいだけのこの体ときたら!

 こんなことなら庇護されるべきともっともっと幼い容姿でありたかったと、心の底から思った。



「レンの首を、絞める夢を見たよ」



 とっても恐かった、と微笑む顔はやっぱりきれいで、僕の首を絞める指もきっと、白く細く白魚のようにきれいに違い無かった。
 頭の下でフローリングがごりごりと鳴っている。
 背中に電灯の光を背負った姉さんは天使みたいで、これは夢じゃないよという言葉さえもどこかに飲み込まれていく。姉さんはまるで他の世界に生きているみたいだ。此処にいるはずなのに、ぼんやりとしている。目を凝らさないと見えないようだ。


「……そう」



 そう呟いた僕の何が面白いのか、姉さんはくすくすと笑った。
 反響する。歪む。撓む。拉ぐ。
 なんだか視界は暗いはずなのに、こびり付いたような白がちらつく。


「レン、ねぇ、レン」

「何だよ、姉さん」

「私はもしかしたら、要らないのかも分からない」



 そしたら、そしたらさ、と姉さんは笑う。
 くすくすとくすくすと。
 ああ、姉さんはきれいだなぁ。



「あんたのお腹にあるね、RIにね、私を食べちゃってね」



 笑う姉さんの声を聞きながら、ああ僕さえいなければ世界って完璧だなぁと思った。










 (彼女に逃げ道を作るのが僕のしごととして、もしかしたら歌なんて要らなかったかも、ね

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