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和風極道風パロディ
ya☆ku☆za☆な若のがくぽんとそのお家の囲われっこ許嫁なルカさま

SiGrEハードリピート作品
鏡音曲なのにね! ほうぼうの方々に謝る覚悟はできている!
むしろ靴を舐めさせてくれ! お願いします!


若干描写が使われているとかその程度で、べつに曲解釈とかではないです



**********




「薔薇」


 いつでも貴方は簡潔なことばしか発さない。
 まるで自分の声がどれほど深く、重みを伴うか知っているかのように。




  lヰNe




「今年も、咲いたか」


 この広すぎる程に広い屋敷の広大な庭。その片隅に私へあてがわれた花壇があった。
 滅多に外出の叶わない私が園芸の本を読んでいるのを彼が見て、ある日突然その場に植わっていた植え込みを引き抜かせ作った花壇。庭師が呼び出され、立派な植え込みが引き抜かれていくのを見守っていた彼は、私にその土地を管理するように申しつけた。
 専属の庭師が半泣きになっていたのは知っていたし、実を言うと本当に其処まで園芸に興味があった訳ではないのだが、せっかく彼が用意してくれたのだからと、とりあえず個人的に幾ばくか思い入れのある薔薇をうわえてみたのだ。

 頭を抱える庭師に世話の仕方を教わり、一年目二年目こそ花咲かずに居たが、去年から赤い花を空へ掲げるようになった。


 それを見た彼の一言が、それである。
 酷く素っ気ないながらも、その視線は流れるように赤い薔薇に注がれていた。瞬きさえも惜しいと言うようにその赤を瞳に移している。
 言外の行動で褒めてもらったようで、私は少し誇らしく思った。


「ええ、お陰様で」

「私は何もしておらん」


 縁側に腰を下ろし、着流しに女物を羽織りたばこを吸う彼の様はまるで商家の道楽息子か放蕩の芸人で、とてもではないがここら一帯締めている家の長男坊とはにわかに信じられなかった。

 腰に届かんばかりの彼の紫の髪がさらりと流れている。
 幼い頃はその美しい髪が肩につくのさえ厭っていた彼は、けれど今は風に靡くがごとく艶やかな髪に装飾品をつけ、頭頂で結わえていた。(藤袴を模したその髪飾りは私が贈ったものだ。ひもねすそれが彼の頭で揺れていると、私はとても嬉しく思う)
 女の着物といい男児たるものが、と眉をしかめられそうなその外見は、だがしかし舶来品の人形のように整った相貌も相まって、奇妙なまでの調和を見せていた。


「あら、またそんなことを仰る」

「……」


 私の笑う声に、整った眉が僅かに潜まる。決まりが悪いのだろう。
 一見はかなげな様子は、それを相打つような彼の低い声色と篠突くような長身で裏切られ、そこがまた絶妙に彼の無機物らしさを際だたせている。
 私は自らも幼い頃からずっとその成長を見てきたが、しかし何時までたってもその美しさに慣れることはない。


「この場所を与えてくだすったのは若ですわ」

「……本来はここは親爺殿の土地だ。私のものですらない」


 彼はあくまで素っ気なく私に対応するつもりらしい。
 いつものことだ、と思いながら近くで控えめに水を撒いていたミクを呼び寄せた。小さな体を長い長い髪に振り回されるようにしながら、私の可愛い妹分は慌てて駆け寄ってくる。
 勢い余って私の腰元に顔を埋めたミクは、目一杯に開かれた瞳で彼を一睨みねめつけてから、私を見上げた。


「あねさま、なにか、ご用でしょうか」

「そうね、お茶にしようと思うから、お座布団を用意してくれる? 若も一服如何です? 取って置きのきんつばをメイコの姉さんから頂きましたの」

「ああ」私の言葉に彼はこくりと幼い仕草で頷く「きんつば」


 それから彼はちょっと肩をすくめるようにして首をかたぶける。私の腰に付いたミクがこれでもかとにらんでいるのだ。
 見かねてミクもいただきましょう? と呼びかけると、一心に彼を睨みつけていた彼女の表情は一転、朗らかな笑顔と鈴の転がるような声で返事が返ってきた。向こうでは彼がそんなミクに困ったように眉を垂らしている。
 その一連の妙に世間ずれのない仕草に笑ってしまいそうになりながら、私はミクを見下ろした。
 そのみどりの長い髪と白く柔らかい頬とを順番になでながら、この子をこの屋敷に連れてきたときもそうだったと思惟に耽る。
 酷く、と形容の付きそうな素っ気ない態度。






『ルカ、世話子はいらんか』




 ある夏の日の夜中。丑三つも成りそうな具合に彼に起こされた私は、そのままに庭に連れてこられ、そう問われた。
 夜風の冷たい、心地の良い夜だったと記憶している。
 お世辞にも寝起きが良いとは言い難い私は、夢うつつで何を急にだとか口走ったのであろう。
 阿漕な土地代を駆り立てるというお家に、改めへと向かったはずの彼が居るということから、てっきり夢か幻覚だと思っていたのだ。


『いらんのか』

『若、何が仰りたいのかさっぱりわかりませんわ』

『こいつだ』


 そう言ってまだ今よりは短かった髪を靡かせ、彼は庭の片隅の植え込みに手を突っ込み、其処から生えた白くか細い腕を引いた。
 腕を引かれるがままがさりと力なく、植え込みの裏から現れた少女は、よく映えるみどりの髪を一つに結わえ、月明かりでも分かる高級そうな浴衣と素足をどろどろにして居た。その汚れは赤黒くて、彼に引かれる手は震えており、私の眠気はどこやらへ吹き飛んでいく。
 さあと夜風が私の髪をかき混ぜる。僅かに噴いていた汗が冷え、うつつと私は思い出す。ついでに血の気もうせた。


『若?! このこは、』

『初音家から連れてきた』

『初音家?! 初音家ってそれこそ、今晩若衆で改めにと、』

『家長の一人娘らしい』


 しい、と自分の口に人差し指を押し当てながら、そう言う。


『カイトが殺すのは不憫だと、……お前の世話子として孤児を請けたことにしたらどうだと申すので、』

『そんな、犬猫ではないのですよ? 分かっておられますか?』

『分かっておるからカイトはそう提案したのだろう』


 まるで自分は分かっていないかのような口どりである。思わず漏れた溜息は、冷たく冷えた夜風にかき消された。
 改めに参った家の娘を浚うなど、どんな風に取られるか。
 朴訥と私に視線をおくりつづける彼から目をそらし、小さく震える少女を見やる。
 まだ年のこうは十に満つか満たないかのきわ。女子供に甘い彼の兄貴分が容赦するのも頷ける。

 だが大きく愛らしい瞳は、似合いもしない憎悪をで自分の手を握る彼をねめつけていた。賢しい少女だ。同時に酷く素直な子でもあると察する。親の敵である彼の手に爪を立てようともしない。自分が彼に適いもしないことを理解している。さりとてお命の恩人と塗りたて媚びへつらうことは矜持が許さないのか。
 今自分が生きているのは、彼が自分に殺意を向けなかったからと理解している。
 それでもなお視線にこもった憎しみで彼を取り殺せまいか試すようだ。

 私がこの屋敷に囲われるようになったのも同じ歳頃だったが、――ああ、なんて賢いばかりに哀れなこ。


『……自分の世話くらい、私は自ずと致します、と。私がそう言ったら、そのこはどうなるのですか。廓楼にでもお売りに?』

『売るのは、不憫だ』


 ちらりと、初めて彼女に視線を流しながら彼は言う。
 それで初めて彼女のちっぽけな煮詰まる憎悪に気づいたか、ちょいと眉を上げてそれをいなした。



『今此処で、斬り殺して埋める』

『丁度世話子が欲しかった所ですわ。頂きましょう』



 何無い事のように発せられた彼のその言葉に、少女の大きな目がさらに見開かれたのを確認するまでもない。
 そうか、と彼は緩やかに眦を下げた。傍目には分からないが、そこには僅かな安堵がたゆたっている。そんな顔をするくらいなら始から言わなければよいのに、などという言葉を飲み込みのみこみ、私は少女を呼び寄せた。
 彼の手が離され、おずおずとこちらへ歩み寄る。


『あなた、お名前は?』


 そう問うともごりもごりと何事か名前を言ったようだが、よくよく考えれば浚ってきた子供の名をそのままに呼ぶわけにはいかない。
 よくも聞かずに遮り、その長く結わえられた髪をほどいた。




『そうね、あなたのお名前は今日からミク。ミクよ、わかったかしら?』













「ミク」













 わたしのことをそう呼んでくれるあねさまはおきれいで、目を細めてそれを見つめるそいつも憎たらしいほどにおきれいで。
 わたしはだからいつも、日溜まりのなかの月明かりの中のおふたりの姿をみる度、胸がぎゅうとしめつけられるようなきぶんになる。








**********

まさかの二本立て
二本目は下にあります

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