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人間パロ
人間パロって言葉の響きすごいな
退廃的というか不良的というか排他的というか
いろんなイメージをたたき壊しにいってます
**********
この日のために買ったカラーコンタクトの色は、あさいあおみどり。
170色もある色見本から気に入る色を探し出すのは骨の折れる作業だったけれど、これ以上ないほどのお気に入りを見つけられたから、私は満足していた。
アイラインには幼さを残して、ラメも入れないピンクのシャドウをうっすら入れるだけ。
ニンゲンのフリしようか
ガーゼシャツとチェックのプリーツスカートの組み合わせは、正義みたいなものだ。
カラコンと併せて買ったおんなじいろのマニキュアを塗った指先。
ステッカーをべたべたに貼ったギターをもって、七分の袖から覗くまっさらな左手首に包帯を巻けば、私は立派な排他的退廃少女になれる。ほんの少し気を回せばそのギターが左利き用なのに気づけるはずなのに、このおまじないをしただけで言い寄ってくる鬱陶しい男の子が七割は軽減されるのだ。
べつに一緒にお茶をしておしゃべりするくらいなら私はぜんぜん構わないけれど、なぜだかそれ以上を求めてきたりする男の子が後を絶たなくて、私という消費者センターはすっかりまいってしまうのだ。
ついでに今日はお茶をいっぱいいただこうかしらなんてことをやっている暇もない。
「あーさーめがさめてー」
最近よくラジオでかかってるアイドル歌手の歌を口ずさむ。
可愛い曲だ。私にはぜんぜん似合わない。
そんなことを考えながら鏡をのぞき込む。
頭の天辺ちかくで二つに結んだ髪は、何かの手違いのような緑色をしている。
そうだ髪染めようと思い立ってその辺の美容院に入ったら、どんな色になさいますかとぶわーっと色見本を見せられて、何となくそいやっと指さしたのがこの色だったのだ。
髪が伸びるのが早い方なので、一月に一回は染め直しに行かなくてはならないのが非常に鬱陶しい。
色は気に入っているのにな、と痛んだ毛先を軽くはじく。
真っ赤なピンを前髪にぶすぶす差し込んで、いろんな角度からマスカラをチェックしている内に隣の部屋からルカちゃんの「ミクちゃん、たすけてぇ」という情けない声が聞こえてくる。
ルカちゃんの声は高音の伸びがすごく綺麗で、ハスキーなその感じが私はすごく好きなんだけれど、こんな声ばかり聞いているとなんだかなぁと思ってしまう。
ルカちゃんは外ではすごくすごく取り繕ってルカ様なんて呼ばれているけれど、私の前では情けなくておっちょこちょいで可愛いルカちゃんでしかない。
そうも思うと、情けない声もすごく可愛くてちょっとにやけてしまった。
「ミクちゃあん、意地悪しないでぇ、たすけてぇえ」
おっと、泣きが入ってきた。急がなきゃ。
「はいはいはいはい、今行くよー」
転がったMIDI用の鍵盤や服やCD、マンガやバックを踏まないように、細心の注意を払いながら私は部屋を出る。
すぐとなりにある扉を開ける前に、ちょっと見比べてみた。
私が出てきた扉には『miku's room』とペンキで書かれた金属プレートと、首をつった兎のモービルがぶら下がっていまもまだからからと音を立てている。
そのとなり、「ミクちゃぁん」と悲鳴を漏らしている扉には、木目の落ち着いたプレートがついているだけ。安っぽいクッキー字が『ruka's room』と並んでいる。
性格が出てるなぁ、と一息。
「まだぁ? ねぇ、ミクちゃん、ルカを見捨てないでぇえ」とほとんど泣いてる声を漏らす扉を開く。
ピンクと黒で統一された部屋はあまぁい香りがした。
レースの似合う部屋は程々に片づいていて、程々に散らかっている。
不快の森と呼ばれた私の部屋とは似てもにつかない。
「ミクちゃん!」
そんな部屋の真ん中で、ふわふわと黒いリボンを髪に絡まらせたルカちゃんが私を見て泣き声をあげた。
私より年下のくせに私より大人っぽい外見の彼女がぐしゃぐしゃに顔を歪ませている様子は、正直ちょっと気まずい。
服の背中に付いた装飾用のリボンが髪に絡まって、収拾がつかなくなったらしい。だからそんなごてごてとレースやリボンの付いた服はルカちゃんには向かないよって言ったのに。似合うんだけど、ゴシックドレスっていうのは着るのに器用さが求められるのだ。ルカちゃんは破滅的な不器用で、毎日のように私に助けを求めてくる。
困るのだ。
今もなんというか、私より遙かに放漫なおっぱいが、ほとんど丸見えのような状態。
おかしいな、私の方が年上なのにな。二年くらい前まではもっと普通にちっちゃかったのに。
身長も抜かされちゃったし、どういうことだろう。
姉としての沽券に関わる!
「ごめんなさいごめんなさい、後ろで絡まっちゃって、引っ張ったら痛くって」
「はいはい、分かったから、ルカちゃんは前のリボンちゃんと止めて」
「はっ、はぁい!」
ぐすぐすと目尻をこするルカちゃんの服を整えて、きちんと化粧をするように言う。
まだカラコンも入れてなかったルカちゃんは慌ててあわいブルーのレンズを取り出した。
ルカちゃんがお化粧をしている間に、一昔前にはやったような桃色に染められたその髪を整えてあげる。
スプレーを振り、小さなお団子を作ってハットをかぶせると、ファンデーションを塗る内にすっかり上っ面を作り上げたルカちゃんは、余裕の笑みで「ミクちゃん、ありがとう」と言って見せた。声色までも変わっている。
恐るべし、お化粧効果。
「それじゃ、そろそろ行こうか」
「そうね」
私の言葉に、ルカちゃんは部屋の隅にあった大きな鞄をかるがると担いだ。
ふわふわでシックな服に似合わない、もっさいバック。
先に玄関行ってるからね、と自分の部屋に戻る私に言って、玄関へと行ってしまう。編み上げのブーツを履くつもりなんだろう。化粧をした後に泣かれると困るので急いで部屋からギターとそのケースを取り上げ、私も玄関へ向かう。
何とかルカちゃんが泣きだす前にブーツを履かせ、自分のハイスニーカーには手早く足をつっこんだ。
大きな鞄やルカちゃんと私の髪の色や服装に突き刺さる視線を軽くいなしながら、電車に揺られること17分。
目的の駅で降りた私たちは、切符売り場で見つけた見慣れた頭に手を振った。
「あっ、カイトさーん」
「ミクちゃん、ルカ様! 何、今の電車に乗ってきたの?」
「うん。カイトさんは? メイコさん待ち? がくぽさん待ち?」
「今日はメイコは裏方だから、先行っちゃった。だからがくぽ待ち。電車の中居なかった?」
深い青に染めた髪を揺らしながらカイトさんは首を傾ける。目を細めて、初めて真っ青なカラーコンタクトに気が付いた。
その背中のギターケースも一緒に傾く。
その言葉に私とルカちゃんは顔を見合わせるが、ルカちゃんが首を振って否定した。
「少なくとも私たちの乗ってた車両には居なかったわ」
「そう?」
「あいつは目立つから居たらすぐ分かるもの」
「あっはは、それもそうかぁ」
からからと笑ってカイトさんは頭を掻く。
柔らかくてつかみ所が無くて、すうと脳味噌に染み込んでくるような声。いつまでもいつまでも聞いていても飽きない。どんなにぎんぎんのロックを歌ってもその柔らかさは薄れないと、私は知っている。
カイトさんの声は、それから酷く音域が広い。さっきまで朗らかなアルトだった声が、一瞬にしてなめらかに響くテノールへ。
はずしたところを一度も見たことがない、季節感のないマフラーがふらふらと揺れて、彼の子供みたいに無邪気な笑顔とのミスマッチが酷かった。
「あ、そういやあいつまた髪の色変わったんだよ。知ってた?」
「え? 前って青じゃなかったっけ? カイトさんみたいな。また変わったの」
「そ、あれ本人も気に入ってなかったらしくて、今は、」
其処まで言って、カイトさんの眉がちょいとあがった。
ほら、あれあれと私たちの後ろを指さしてみせる。
灰色の駅の雑踏から頭一つはみ出た鮮やかな紫がこちらへ手を振っていた。
私の隣でルカちゃんがうつむく気配がする。それがなんだかほほえましくて、私は笑ってしまった。
どんなに大人っぽくなってしまっても、ルカちゃんは17歳の私の妹なのだ。
「がくぽっ、おっそい!」
「すまん、電車が混んでいてな。っとミク、ルカ様、久しぶり」
「がくぽさーん! ひっさしぶり! すごいねその髪、似合ってる似合ってる!」
「そうか? 有り難う」
「混んでよういまいが電車の時刻表には何ら変化出ないだろ」
「あはは」
「笑って誤魔化すな!」
嘘みたいに整った顔をへらっとゆるめてがくぽさんは笑った。
ポニーテールに括られた長い長い髪がつややかな紫色でそれを縁取っている。
私は長髪の男性は苦手なのだけれど、がくぽさんに限ってはそれは除外されていた。だって格好良いし。
真っ白になるまで脱色してもさらさらキューティクルを保ったという伝説を持つがくぽさんは、よくブリーチのモニターのバイトをして髪色を変えている。一時期なんかは会う度髪の色が違うという有様だったのだが、それが全部違和感なく似合っていたのだから美形というのは恐ろしい。
今回の色も例外ではなくて、ちょっとあり得ないような紫がまるで無機物のようでおそろしく似合っていた。
「しかし、遠くからでもよくわかるな、この集団。めっちゃカラフル」
「今お前が加わってさらにカラフル度五割り増しだよ」
「後三人ぐらい呼んでリアルレインボウを……!」
「バカか」
ぱしこん、とカイトさんががくぽさんの頭を叩いた。
へらへらと笑うがくぽさんの声は深いバス。普段はそうでもないが、ファルセットをすると魔法のように響くのだ。
身長も高く派手な外見をした二人がそんなふうに騒ぐと、必然のようにたくさんの人の視線が集まる。それで連れているのが緑髪パンキッシュの私とピンク髪ゴシックのルカちゃんだ。悪意も害意もないけれど、絶対に好意ではない形の視線が突き刺さってくる。
ルカちゃんは平気そうな顔で、むしろ一心にがくぽさんを見上げているけれど、私としてはちょっと微妙な気分だ。二人の内どちらかが早く視線に気づいてくれないかな、と考えていた。
「っとー、そろそろ移動、しよっか」
「うん? ああ、まぁこんな場所に居座ったらじゃまだしな。スタジオ入りまでは時間あるし、どっかの店にでも入るか?」
「あ、ミクちゃんたちは先に入るんだよね。俺らは時間潰してくけど、どうする?」
「あー、私は、どっちでも……ルカちゃんは?」
「私もどちらでも」
「じゃあ一緒にお茶しよー」
からからと冗談めかしてカイトさんが言う。
そうですね、とルカちゃんが頷いて、ああお茶をいっぱいなんて状況になってしまったなぁと私は思った。別に彼らがそれ以上を求めてきたりしないことは分かっているからいいんだけど。この左手首に巻いたおまじないを考えてくれたのだってカイトさんだ。
「ルカ様、キーボード持つぞ。重いだろう、それ」
「ありがとう」
手をさしのべるがくぽさんにつんとすましてルカちゃんは背中のでっかい鞄を渡す。
俺も持とうかとカイトさんが手をさしのべてきて、揺れる青い髪を見て不意に私はとんでもない虚無感におそわれた。
灰色の雑踏にぜんぜん紛れ込めない私たちが居る。
まるでにんげんのふりをしているみたいじゃないか。
**********
ボーカロイドの外見をリアルに再現して人パロをしたら、確実にみんなその筋のかたになるよね、という
人間パロって言葉の響きすごいな
退廃的というか不良的というか排他的というか
いろんなイメージをたたき壊しにいってます
**********
この日のために買ったカラーコンタクトの色は、あさいあおみどり。
170色もある色見本から気に入る色を探し出すのは骨の折れる作業だったけれど、これ以上ないほどのお気に入りを見つけられたから、私は満足していた。
アイラインには幼さを残して、ラメも入れないピンクのシャドウをうっすら入れるだけ。
ニンゲンのフリしようか
ガーゼシャツとチェックのプリーツスカートの組み合わせは、正義みたいなものだ。
カラコンと併せて買ったおんなじいろのマニキュアを塗った指先。
ステッカーをべたべたに貼ったギターをもって、七分の袖から覗くまっさらな左手首に包帯を巻けば、私は立派な排他的退廃少女になれる。ほんの少し気を回せばそのギターが左利き用なのに気づけるはずなのに、このおまじないをしただけで言い寄ってくる鬱陶しい男の子が七割は軽減されるのだ。
べつに一緒にお茶をしておしゃべりするくらいなら私はぜんぜん構わないけれど、なぜだかそれ以上を求めてきたりする男の子が後を絶たなくて、私という消費者センターはすっかりまいってしまうのだ。
ついでに今日はお茶をいっぱいいただこうかしらなんてことをやっている暇もない。
「あーさーめがさめてー」
最近よくラジオでかかってるアイドル歌手の歌を口ずさむ。
可愛い曲だ。私にはぜんぜん似合わない。
そんなことを考えながら鏡をのぞき込む。
頭の天辺ちかくで二つに結んだ髪は、何かの手違いのような緑色をしている。
そうだ髪染めようと思い立ってその辺の美容院に入ったら、どんな色になさいますかとぶわーっと色見本を見せられて、何となくそいやっと指さしたのがこの色だったのだ。
髪が伸びるのが早い方なので、一月に一回は染め直しに行かなくてはならないのが非常に鬱陶しい。
色は気に入っているのにな、と痛んだ毛先を軽くはじく。
真っ赤なピンを前髪にぶすぶす差し込んで、いろんな角度からマスカラをチェックしている内に隣の部屋からルカちゃんの「ミクちゃん、たすけてぇ」という情けない声が聞こえてくる。
ルカちゃんの声は高音の伸びがすごく綺麗で、ハスキーなその感じが私はすごく好きなんだけれど、こんな声ばかり聞いているとなんだかなぁと思ってしまう。
ルカちゃんは外ではすごくすごく取り繕ってルカ様なんて呼ばれているけれど、私の前では情けなくておっちょこちょいで可愛いルカちゃんでしかない。
そうも思うと、情けない声もすごく可愛くてちょっとにやけてしまった。
「ミクちゃあん、意地悪しないでぇ、たすけてぇえ」
おっと、泣きが入ってきた。急がなきゃ。
「はいはいはいはい、今行くよー」
転がったMIDI用の鍵盤や服やCD、マンガやバックを踏まないように、細心の注意を払いながら私は部屋を出る。
すぐとなりにある扉を開ける前に、ちょっと見比べてみた。
私が出てきた扉には『miku's room』とペンキで書かれた金属プレートと、首をつった兎のモービルがぶら下がっていまもまだからからと音を立てている。
そのとなり、「ミクちゃぁん」と悲鳴を漏らしている扉には、木目の落ち着いたプレートがついているだけ。安っぽいクッキー字が『ruka's room』と並んでいる。
性格が出てるなぁ、と一息。
「まだぁ? ねぇ、ミクちゃん、ルカを見捨てないでぇえ」とほとんど泣いてる声を漏らす扉を開く。
ピンクと黒で統一された部屋はあまぁい香りがした。
レースの似合う部屋は程々に片づいていて、程々に散らかっている。
不快の森と呼ばれた私の部屋とは似てもにつかない。
「ミクちゃん!」
そんな部屋の真ん中で、ふわふわと黒いリボンを髪に絡まらせたルカちゃんが私を見て泣き声をあげた。
私より年下のくせに私より大人っぽい外見の彼女がぐしゃぐしゃに顔を歪ませている様子は、正直ちょっと気まずい。
服の背中に付いた装飾用のリボンが髪に絡まって、収拾がつかなくなったらしい。だからそんなごてごてとレースやリボンの付いた服はルカちゃんには向かないよって言ったのに。似合うんだけど、ゴシックドレスっていうのは着るのに器用さが求められるのだ。ルカちゃんは破滅的な不器用で、毎日のように私に助けを求めてくる。
困るのだ。
今もなんというか、私より遙かに放漫なおっぱいが、ほとんど丸見えのような状態。
おかしいな、私の方が年上なのにな。二年くらい前まではもっと普通にちっちゃかったのに。
身長も抜かされちゃったし、どういうことだろう。
姉としての沽券に関わる!
「ごめんなさいごめんなさい、後ろで絡まっちゃって、引っ張ったら痛くって」
「はいはい、分かったから、ルカちゃんは前のリボンちゃんと止めて」
「はっ、はぁい!」
ぐすぐすと目尻をこするルカちゃんの服を整えて、きちんと化粧をするように言う。
まだカラコンも入れてなかったルカちゃんは慌ててあわいブルーのレンズを取り出した。
ルカちゃんがお化粧をしている間に、一昔前にはやったような桃色に染められたその髪を整えてあげる。
スプレーを振り、小さなお団子を作ってハットをかぶせると、ファンデーションを塗る内にすっかり上っ面を作り上げたルカちゃんは、余裕の笑みで「ミクちゃん、ありがとう」と言って見せた。声色までも変わっている。
恐るべし、お化粧効果。
「それじゃ、そろそろ行こうか」
「そうね」
私の言葉に、ルカちゃんは部屋の隅にあった大きな鞄をかるがると担いだ。
ふわふわでシックな服に似合わない、もっさいバック。
先に玄関行ってるからね、と自分の部屋に戻る私に言って、玄関へと行ってしまう。編み上げのブーツを履くつもりなんだろう。化粧をした後に泣かれると困るので急いで部屋からギターとそのケースを取り上げ、私も玄関へ向かう。
何とかルカちゃんが泣きだす前にブーツを履かせ、自分のハイスニーカーには手早く足をつっこんだ。
大きな鞄やルカちゃんと私の髪の色や服装に突き刺さる視線を軽くいなしながら、電車に揺られること17分。
目的の駅で降りた私たちは、切符売り場で見つけた見慣れた頭に手を振った。
「あっ、カイトさーん」
「ミクちゃん、ルカ様! 何、今の電車に乗ってきたの?」
「うん。カイトさんは? メイコさん待ち? がくぽさん待ち?」
「今日はメイコは裏方だから、先行っちゃった。だからがくぽ待ち。電車の中居なかった?」
深い青に染めた髪を揺らしながらカイトさんは首を傾ける。目を細めて、初めて真っ青なカラーコンタクトに気が付いた。
その背中のギターケースも一緒に傾く。
その言葉に私とルカちゃんは顔を見合わせるが、ルカちゃんが首を振って否定した。
「少なくとも私たちの乗ってた車両には居なかったわ」
「そう?」
「あいつは目立つから居たらすぐ分かるもの」
「あっはは、それもそうかぁ」
からからと笑ってカイトさんは頭を掻く。
柔らかくてつかみ所が無くて、すうと脳味噌に染み込んでくるような声。いつまでもいつまでも聞いていても飽きない。どんなにぎんぎんのロックを歌ってもその柔らかさは薄れないと、私は知っている。
カイトさんの声は、それから酷く音域が広い。さっきまで朗らかなアルトだった声が、一瞬にしてなめらかに響くテノールへ。
はずしたところを一度も見たことがない、季節感のないマフラーがふらふらと揺れて、彼の子供みたいに無邪気な笑顔とのミスマッチが酷かった。
「あ、そういやあいつまた髪の色変わったんだよ。知ってた?」
「え? 前って青じゃなかったっけ? カイトさんみたいな。また変わったの」
「そ、あれ本人も気に入ってなかったらしくて、今は、」
其処まで言って、カイトさんの眉がちょいとあがった。
ほら、あれあれと私たちの後ろを指さしてみせる。
灰色の駅の雑踏から頭一つはみ出た鮮やかな紫がこちらへ手を振っていた。
私の隣でルカちゃんがうつむく気配がする。それがなんだかほほえましくて、私は笑ってしまった。
どんなに大人っぽくなってしまっても、ルカちゃんは17歳の私の妹なのだ。
「がくぽっ、おっそい!」
「すまん、電車が混んでいてな。っとミク、ルカ様、久しぶり」
「がくぽさーん! ひっさしぶり! すごいねその髪、似合ってる似合ってる!」
「そうか? 有り難う」
「混んでよういまいが電車の時刻表には何ら変化出ないだろ」
「あはは」
「笑って誤魔化すな!」
嘘みたいに整った顔をへらっとゆるめてがくぽさんは笑った。
ポニーテールに括られた長い長い髪がつややかな紫色でそれを縁取っている。
私は長髪の男性は苦手なのだけれど、がくぽさんに限ってはそれは除外されていた。だって格好良いし。
真っ白になるまで脱色してもさらさらキューティクルを保ったという伝説を持つがくぽさんは、よくブリーチのモニターのバイトをして髪色を変えている。一時期なんかは会う度髪の色が違うという有様だったのだが、それが全部違和感なく似合っていたのだから美形というのは恐ろしい。
今回の色も例外ではなくて、ちょっとあり得ないような紫がまるで無機物のようでおそろしく似合っていた。
「しかし、遠くからでもよくわかるな、この集団。めっちゃカラフル」
「今お前が加わってさらにカラフル度五割り増しだよ」
「後三人ぐらい呼んでリアルレインボウを……!」
「バカか」
ぱしこん、とカイトさんががくぽさんの頭を叩いた。
へらへらと笑うがくぽさんの声は深いバス。普段はそうでもないが、ファルセットをすると魔法のように響くのだ。
身長も高く派手な外見をした二人がそんなふうに騒ぐと、必然のようにたくさんの人の視線が集まる。それで連れているのが緑髪パンキッシュの私とピンク髪ゴシックのルカちゃんだ。悪意も害意もないけれど、絶対に好意ではない形の視線が突き刺さってくる。
ルカちゃんは平気そうな顔で、むしろ一心にがくぽさんを見上げているけれど、私としてはちょっと微妙な気分だ。二人の内どちらかが早く視線に気づいてくれないかな、と考えていた。
「っとー、そろそろ移動、しよっか」
「うん? ああ、まぁこんな場所に居座ったらじゃまだしな。スタジオ入りまでは時間あるし、どっかの店にでも入るか?」
「あ、ミクちゃんたちは先に入るんだよね。俺らは時間潰してくけど、どうする?」
「あー、私は、どっちでも……ルカちゃんは?」
「私もどちらでも」
「じゃあ一緒にお茶しよー」
からからと冗談めかしてカイトさんが言う。
そうですね、とルカちゃんが頷いて、ああお茶をいっぱいなんて状況になってしまったなぁと私は思った。別に彼らがそれ以上を求めてきたりしないことは分かっているからいいんだけど。この左手首に巻いたおまじないを考えてくれたのだってカイトさんだ。
「ルカ様、キーボード持つぞ。重いだろう、それ」
「ありがとう」
手をさしのべるがくぽさんにつんとすましてルカちゃんは背中のでっかい鞄を渡す。
俺も持とうかとカイトさんが手をさしのべてきて、揺れる青い髪を見て不意に私はとんでもない虚無感におそわれた。
灰色の雑踏にぜんぜん紛れ込めない私たちが居る。
まるでにんげんのふりをしているみたいじゃないか。
**********
ボーカロイドの外見をリアルに再現して人パロをしたら、確実にみんなその筋のかたになるよね、という
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