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和風パロ第二段ー
前回と同設定です
ya☆ku☆za☆っぽいカイトと極道の妻的な女中的なリンさん
もうこの一行で非常に人を選ぶのが手に取るように分かるな!
趣味に走りに走ったらなぜか鏡音ズとミクさんの年齢差が逆転しました
一体私はどこへ行きたいんだろう
**********
「リン、リン」
「なに? カイトの兄さん」
甘味ならお勝手の水屋の中にありますよう、と洗濯篭を抱いてリンは笑う。
自分の扱いに慣れきったその笑みにカイトは苦笑し、いやと頭を掻いた。
FiNゑ
長い髪が畳に広がっている。
すうすうと薄い胸を上下させ、ミクと呼ばれる屋敷の世話子は、安らかな寝顔を晒していた。
「……こんな小さいミクを自分の部屋に連れ込んで、何してるのさ、カイトの兄さん」
「なっ、何もしとらんよ俺は! 本を読ませろってせがまれたから上げただけだってば!」
「本、ねぇ」
「止めて、そんな目で俺を見ないで」
確かに仰向けで豪快に眠るミクの横には、彼女が読むには少しばかり早いのではないかとさえ思われる草子が落ちている。
この屋敷で、カイトは唯一の知識人といって差し障りない。本当の本当に育ちよく、賢慮も兼ね備えているのは囲われ娘のルカだが、それを除けば彼はお家一番の勉強家であると言えた。
あてがわれた部屋が広いものなのでその量に気付きにくいが、書物が三畳程を締める本棚に入れ込まれ、さらにその周囲にも何冊かの積み上がりが出来ている。
本当ならば学習塾にでも通うこととなっていたであろう年頃のミクは非常に知識に飢えており、こうしてカイトの部屋を訪れることがよくあったのだ。
今回はそれに夢中に成りすぎ、本当に夢中へ陥ってしまったというところか。
そういえば早朝、女中たちに混じり細々と家事を手伝う姿を見かけた。小さな体に疲れが溜まっているのもあるのやもしれない。
齢九つでこの屋敷に据え置かれ、名前を変えられそれまで手に粉を付けたことも無かろう少女にとって、この部屋は唯一年相応な勉学という行為に励める、得難く安らげる場所なのかも知れぬ。
と、学の無いリンがそんな小難しい事を考えるわけもなく。
流石にカイトが手を出そうとしていたなんていうのは冗談だが、カイトに構って貰って遊ぶうちに疲れ眠ってしまったのだろうと判断した。
「メイコの姉さんを悲しませるような事だけはしないでよね」
「し、しませんよ? えぇえ、何、この言われよう……泣きたい」
本気で涙目になっている兄貴分に溜息一つ、頼まれて押入から引き出してきた柔布で、ミクをくるむようにして持ち上げる。
カイトには布団を掛けてやりたいので出してくれとしか頼まれていなかったが、こんなほこりっぽいところで寝るのは体に悪いと主張したのはリンだった。
鍛えているなんてそんな事はないが、それでもミクの体は軽く、力を込めよう物ならぽっきりと潰れてしまいそう。
「ルカ姉さんの所で、良いのかね?」
「いいんじゃないのか、あ゛」
「あ゛?」
唐突に上がった奇妙な声に眉を寄せる。
カイトは不自然に視線をうろつかせ、決まりの悪いひきつった笑みで「ええと、ほら、今日は、さ」と言葉を濁した。濁されてもそれをくみ取る賢しさはリンには無い。彼女はけして阿呆ではないが、思慮だとかには結構欠けていた。
然る後、カイトが何をいいたいのか全く分からない。
「今日は? 何かあったっけ?」
「ほら、リン、若が!」
「若が?」
ああもう!
そんな風にカイトは乱暴に頭を掻くが、リンにはさっぱり解さない。
確かに今日は若こと、神威家長男がこの屋敷に居る。
それは本来なら取り立てて珍しいことでも無いのだが、最近の所何やら立て込んでいたごたごたがあったとかでめっきり居られなかったのだ。昨日も昨日、そのごたごたが収束したとかでやっとこさの帰宅と相成った。
その際、リンも暫く振りにレンとの再会を演じたわけだが、その辺りの記憶は大変恥ずかしいので早くも封印されている。
そんでもって、その若が。
疲れのためかまだ恐らく起床もされていない若が。
一体全体、時期お台所のルカ姉さんのお部屋となんのご関係が。
「……ああ、はいはいはい」
「うん、分かってくれたか」
両手を打とうとして、ミクを抱えているのを思い出して止める。
カイトはしたり顔で頷いた。
ならば、どうしたものかなぁとリンは首を傾け、これだけ会話をしていてもすいよすいよと眠り続けるミクを見やる。
カイトの部屋での読書も、幼く賢しい彼女なりに愛するあねさまを気遣ったが故の行動だったのだが、リンはそんなことを知る由もない。
ただでさえ来客が激しく、慌ただしいこの屋敷だ。適当な座敷に転がしておくという訳にも行くまい。客人の侠客を通した先に、小さな餓鬼砂利がすいよすいよと眠っておられるのでは総本家神威の名が立たない。
傾物と称される若ならば面白がってそれを許しそうだが、彼の妹さまがそれを許すか。許すわけがあられない。
「……どうしたものかね」
カイトは左上をにらみつけ、ふうと鼻から息を吐く。
リンの腕の中のミクが「んんんん」と身じろいだ。
「リンー、リン何処行ったー?」
「リンちゃんなら、カイト兄さんのとこ行くの、見たけど……」
「カイトの兄さん?」
んん、とレンは眉を寄せる。
今更二人の仲をどうこうと疑うことなどない。間違うことなく、血の繋がることがなかろうが、彼と彼女は妹と兄だ。それが覆ったりすることなど、天と地がひっくり返らなければわからない。
教えてくれたハクに礼を言い、カイトにあてがわれた座敷へと足を向ける。
入って、一つ溜息を吐いた。
「……布団、どこにあるんだっけ?」
二人分の布団の追加を探すべく、レンは踵を返した。
**********
けしてリンカイではない何か
なんなんだろう……一体何処へ行きたいんだろうか私は
欲望のまま突っ走ってるよ!きをつけよう 妄想は急には止まらない
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人間パロ二回目ー
前のと同設定です。そういや鏡音姉弟いねぇなぁということで
**********
人身事故が発生したため、電車の到着が遅れています……
そんな放送が全部聞こえる前に、僕は改札の前で踵を返した。
反射の僕と贋作の彼ら
がこん、と音を立てて落ちてきた缶ジュースのプルタブを引っ張りながら、駅前の広場のベンチに腰掛ける。
入学祝いに買って貰った腕時計を確認するとアナログな時針は午後五時を指していて、リンはもう家の扉をくぐったのかなぁと僕は思った。放課後真っ直ぐに校門を目指せば、僕だって今頃は家のリビングでスナック菓子でも食べていたろうと思うとなんだかやるせない。
傾けた缶から甘ったるいバナナオレが口へ流れ込んだ。
広場の人通りは多いけれど、なんだかその風景が酷く灰色に見える。沢山の色があるはずなのに、飽和してしまったみたいだ。
不意に誰かと話したいと思った。
学校でそうやっているように、ふざけて笑いあって、どうにかこの気持ちを流してしまいたいと思った。
そうでなければ、泣いてしまいそうで。
「ねぇ、君」
「――隣、いいかな?」
かかった声は嘘みたいに綺麗で、機械音かと思った。
「へ、あ、はい」
「そっか。ありがとうね」
思わず弾かれたように其方を見ると、腰まであるような長い長い緑色に染められた髪を二つに結って笑う女の子がいた。
僕よりも少し年上だろう、けれどなんだかいたずらっ子のような無邪気な笑み。
いわゆるゴシックパンクというような格好とその奇抜な髪の色に僕が思わず眉をしかめていると、その子はくるりと振り返って「いいってさー」と自分の背後に手を振った。その視線の先には、やたらとひらひらした服を着たピンクの髪の女のひとと、大きな荷物を抱え紫のポニーテイルを揺らす美形の男の人とその隣でアイスをくわえる青い頭のお兄さんがいる。
え、なにこの集団。あ、危ない。
逃げた方がいいのかと僕は腰を浮かせかけた。
なんだか彼らはその髪の色が当然のように似合っていて、妙にはまっているのが気になった。
僕が瞬きを繰り返していると、灰色の風景の中でぽっかり浮くようにカラフルな集団は、僕の隣でがたんがたんとなにやら始める。
「がくぽそっち押さえて」「ルカちゃん、電源コードは?」「え? あ、……あ、あ!」「ルカ様、これ違うか?」「あっそれそれ、がくぽさんありがとー。ほらルカちゃんあったよー」「ぎゃー! アイスが垂れた!」「レスポールにアイス!」「おまえなにやってんだ」「勿体ねええ! リッチミルクぅぅうう!」「そっち?!」「設置出来たわよ」「あれ、アンプ何処やった」
しゃきんとスタンドが現れ、とんと小型アンプがラバーソールの足下に置かれる。
あっと言う間に大きな鞄からはキーボードが出てきて、ツインギターとベースも加わったバンドの携帯ができあがった。
派手な外見の彼らがそうしているのに、沢山の人が興味深そうに横目を送っていく。
「じゃ、いこーか」
ぎ、とギターケースから現れた真っ赤なギターを抱え、緑の髪の子が後ろに控える三人に目配せした。
頷きを確認して前に向き直ったその子は、もう一度振り返って僕に笑いかける。え、と僕が面食らっていると、ひィと喉のなるおと。
「 ―――ッ!」
強烈なシャウト。
がり、と鼓膜をひっかくようなそれに、無数の視線がぞろりとこちらを向いた。
後を追うように地を這うベースが鳴る。音の主はひたすらに楽しそうに紫の髪を振り乱して四弦を引っかく。
打楽器のないその形態に、不思議に薄いドラムの音が鳴った。キーボードを叩く女の人が一定のリズムで鍵盤に指をたたきつけている。
馬鹿みたいなテクニックのギターにびりびりと頬がひきつる。其れをならす青い頭はアイスの棒をくわえたまま涼しい表情。
なんだ、この人たち。
先ほどとは違った意味のそのつぶやきは、吐き出して叫ぶような女の子の歌声にかき消された。マイクも無しに叫ぶそれは楽器にかき消されても可笑しくないのに、全然負けていない。まるで彼女自身が一個の楽器のようだった。
嘔吐をするようなシャウト。
最近はやっているアイドル歌手の声と少しだけ似ていた。
**********
リンはどこへいったの!
前のと同設定です。そういや鏡音姉弟いねぇなぁということで
**********
人身事故が発生したため、電車の到着が遅れています……
そんな放送が全部聞こえる前に、僕は改札の前で踵を返した。
反射の僕と贋作の彼ら
がこん、と音を立てて落ちてきた缶ジュースのプルタブを引っ張りながら、駅前の広場のベンチに腰掛ける。
入学祝いに買って貰った腕時計を確認するとアナログな時針は午後五時を指していて、リンはもう家の扉をくぐったのかなぁと僕は思った。放課後真っ直ぐに校門を目指せば、僕だって今頃は家のリビングでスナック菓子でも食べていたろうと思うとなんだかやるせない。
傾けた缶から甘ったるいバナナオレが口へ流れ込んだ。
広場の人通りは多いけれど、なんだかその風景が酷く灰色に見える。沢山の色があるはずなのに、飽和してしまったみたいだ。
不意に誰かと話したいと思った。
学校でそうやっているように、ふざけて笑いあって、どうにかこの気持ちを流してしまいたいと思った。
そうでなければ、泣いてしまいそうで。
「ねぇ、君」
「――隣、いいかな?」
かかった声は嘘みたいに綺麗で、機械音かと思った。
「へ、あ、はい」
「そっか。ありがとうね」
思わず弾かれたように其方を見ると、腰まであるような長い長い緑色に染められた髪を二つに結って笑う女の子がいた。
僕よりも少し年上だろう、けれどなんだかいたずらっ子のような無邪気な笑み。
いわゆるゴシックパンクというような格好とその奇抜な髪の色に僕が思わず眉をしかめていると、その子はくるりと振り返って「いいってさー」と自分の背後に手を振った。その視線の先には、やたらとひらひらした服を着たピンクの髪の女のひとと、大きな荷物を抱え紫のポニーテイルを揺らす美形の男の人とその隣でアイスをくわえる青い頭のお兄さんがいる。
え、なにこの集団。あ、危ない。
逃げた方がいいのかと僕は腰を浮かせかけた。
なんだか彼らはその髪の色が当然のように似合っていて、妙にはまっているのが気になった。
僕が瞬きを繰り返していると、灰色の風景の中でぽっかり浮くようにカラフルな集団は、僕の隣でがたんがたんとなにやら始める。
「がくぽそっち押さえて」「ルカちゃん、電源コードは?」「え? あ、……あ、あ!」「ルカ様、これ違うか?」「あっそれそれ、がくぽさんありがとー。ほらルカちゃんあったよー」「ぎゃー! アイスが垂れた!」「レスポールにアイス!」「おまえなにやってんだ」「勿体ねええ! リッチミルクぅぅうう!」「そっち?!」「設置出来たわよ」「あれ、アンプ何処やった」
しゃきんとスタンドが現れ、とんと小型アンプがラバーソールの足下に置かれる。
あっと言う間に大きな鞄からはキーボードが出てきて、ツインギターとベースも加わったバンドの携帯ができあがった。
派手な外見の彼らがそうしているのに、沢山の人が興味深そうに横目を送っていく。
「じゃ、いこーか」
ぎ、とギターケースから現れた真っ赤なギターを抱え、緑の髪の子が後ろに控える三人に目配せした。
頷きを確認して前に向き直ったその子は、もう一度振り返って僕に笑いかける。え、と僕が面食らっていると、ひィと喉のなるおと。
「 ―――ッ!」
強烈なシャウト。
がり、と鼓膜をひっかくようなそれに、無数の視線がぞろりとこちらを向いた。
後を追うように地を這うベースが鳴る。音の主はひたすらに楽しそうに紫の髪を振り乱して四弦を引っかく。
打楽器のないその形態に、不思議に薄いドラムの音が鳴った。キーボードを叩く女の人が一定のリズムで鍵盤に指をたたきつけている。
馬鹿みたいなテクニックのギターにびりびりと頬がひきつる。其れをならす青い頭はアイスの棒をくわえたまま涼しい表情。
なんだ、この人たち。
先ほどとは違った意味のそのつぶやきは、吐き出して叫ぶような女の子の歌声にかき消された。マイクも無しに叫ぶそれは楽器にかき消されても可笑しくないのに、全然負けていない。まるで彼女自身が一個の楽器のようだった。
嘔吐をするようなシャウト。
最近はやっているアイドル歌手の声と少しだけ似ていた。
**********
リンはどこへいったの!
JBFピアノバージョンエンドレスしたらもう妄想が止まらないので吐き出し
例のごとく全然原型はとどめてない
ピクシブのとある絵から着想を得ました。
本人様知らないでしょうが有り難う御座いますすみません。
苦情が出たら速攻消去します
現代パロかつ若干痛々しいので注意
キャラ? とっくの昔に崩壊してますがなにか?
**********
朝起きたら、右手に赤い糸が巻き付けられていた。
其処から伸びた一端の先には、酷く冷たい瞳をした彼女。
友達になんてなれない
「……ルカ?」
なぜだか酷く痛む頭を、気怠い腕で押さえた。ぎしりとベッドのスプリングが腰の下で軋む。
彼女は変わらず冷たい瞳で僕の手をのぞき込んでいる。
右手の指先が鬱血していく感覚におもわず眉を寄せて目を下ろすと、雁字搦めに巻き付けられた赤い毛糸が目に入った。思わず瞬きをする。
化繊でできたそれが僕の片手を締め付け、指の動きを拘束していた。
「ルカ? なんだこれは?」
「赤い糸」
そう言いながら、彼女は僕の手から伸びた毛糸の一端を自分の手に巻き付け始めた。
ぐるぐると、きつく、煩雑な手つきで絡めていく。
みる間に彼女の白い手が赤くまだらになった。
「それくらい、見れば分かる」
「うん」
ぐるぐるとぐるぐると巻き付いた毛糸の先を薬指に結びつけ、ルカはやっと手を止めた。
のっぺりとした無表情が、やっぱり手元の赤い糸をじっと見ている。
その姿に、じりじりと焦燥しているようにこめかみが痛んだ。
白く清潔なシーツのベッドと、殺風景な壁。この落ち着いた内装はルカの部屋だ。
ぽろぽろと昨日の記憶が頭にわき上がる。
そう、昨日は彼女に誘われて。ご飯を食べて、いつものように喧嘩をして、それから、それから、……どうしたのだったか。頭が重くて、思考が鈍い。浅い吐き気がした。喧嘩をいつものように、という風に表現してしまう自分に酷く苛つく。
絶対に大きなベッドは譲らない、というルカの信念の元に部屋に置かれたベッドの上、寝ていたらしい僕の枕元にルカは座っていた。
その手元に赤い持ち手のはさみが転がっていて、その刃に反射した光が僕の目を刺す。白いカーテンは引かれ、大きな窓から朝日が射し込んでいた。
「具合、大丈夫?」
「え? だ、いじょうぶ」
反射的にそう答えるが、全然大丈夫な気はなかった。
ルカは相変わらずうつむいたままで、表情は伺えない。
「急にばたって倒れたから、驚いたのよ」
「あ、ああ……酔ったん、だったか」
それならこの頭の痛みにも、言いようのない倦怠感にも頷ける。
記憶には無いが、苛立ちにまかせ手元にあった酒でも飲んだんだろう。下戸の上に絡み酒の気がある僕の事だから、ルカに相当迷惑をかけてしまったに違いない。
急に申し訳なく感じ慌てて体を起こしたが、ごんと脳を内側から揺さぶられるような痛みに眉を寄せた。胃のあたりがむかむかする。
ああ、これは相当悪酔いしていたに違いない。 心の底から罪悪感がわいてくる。
恐らくルカは僕の世話を焼いてくれたのだろう。
感謝と謝罪を述べようと向き直ると、ルカは転がっていた鋏を手に取るところだった。しゃきんと金属の擦れ合う音がして、僕の声は飲み込まれた。
「……あなたが寝ている間にね、殺してしまおうと思ったの」
ハスキーな彼女の声は、少しだけ泣いているようにも聞こえた。
「は、……何の、冗談だ?」
「冗談なんかじゃないわよ」
ルカは顔を上げた。
そこには人形みたいな無表情が貼り付いている。
それは酷く不気味で。なんだか、悲しかった。
「お酒にスポーツドリンクを混ぜたの。わたしは飲まなかったわ。あなたが寝たら、殺して、わたしも死のうと思ったのよ」
「なん、で」
なんでそんなことを。
「あなたと喧嘩しながらね、こんなことなら別れた方がいいんじゃないのかって思ったのよ。
こんなにつらいなら、もう会わない方がいいんじゃないかって。
でも、それを想像して、そしたら急に怖くなったの。
絶対にいや。
別れたくなんて無い。
無理よ、離ればなれになるなんて。
でも、あなたがもしもそれを望んだら。わたしが思ったように、あなたもそう思ったら、って思ったら、怖くて怖くてたまらなくなった。
だから、殺してしまおうと思ったの。そうすればあなたは別れよう何て言わないもの」
でもね、とルカは顔を伏せた。
「眠ってるあなたをくびり殺そうと思って、手をかけても、全然駄目なの。力が入らないのよ。
殺せないよ。だって生きていてほしいもの。死んでしまったら、あなたは笑ったり歌ったりしてくれないもの。
だから、あきらめることにしたの」
顔を上げて初めて、ルカはにっこりと笑った。
目を細めて、口の橋をあげて、ちょっと小首を傾げた、いつもの笑み。
それは、泣きたくなるくらいに綺麗な顔だった。
「このね、赤い糸。
これを切ったら、全部終わりにしましょ。
全然の他人は悲しすぎるから、友達になりましょう。
あなたはわたしの部屋に遊びに来て酔っぱらって泊まっていった男友達で、わたしはこういうのは困るからもうやめてよねって怒るわ。
友達だったらいいわよね? 恋人みたいに踏み込まないから、わたしがあなたという男友達をどう思っていようが、あなたは知らなければ知らないでいいの。
この糸を切ったら、それでいいわよね? そう、しましょ?」
しゃきん、と鋏が空を切る音がする。
息をのむように、祈るように、ルカは糸を二つの刃に挟んで、それを僕の手に握らせて一緒に手を添えた。
刃の先がふるえる。
「嫌だ!」
金属音は、響かない。
代わりに差し込んだ僕の手に鈍い痛みが広がる。
普通の鋏では流石に傷は付かないけれど、じくじくと痛む。
じくじくとじくじくと。視界がにじむのは、その所為ではない。
「嫌だ。そんなのは駄目だ。断る。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ!」
「がく、ぽ」
「無理だ、嫌だ。絶対に嫌だ。何で、何で好きなのに、好きなのにそんな風に」
「でも、もうこんなのは、」
「嫌だ!」
頬を涙が伝っていくのが分かった。
一筋跡が出来れば、あとはもう簡単に、洪水のように流れていく。
駄々っ子のようだ、と冷静な自分が呟いて、その自分さえもルカとは離れがたいからしょうがないと自嘲した。
「いやだ、友達になんてなりたくない。好きだ愛してる、愛してるんだよ」
鋏がベッドから落ちて音を立てた。
ルカの顔は涙で濡れて見えない。困った顔をしているのだろうか。泣きそうな顔をしているのだろうか。分からない。赤いひもが巻き付いたその白い手を両手で握りしめていると、そっと冷たい指がそれを包み込んだ。
僕とルカの体温の差。
「私だって、そんなの嫌よ」
ぐすりと鼻をすすり上げる音が聞こえる。
雨のように、ぼたりぼたりと涙がシーツを叩く。
それは僕のものだろうか。それともルカのものだろうか。
「友達になんてなれない」
(さよならを言う時なんて永遠に来なくていい)
**********
いろいろとごめんなさい。
本当にごめんなっさい。
もうこれがくぽとルカでする必要あんのとかね。
っていうか何かもう恥ずかしいやらなんやらですごく死にそう。恥ずかしいよ!
あとすごくほうぼうの方々にごめんなさいしないといけないよね。ごめんなさい
これがくぽ×ルカをリクエストして下さった方に捧げようかと思ってたんですが流石に無いな!
もっとこうラブラブしたツンデレっとしたのを書きます。少々お待ち下さい。
例のごとく全然原型はとどめてない
ピクシブのとある絵から着想を得ました。
本人様知らないでしょうが有り難う御座いますすみません。
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現代パロかつ若干痛々しいので注意
キャラ? とっくの昔に崩壊してますがなにか?
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朝起きたら、右手に赤い糸が巻き付けられていた。
其処から伸びた一端の先には、酷く冷たい瞳をした彼女。
友達になんてなれない
「……ルカ?」
なぜだか酷く痛む頭を、気怠い腕で押さえた。ぎしりとベッドのスプリングが腰の下で軋む。
彼女は変わらず冷たい瞳で僕の手をのぞき込んでいる。
右手の指先が鬱血していく感覚におもわず眉を寄せて目を下ろすと、雁字搦めに巻き付けられた赤い毛糸が目に入った。思わず瞬きをする。
化繊でできたそれが僕の片手を締め付け、指の動きを拘束していた。
「ルカ? なんだこれは?」
「赤い糸」
そう言いながら、彼女は僕の手から伸びた毛糸の一端を自分の手に巻き付け始めた。
ぐるぐると、きつく、煩雑な手つきで絡めていく。
みる間に彼女の白い手が赤くまだらになった。
「それくらい、見れば分かる」
「うん」
ぐるぐるとぐるぐると巻き付いた毛糸の先を薬指に結びつけ、ルカはやっと手を止めた。
のっぺりとした無表情が、やっぱり手元の赤い糸をじっと見ている。
その姿に、じりじりと焦燥しているようにこめかみが痛んだ。
白く清潔なシーツのベッドと、殺風景な壁。この落ち着いた内装はルカの部屋だ。
ぽろぽろと昨日の記憶が頭にわき上がる。
そう、昨日は彼女に誘われて。ご飯を食べて、いつものように喧嘩をして、それから、それから、……どうしたのだったか。頭が重くて、思考が鈍い。浅い吐き気がした。喧嘩をいつものように、という風に表現してしまう自分に酷く苛つく。
絶対に大きなベッドは譲らない、というルカの信念の元に部屋に置かれたベッドの上、寝ていたらしい僕の枕元にルカは座っていた。
その手元に赤い持ち手のはさみが転がっていて、その刃に反射した光が僕の目を刺す。白いカーテンは引かれ、大きな窓から朝日が射し込んでいた。
「具合、大丈夫?」
「え? だ、いじょうぶ」
反射的にそう答えるが、全然大丈夫な気はなかった。
ルカは相変わらずうつむいたままで、表情は伺えない。
「急にばたって倒れたから、驚いたのよ」
「あ、ああ……酔ったん、だったか」
それならこの頭の痛みにも、言いようのない倦怠感にも頷ける。
記憶には無いが、苛立ちにまかせ手元にあった酒でも飲んだんだろう。下戸の上に絡み酒の気がある僕の事だから、ルカに相当迷惑をかけてしまったに違いない。
急に申し訳なく感じ慌てて体を起こしたが、ごんと脳を内側から揺さぶられるような痛みに眉を寄せた。胃のあたりがむかむかする。
ああ、これは相当悪酔いしていたに違いない。 心の底から罪悪感がわいてくる。
恐らくルカは僕の世話を焼いてくれたのだろう。
感謝と謝罪を述べようと向き直ると、ルカは転がっていた鋏を手に取るところだった。しゃきんと金属の擦れ合う音がして、僕の声は飲み込まれた。
「……あなたが寝ている間にね、殺してしまおうと思ったの」
ハスキーな彼女の声は、少しだけ泣いているようにも聞こえた。
「は、……何の、冗談だ?」
「冗談なんかじゃないわよ」
ルカは顔を上げた。
そこには人形みたいな無表情が貼り付いている。
それは酷く不気味で。なんだか、悲しかった。
「お酒にスポーツドリンクを混ぜたの。わたしは飲まなかったわ。あなたが寝たら、殺して、わたしも死のうと思ったのよ」
「なん、で」
なんでそんなことを。
「あなたと喧嘩しながらね、こんなことなら別れた方がいいんじゃないのかって思ったのよ。
こんなにつらいなら、もう会わない方がいいんじゃないかって。
でも、それを想像して、そしたら急に怖くなったの。
絶対にいや。
別れたくなんて無い。
無理よ、離ればなれになるなんて。
でも、あなたがもしもそれを望んだら。わたしが思ったように、あなたもそう思ったら、って思ったら、怖くて怖くてたまらなくなった。
だから、殺してしまおうと思ったの。そうすればあなたは別れよう何て言わないもの」
でもね、とルカは顔を伏せた。
「眠ってるあなたをくびり殺そうと思って、手をかけても、全然駄目なの。力が入らないのよ。
殺せないよ。だって生きていてほしいもの。死んでしまったら、あなたは笑ったり歌ったりしてくれないもの。
だから、あきらめることにしたの」
顔を上げて初めて、ルカはにっこりと笑った。
目を細めて、口の橋をあげて、ちょっと小首を傾げた、いつもの笑み。
それは、泣きたくなるくらいに綺麗な顔だった。
「このね、赤い糸。
これを切ったら、全部終わりにしましょ。
全然の他人は悲しすぎるから、友達になりましょう。
あなたはわたしの部屋に遊びに来て酔っぱらって泊まっていった男友達で、わたしはこういうのは困るからもうやめてよねって怒るわ。
友達だったらいいわよね? 恋人みたいに踏み込まないから、わたしがあなたという男友達をどう思っていようが、あなたは知らなければ知らないでいいの。
この糸を切ったら、それでいいわよね? そう、しましょ?」
しゃきん、と鋏が空を切る音がする。
息をのむように、祈るように、ルカは糸を二つの刃に挟んで、それを僕の手に握らせて一緒に手を添えた。
刃の先がふるえる。
「嫌だ!」
金属音は、響かない。
代わりに差し込んだ僕の手に鈍い痛みが広がる。
普通の鋏では流石に傷は付かないけれど、じくじくと痛む。
じくじくとじくじくと。視界がにじむのは、その所為ではない。
「嫌だ。そんなのは駄目だ。断る。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ!」
「がく、ぽ」
「無理だ、嫌だ。絶対に嫌だ。何で、何で好きなのに、好きなのにそんな風に」
「でも、もうこんなのは、」
「嫌だ!」
頬を涙が伝っていくのが分かった。
一筋跡が出来れば、あとはもう簡単に、洪水のように流れていく。
駄々っ子のようだ、と冷静な自分が呟いて、その自分さえもルカとは離れがたいからしょうがないと自嘲した。
「いやだ、友達になんてなりたくない。好きだ愛してる、愛してるんだよ」
鋏がベッドから落ちて音を立てた。
ルカの顔は涙で濡れて見えない。困った顔をしているのだろうか。泣きそうな顔をしているのだろうか。分からない。赤いひもが巻き付いたその白い手を両手で握りしめていると、そっと冷たい指がそれを包み込んだ。
僕とルカの体温の差。
「私だって、そんなの嫌よ」
ぐすりと鼻をすすり上げる音が聞こえる。
雨のように、ぼたりぼたりと涙がシーツを叩く。
それは僕のものだろうか。それともルカのものだろうか。
「友達になんてなれない」
(さよならを言う時なんて永遠に来なくていい)
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いろいろとごめんなさい。
本当にごめんなっさい。
もうこれがくぽとルカでする必要あんのとかね。
っていうか何かもう恥ずかしいやらなんやらですごく死にそう。恥ずかしいよ!
あとすごくほうぼうの方々にごめんなさいしないといけないよね。ごめんなさい
これがくぽ×ルカをリクエストして下さった方に捧げようかと思ってたんですが流石に無いな!
もっとこうラブラブしたツンデレっとしたのを書きます。少々お待ち下さい。
人間パロ
人間パロって言葉の響きすごいな
退廃的というか不良的というか排他的というか
いろんなイメージをたたき壊しにいってます
**********
この日のために買ったカラーコンタクトの色は、あさいあおみどり。
170色もある色見本から気に入る色を探し出すのは骨の折れる作業だったけれど、これ以上ないほどのお気に入りを見つけられたから、私は満足していた。
アイラインには幼さを残して、ラメも入れないピンクのシャドウをうっすら入れるだけ。
ニンゲンのフリしようか
ガーゼシャツとチェックのプリーツスカートの組み合わせは、正義みたいなものだ。
カラコンと併せて買ったおんなじいろのマニキュアを塗った指先。
ステッカーをべたべたに貼ったギターをもって、七分の袖から覗くまっさらな左手首に包帯を巻けば、私は立派な排他的退廃少女になれる。ほんの少し気を回せばそのギターが左利き用なのに気づけるはずなのに、このおまじないをしただけで言い寄ってくる鬱陶しい男の子が七割は軽減されるのだ。
べつに一緒にお茶をしておしゃべりするくらいなら私はぜんぜん構わないけれど、なぜだかそれ以上を求めてきたりする男の子が後を絶たなくて、私という消費者センターはすっかりまいってしまうのだ。
ついでに今日はお茶をいっぱいいただこうかしらなんてことをやっている暇もない。
「あーさーめがさめてー」
最近よくラジオでかかってるアイドル歌手の歌を口ずさむ。
可愛い曲だ。私にはぜんぜん似合わない。
そんなことを考えながら鏡をのぞき込む。
頭の天辺ちかくで二つに結んだ髪は、何かの手違いのような緑色をしている。
そうだ髪染めようと思い立ってその辺の美容院に入ったら、どんな色になさいますかとぶわーっと色見本を見せられて、何となくそいやっと指さしたのがこの色だったのだ。
髪が伸びるのが早い方なので、一月に一回は染め直しに行かなくてはならないのが非常に鬱陶しい。
色は気に入っているのにな、と痛んだ毛先を軽くはじく。
真っ赤なピンを前髪にぶすぶす差し込んで、いろんな角度からマスカラをチェックしている内に隣の部屋からルカちゃんの「ミクちゃん、たすけてぇ」という情けない声が聞こえてくる。
ルカちゃんの声は高音の伸びがすごく綺麗で、ハスキーなその感じが私はすごく好きなんだけれど、こんな声ばかり聞いているとなんだかなぁと思ってしまう。
ルカちゃんは外ではすごくすごく取り繕ってルカ様なんて呼ばれているけれど、私の前では情けなくておっちょこちょいで可愛いルカちゃんでしかない。
そうも思うと、情けない声もすごく可愛くてちょっとにやけてしまった。
「ミクちゃあん、意地悪しないでぇ、たすけてぇえ」
おっと、泣きが入ってきた。急がなきゃ。
「はいはいはいはい、今行くよー」
転がったMIDI用の鍵盤や服やCD、マンガやバックを踏まないように、細心の注意を払いながら私は部屋を出る。
すぐとなりにある扉を開ける前に、ちょっと見比べてみた。
私が出てきた扉には『miku's room』とペンキで書かれた金属プレートと、首をつった兎のモービルがぶら下がっていまもまだからからと音を立てている。
そのとなり、「ミクちゃぁん」と悲鳴を漏らしている扉には、木目の落ち着いたプレートがついているだけ。安っぽいクッキー字が『ruka's room』と並んでいる。
性格が出てるなぁ、と一息。
「まだぁ? ねぇ、ミクちゃん、ルカを見捨てないでぇえ」とほとんど泣いてる声を漏らす扉を開く。
ピンクと黒で統一された部屋はあまぁい香りがした。
レースの似合う部屋は程々に片づいていて、程々に散らかっている。
不快の森と呼ばれた私の部屋とは似てもにつかない。
「ミクちゃん!」
そんな部屋の真ん中で、ふわふわと黒いリボンを髪に絡まらせたルカちゃんが私を見て泣き声をあげた。
私より年下のくせに私より大人っぽい外見の彼女がぐしゃぐしゃに顔を歪ませている様子は、正直ちょっと気まずい。
服の背中に付いた装飾用のリボンが髪に絡まって、収拾がつかなくなったらしい。だからそんなごてごてとレースやリボンの付いた服はルカちゃんには向かないよって言ったのに。似合うんだけど、ゴシックドレスっていうのは着るのに器用さが求められるのだ。ルカちゃんは破滅的な不器用で、毎日のように私に助けを求めてくる。
困るのだ。
今もなんというか、私より遙かに放漫なおっぱいが、ほとんど丸見えのような状態。
おかしいな、私の方が年上なのにな。二年くらい前まではもっと普通にちっちゃかったのに。
身長も抜かされちゃったし、どういうことだろう。
姉としての沽券に関わる!
「ごめんなさいごめんなさい、後ろで絡まっちゃって、引っ張ったら痛くって」
「はいはい、分かったから、ルカちゃんは前のリボンちゃんと止めて」
「はっ、はぁい!」
ぐすぐすと目尻をこするルカちゃんの服を整えて、きちんと化粧をするように言う。
まだカラコンも入れてなかったルカちゃんは慌ててあわいブルーのレンズを取り出した。
ルカちゃんがお化粧をしている間に、一昔前にはやったような桃色に染められたその髪を整えてあげる。
スプレーを振り、小さなお団子を作ってハットをかぶせると、ファンデーションを塗る内にすっかり上っ面を作り上げたルカちゃんは、余裕の笑みで「ミクちゃん、ありがとう」と言って見せた。声色までも変わっている。
恐るべし、お化粧効果。
「それじゃ、そろそろ行こうか」
「そうね」
私の言葉に、ルカちゃんは部屋の隅にあった大きな鞄をかるがると担いだ。
ふわふわでシックな服に似合わない、もっさいバック。
先に玄関行ってるからね、と自分の部屋に戻る私に言って、玄関へと行ってしまう。編み上げのブーツを履くつもりなんだろう。化粧をした後に泣かれると困るので急いで部屋からギターとそのケースを取り上げ、私も玄関へ向かう。
何とかルカちゃんが泣きだす前にブーツを履かせ、自分のハイスニーカーには手早く足をつっこんだ。
大きな鞄やルカちゃんと私の髪の色や服装に突き刺さる視線を軽くいなしながら、電車に揺られること17分。
目的の駅で降りた私たちは、切符売り場で見つけた見慣れた頭に手を振った。
「あっ、カイトさーん」
「ミクちゃん、ルカ様! 何、今の電車に乗ってきたの?」
「うん。カイトさんは? メイコさん待ち? がくぽさん待ち?」
「今日はメイコは裏方だから、先行っちゃった。だからがくぽ待ち。電車の中居なかった?」
深い青に染めた髪を揺らしながらカイトさんは首を傾ける。目を細めて、初めて真っ青なカラーコンタクトに気が付いた。
その背中のギターケースも一緒に傾く。
その言葉に私とルカちゃんは顔を見合わせるが、ルカちゃんが首を振って否定した。
「少なくとも私たちの乗ってた車両には居なかったわ」
「そう?」
「あいつは目立つから居たらすぐ分かるもの」
「あっはは、それもそうかぁ」
からからと笑ってカイトさんは頭を掻く。
柔らかくてつかみ所が無くて、すうと脳味噌に染み込んでくるような声。いつまでもいつまでも聞いていても飽きない。どんなにぎんぎんのロックを歌ってもその柔らかさは薄れないと、私は知っている。
カイトさんの声は、それから酷く音域が広い。さっきまで朗らかなアルトだった声が、一瞬にしてなめらかに響くテノールへ。
はずしたところを一度も見たことがない、季節感のないマフラーがふらふらと揺れて、彼の子供みたいに無邪気な笑顔とのミスマッチが酷かった。
「あ、そういやあいつまた髪の色変わったんだよ。知ってた?」
「え? 前って青じゃなかったっけ? カイトさんみたいな。また変わったの」
「そ、あれ本人も気に入ってなかったらしくて、今は、」
其処まで言って、カイトさんの眉がちょいとあがった。
ほら、あれあれと私たちの後ろを指さしてみせる。
灰色の駅の雑踏から頭一つはみ出た鮮やかな紫がこちらへ手を振っていた。
私の隣でルカちゃんがうつむく気配がする。それがなんだかほほえましくて、私は笑ってしまった。
どんなに大人っぽくなってしまっても、ルカちゃんは17歳の私の妹なのだ。
「がくぽっ、おっそい!」
「すまん、電車が混んでいてな。っとミク、ルカ様、久しぶり」
「がくぽさーん! ひっさしぶり! すごいねその髪、似合ってる似合ってる!」
「そうか? 有り難う」
「混んでよういまいが電車の時刻表には何ら変化出ないだろ」
「あはは」
「笑って誤魔化すな!」
嘘みたいに整った顔をへらっとゆるめてがくぽさんは笑った。
ポニーテールに括られた長い長い髪がつややかな紫色でそれを縁取っている。
私は長髪の男性は苦手なのだけれど、がくぽさんに限ってはそれは除外されていた。だって格好良いし。
真っ白になるまで脱色してもさらさらキューティクルを保ったという伝説を持つがくぽさんは、よくブリーチのモニターのバイトをして髪色を変えている。一時期なんかは会う度髪の色が違うという有様だったのだが、それが全部違和感なく似合っていたのだから美形というのは恐ろしい。
今回の色も例外ではなくて、ちょっとあり得ないような紫がまるで無機物のようでおそろしく似合っていた。
「しかし、遠くからでもよくわかるな、この集団。めっちゃカラフル」
「今お前が加わってさらにカラフル度五割り増しだよ」
「後三人ぐらい呼んでリアルレインボウを……!」
「バカか」
ぱしこん、とカイトさんががくぽさんの頭を叩いた。
へらへらと笑うがくぽさんの声は深いバス。普段はそうでもないが、ファルセットをすると魔法のように響くのだ。
身長も高く派手な外見をした二人がそんなふうに騒ぐと、必然のようにたくさんの人の視線が集まる。それで連れているのが緑髪パンキッシュの私とピンク髪ゴシックのルカちゃんだ。悪意も害意もないけれど、絶対に好意ではない形の視線が突き刺さってくる。
ルカちゃんは平気そうな顔で、むしろ一心にがくぽさんを見上げているけれど、私としてはちょっと微妙な気分だ。二人の内どちらかが早く視線に気づいてくれないかな、と考えていた。
「っとー、そろそろ移動、しよっか」
「うん? ああ、まぁこんな場所に居座ったらじゃまだしな。スタジオ入りまでは時間あるし、どっかの店にでも入るか?」
「あ、ミクちゃんたちは先に入るんだよね。俺らは時間潰してくけど、どうする?」
「あー、私は、どっちでも……ルカちゃんは?」
「私もどちらでも」
「じゃあ一緒にお茶しよー」
からからと冗談めかしてカイトさんが言う。
そうですね、とルカちゃんが頷いて、ああお茶をいっぱいなんて状況になってしまったなぁと私は思った。別に彼らがそれ以上を求めてきたりしないことは分かっているからいいんだけど。この左手首に巻いたおまじないを考えてくれたのだってカイトさんだ。
「ルカ様、キーボード持つぞ。重いだろう、それ」
「ありがとう」
手をさしのべるがくぽさんにつんとすましてルカちゃんは背中のでっかい鞄を渡す。
俺も持とうかとカイトさんが手をさしのべてきて、揺れる青い髪を見て不意に私はとんでもない虚無感におそわれた。
灰色の雑踏にぜんぜん紛れ込めない私たちが居る。
まるでにんげんのふりをしているみたいじゃないか。
**********
ボーカロイドの外見をリアルに再現して人パロをしたら、確実にみんなその筋のかたになるよね、という
人間パロって言葉の響きすごいな
退廃的というか不良的というか排他的というか
いろんなイメージをたたき壊しにいってます
**********
この日のために買ったカラーコンタクトの色は、あさいあおみどり。
170色もある色見本から気に入る色を探し出すのは骨の折れる作業だったけれど、これ以上ないほどのお気に入りを見つけられたから、私は満足していた。
アイラインには幼さを残して、ラメも入れないピンクのシャドウをうっすら入れるだけ。
ニンゲンのフリしようか
ガーゼシャツとチェックのプリーツスカートの組み合わせは、正義みたいなものだ。
カラコンと併せて買ったおんなじいろのマニキュアを塗った指先。
ステッカーをべたべたに貼ったギターをもって、七分の袖から覗くまっさらな左手首に包帯を巻けば、私は立派な排他的退廃少女になれる。ほんの少し気を回せばそのギターが左利き用なのに気づけるはずなのに、このおまじないをしただけで言い寄ってくる鬱陶しい男の子が七割は軽減されるのだ。
べつに一緒にお茶をしておしゃべりするくらいなら私はぜんぜん構わないけれど、なぜだかそれ以上を求めてきたりする男の子が後を絶たなくて、私という消費者センターはすっかりまいってしまうのだ。
ついでに今日はお茶をいっぱいいただこうかしらなんてことをやっている暇もない。
「あーさーめがさめてー」
最近よくラジオでかかってるアイドル歌手の歌を口ずさむ。
可愛い曲だ。私にはぜんぜん似合わない。
そんなことを考えながら鏡をのぞき込む。
頭の天辺ちかくで二つに結んだ髪は、何かの手違いのような緑色をしている。
そうだ髪染めようと思い立ってその辺の美容院に入ったら、どんな色になさいますかとぶわーっと色見本を見せられて、何となくそいやっと指さしたのがこの色だったのだ。
髪が伸びるのが早い方なので、一月に一回は染め直しに行かなくてはならないのが非常に鬱陶しい。
色は気に入っているのにな、と痛んだ毛先を軽くはじく。
真っ赤なピンを前髪にぶすぶす差し込んで、いろんな角度からマスカラをチェックしている内に隣の部屋からルカちゃんの「ミクちゃん、たすけてぇ」という情けない声が聞こえてくる。
ルカちゃんの声は高音の伸びがすごく綺麗で、ハスキーなその感じが私はすごく好きなんだけれど、こんな声ばかり聞いているとなんだかなぁと思ってしまう。
ルカちゃんは外ではすごくすごく取り繕ってルカ様なんて呼ばれているけれど、私の前では情けなくておっちょこちょいで可愛いルカちゃんでしかない。
そうも思うと、情けない声もすごく可愛くてちょっとにやけてしまった。
「ミクちゃあん、意地悪しないでぇ、たすけてぇえ」
おっと、泣きが入ってきた。急がなきゃ。
「はいはいはいはい、今行くよー」
転がったMIDI用の鍵盤や服やCD、マンガやバックを踏まないように、細心の注意を払いながら私は部屋を出る。
すぐとなりにある扉を開ける前に、ちょっと見比べてみた。
私が出てきた扉には『miku's room』とペンキで書かれた金属プレートと、首をつった兎のモービルがぶら下がっていまもまだからからと音を立てている。
そのとなり、「ミクちゃぁん」と悲鳴を漏らしている扉には、木目の落ち着いたプレートがついているだけ。安っぽいクッキー字が『ruka's room』と並んでいる。
性格が出てるなぁ、と一息。
「まだぁ? ねぇ、ミクちゃん、ルカを見捨てないでぇえ」とほとんど泣いてる声を漏らす扉を開く。
ピンクと黒で統一された部屋はあまぁい香りがした。
レースの似合う部屋は程々に片づいていて、程々に散らかっている。
不快の森と呼ばれた私の部屋とは似てもにつかない。
「ミクちゃん!」
そんな部屋の真ん中で、ふわふわと黒いリボンを髪に絡まらせたルカちゃんが私を見て泣き声をあげた。
私より年下のくせに私より大人っぽい外見の彼女がぐしゃぐしゃに顔を歪ませている様子は、正直ちょっと気まずい。
服の背中に付いた装飾用のリボンが髪に絡まって、収拾がつかなくなったらしい。だからそんなごてごてとレースやリボンの付いた服はルカちゃんには向かないよって言ったのに。似合うんだけど、ゴシックドレスっていうのは着るのに器用さが求められるのだ。ルカちゃんは破滅的な不器用で、毎日のように私に助けを求めてくる。
困るのだ。
今もなんというか、私より遙かに放漫なおっぱいが、ほとんど丸見えのような状態。
おかしいな、私の方が年上なのにな。二年くらい前まではもっと普通にちっちゃかったのに。
身長も抜かされちゃったし、どういうことだろう。
姉としての沽券に関わる!
「ごめんなさいごめんなさい、後ろで絡まっちゃって、引っ張ったら痛くって」
「はいはい、分かったから、ルカちゃんは前のリボンちゃんと止めて」
「はっ、はぁい!」
ぐすぐすと目尻をこするルカちゃんの服を整えて、きちんと化粧をするように言う。
まだカラコンも入れてなかったルカちゃんは慌ててあわいブルーのレンズを取り出した。
ルカちゃんがお化粧をしている間に、一昔前にはやったような桃色に染められたその髪を整えてあげる。
スプレーを振り、小さなお団子を作ってハットをかぶせると、ファンデーションを塗る内にすっかり上っ面を作り上げたルカちゃんは、余裕の笑みで「ミクちゃん、ありがとう」と言って見せた。声色までも変わっている。
恐るべし、お化粧効果。
「それじゃ、そろそろ行こうか」
「そうね」
私の言葉に、ルカちゃんは部屋の隅にあった大きな鞄をかるがると担いだ。
ふわふわでシックな服に似合わない、もっさいバック。
先に玄関行ってるからね、と自分の部屋に戻る私に言って、玄関へと行ってしまう。編み上げのブーツを履くつもりなんだろう。化粧をした後に泣かれると困るので急いで部屋からギターとそのケースを取り上げ、私も玄関へ向かう。
何とかルカちゃんが泣きだす前にブーツを履かせ、自分のハイスニーカーには手早く足をつっこんだ。
大きな鞄やルカちゃんと私の髪の色や服装に突き刺さる視線を軽くいなしながら、電車に揺られること17分。
目的の駅で降りた私たちは、切符売り場で見つけた見慣れた頭に手を振った。
「あっ、カイトさーん」
「ミクちゃん、ルカ様! 何、今の電車に乗ってきたの?」
「うん。カイトさんは? メイコさん待ち? がくぽさん待ち?」
「今日はメイコは裏方だから、先行っちゃった。だからがくぽ待ち。電車の中居なかった?」
深い青に染めた髪を揺らしながらカイトさんは首を傾ける。目を細めて、初めて真っ青なカラーコンタクトに気が付いた。
その背中のギターケースも一緒に傾く。
その言葉に私とルカちゃんは顔を見合わせるが、ルカちゃんが首を振って否定した。
「少なくとも私たちの乗ってた車両には居なかったわ」
「そう?」
「あいつは目立つから居たらすぐ分かるもの」
「あっはは、それもそうかぁ」
からからと笑ってカイトさんは頭を掻く。
柔らかくてつかみ所が無くて、すうと脳味噌に染み込んでくるような声。いつまでもいつまでも聞いていても飽きない。どんなにぎんぎんのロックを歌ってもその柔らかさは薄れないと、私は知っている。
カイトさんの声は、それから酷く音域が広い。さっきまで朗らかなアルトだった声が、一瞬にしてなめらかに響くテノールへ。
はずしたところを一度も見たことがない、季節感のないマフラーがふらふらと揺れて、彼の子供みたいに無邪気な笑顔とのミスマッチが酷かった。
「あ、そういやあいつまた髪の色変わったんだよ。知ってた?」
「え? 前って青じゃなかったっけ? カイトさんみたいな。また変わったの」
「そ、あれ本人も気に入ってなかったらしくて、今は、」
其処まで言って、カイトさんの眉がちょいとあがった。
ほら、あれあれと私たちの後ろを指さしてみせる。
灰色の駅の雑踏から頭一つはみ出た鮮やかな紫がこちらへ手を振っていた。
私の隣でルカちゃんがうつむく気配がする。それがなんだかほほえましくて、私は笑ってしまった。
どんなに大人っぽくなってしまっても、ルカちゃんは17歳の私の妹なのだ。
「がくぽっ、おっそい!」
「すまん、電車が混んでいてな。っとミク、ルカ様、久しぶり」
「がくぽさーん! ひっさしぶり! すごいねその髪、似合ってる似合ってる!」
「そうか? 有り難う」
「混んでよういまいが電車の時刻表には何ら変化出ないだろ」
「あはは」
「笑って誤魔化すな!」
嘘みたいに整った顔をへらっとゆるめてがくぽさんは笑った。
ポニーテールに括られた長い長い髪がつややかな紫色でそれを縁取っている。
私は長髪の男性は苦手なのだけれど、がくぽさんに限ってはそれは除外されていた。だって格好良いし。
真っ白になるまで脱色してもさらさらキューティクルを保ったという伝説を持つがくぽさんは、よくブリーチのモニターのバイトをして髪色を変えている。一時期なんかは会う度髪の色が違うという有様だったのだが、それが全部違和感なく似合っていたのだから美形というのは恐ろしい。
今回の色も例外ではなくて、ちょっとあり得ないような紫がまるで無機物のようでおそろしく似合っていた。
「しかし、遠くからでもよくわかるな、この集団。めっちゃカラフル」
「今お前が加わってさらにカラフル度五割り増しだよ」
「後三人ぐらい呼んでリアルレインボウを……!」
「バカか」
ぱしこん、とカイトさんががくぽさんの頭を叩いた。
へらへらと笑うがくぽさんの声は深いバス。普段はそうでもないが、ファルセットをすると魔法のように響くのだ。
身長も高く派手な外見をした二人がそんなふうに騒ぐと、必然のようにたくさんの人の視線が集まる。それで連れているのが緑髪パンキッシュの私とピンク髪ゴシックのルカちゃんだ。悪意も害意もないけれど、絶対に好意ではない形の視線が突き刺さってくる。
ルカちゃんは平気そうな顔で、むしろ一心にがくぽさんを見上げているけれど、私としてはちょっと微妙な気分だ。二人の内どちらかが早く視線に気づいてくれないかな、と考えていた。
「っとー、そろそろ移動、しよっか」
「うん? ああ、まぁこんな場所に居座ったらじゃまだしな。スタジオ入りまでは時間あるし、どっかの店にでも入るか?」
「あ、ミクちゃんたちは先に入るんだよね。俺らは時間潰してくけど、どうする?」
「あー、私は、どっちでも……ルカちゃんは?」
「私もどちらでも」
「じゃあ一緒にお茶しよー」
からからと冗談めかしてカイトさんが言う。
そうですね、とルカちゃんが頷いて、ああお茶をいっぱいなんて状況になってしまったなぁと私は思った。別に彼らがそれ以上を求めてきたりしないことは分かっているからいいんだけど。この左手首に巻いたおまじないを考えてくれたのだってカイトさんだ。
「ルカ様、キーボード持つぞ。重いだろう、それ」
「ありがとう」
手をさしのべるがくぽさんにつんとすましてルカちゃんは背中のでっかい鞄を渡す。
俺も持とうかとカイトさんが手をさしのべてきて、揺れる青い髪を見て不意に私はとんでもない虚無感におそわれた。
灰色の雑踏にぜんぜん紛れ込めない私たちが居る。
まるでにんげんのふりをしているみたいじゃないか。
**********
ボーカロイドの外見をリアルに再現して人パロをしたら、確実にみんなその筋のかたになるよね、という
和風極道風パロディ
ya☆ku☆za☆な若のがくぽんとそのお家の囲われっこ許嫁なルカさま
SiGrEハードリピート作品
鏡音曲なのにね! ほうぼうの方々に謝る覚悟はできている!
むしろ靴を舐めさせてくれ! お願いします!
若干描写が使われているとかその程度で、べつに曲解釈とかではないです
**********
「薔薇」
いつでも貴方は簡潔なことばしか発さない。
まるで自分の声がどれほど深く、重みを伴うか知っているかのように。
lヰNe
「今年も、咲いたか」
この広すぎる程に広い屋敷の広大な庭。その片隅に私へあてがわれた花壇があった。
滅多に外出の叶わない私が園芸の本を読んでいるのを彼が見て、ある日突然その場に植わっていた植え込みを引き抜かせ作った花壇。庭師が呼び出され、立派な植え込みが引き抜かれていくのを見守っていた彼は、私にその土地を管理するように申しつけた。
専属の庭師が半泣きになっていたのは知っていたし、実を言うと本当に其処まで園芸に興味があった訳ではないのだが、せっかく彼が用意してくれたのだからと、とりあえず個人的に幾ばくか思い入れのある薔薇をうわえてみたのだ。
頭を抱える庭師に世話の仕方を教わり、一年目二年目こそ花咲かずに居たが、去年から赤い花を空へ掲げるようになった。
それを見た彼の一言が、それである。
酷く素っ気ないながらも、その視線は流れるように赤い薔薇に注がれていた。瞬きさえも惜しいと言うようにその赤を瞳に移している。
言外の行動で褒めてもらったようで、私は少し誇らしく思った。
「ええ、お陰様で」
「私は何もしておらん」
縁側に腰を下ろし、着流しに女物を羽織りたばこを吸う彼の様はまるで商家の道楽息子か放蕩の芸人で、とてもではないがここら一帯締めている家の長男坊とはにわかに信じられなかった。
腰に届かんばかりの彼の紫の髪がさらりと流れている。
幼い頃はその美しい髪が肩につくのさえ厭っていた彼は、けれど今は風に靡くがごとく艶やかな髪に装飾品をつけ、頭頂で結わえていた。(藤袴を模したその髪飾りは私が贈ったものだ。ひもねすそれが彼の頭で揺れていると、私はとても嬉しく思う)
女の着物といい男児たるものが、と眉をしかめられそうなその外見は、だがしかし舶来品の人形のように整った相貌も相まって、奇妙なまでの調和を見せていた。
「あら、またそんなことを仰る」
「……」
私の笑う声に、整った眉が僅かに潜まる。決まりが悪いのだろう。
一見はかなげな様子は、それを相打つような彼の低い声色と篠突くような長身で裏切られ、そこがまた絶妙に彼の無機物らしさを際だたせている。
私は自らも幼い頃からずっとその成長を見てきたが、しかし何時までたってもその美しさに慣れることはない。
「この場所を与えてくだすったのは若ですわ」
「……本来はここは親爺殿の土地だ。私のものですらない」
彼はあくまで素っ気なく私に対応するつもりらしい。
いつものことだ、と思いながら近くで控えめに水を撒いていたミクを呼び寄せた。小さな体を長い長い髪に振り回されるようにしながら、私の可愛い妹分は慌てて駆け寄ってくる。
勢い余って私の腰元に顔を埋めたミクは、目一杯に開かれた瞳で彼を一睨みねめつけてから、私を見上げた。
「あねさま、なにか、ご用でしょうか」
「そうね、お茶にしようと思うから、お座布団を用意してくれる? 若も一服如何です? 取って置きのきんつばをメイコの姉さんから頂きましたの」
「ああ」私の言葉に彼はこくりと幼い仕草で頷く「きんつば」
それから彼はちょっと肩をすくめるようにして首をかたぶける。私の腰に付いたミクがこれでもかとにらんでいるのだ。
見かねてミクもいただきましょう? と呼びかけると、一心に彼を睨みつけていた彼女の表情は一転、朗らかな笑顔と鈴の転がるような声で返事が返ってきた。向こうでは彼がそんなミクに困ったように眉を垂らしている。
その一連の妙に世間ずれのない仕草に笑ってしまいそうになりながら、私はミクを見下ろした。
そのみどりの長い髪と白く柔らかい頬とを順番になでながら、この子をこの屋敷に連れてきたときもそうだったと思惟に耽る。
酷く、と形容の付きそうな素っ気ない態度。
『ルカ、世話子はいらんか』
ある夏の日の夜中。丑三つも成りそうな具合に彼に起こされた私は、そのままに庭に連れてこられ、そう問われた。
夜風の冷たい、心地の良い夜だったと記憶している。
お世辞にも寝起きが良いとは言い難い私は、夢うつつで何を急にだとか口走ったのであろう。
阿漕な土地代を駆り立てるというお家に、改めへと向かったはずの彼が居るということから、てっきり夢か幻覚だと思っていたのだ。
『いらんのか』
『若、何が仰りたいのかさっぱりわかりませんわ』
『こいつだ』
そう言ってまだ今よりは短かった髪を靡かせ、彼は庭の片隅の植え込みに手を突っ込み、其処から生えた白くか細い腕を引いた。
腕を引かれるがままがさりと力なく、植え込みの裏から現れた少女は、よく映えるみどりの髪を一つに結わえ、月明かりでも分かる高級そうな浴衣と素足をどろどろにして居た。その汚れは赤黒くて、彼に引かれる手は震えており、私の眠気はどこやらへ吹き飛んでいく。
さあと夜風が私の髪をかき混ぜる。僅かに噴いていた汗が冷え、うつつと私は思い出す。ついでに血の気もうせた。
『若?! このこは、』
『初音家から連れてきた』
『初音家?! 初音家ってそれこそ、今晩若衆で改めにと、』
『家長の一人娘らしい』
しい、と自分の口に人差し指を押し当てながら、そう言う。
『カイトが殺すのは不憫だと、……お前の世話子として孤児を請けたことにしたらどうだと申すので、』
『そんな、犬猫ではないのですよ? 分かっておられますか?』
『分かっておるからカイトはそう提案したのだろう』
まるで自分は分かっていないかのような口どりである。思わず漏れた溜息は、冷たく冷えた夜風にかき消された。
改めに参った家の娘を浚うなど、どんな風に取られるか。
朴訥と私に視線をおくりつづける彼から目をそらし、小さく震える少女を見やる。
まだ年のこうは十に満つか満たないかのきわ。女子供に甘い彼の兄貴分が容赦するのも頷ける。
だが大きく愛らしい瞳は、似合いもしない憎悪をで自分の手を握る彼をねめつけていた。賢しい少女だ。同時に酷く素直な子でもあると察する。親の敵である彼の手に爪を立てようともしない。自分が彼に適いもしないことを理解している。さりとてお命の恩人と塗りたて媚びへつらうことは矜持が許さないのか。
今自分が生きているのは、彼が自分に殺意を向けなかったからと理解している。
それでもなお視線にこもった憎しみで彼を取り殺せまいか試すようだ。
私がこの屋敷に囲われるようになったのも同じ歳頃だったが、――ああ、なんて賢いばかりに哀れなこ。
『……自分の世話くらい、私は自ずと致します、と。私がそう言ったら、そのこはどうなるのですか。廓楼にでもお売りに?』
『売るのは、不憫だ』
ちらりと、初めて彼女に視線を流しながら彼は言う。
それで初めて彼女のちっぽけな煮詰まる憎悪に気づいたか、ちょいと眉を上げてそれをいなした。
『今此処で、斬り殺して埋める』
『丁度世話子が欲しかった所ですわ。頂きましょう』
何無い事のように発せられた彼のその言葉に、少女の大きな目がさらに見開かれたのを確認するまでもない。
そうか、と彼は緩やかに眦を下げた。傍目には分からないが、そこには僅かな安堵がたゆたっている。そんな顔をするくらいなら始から言わなければよいのに、などという言葉を飲み込みのみこみ、私は少女を呼び寄せた。
彼の手が離され、おずおずとこちらへ歩み寄る。
『あなた、お名前は?』
そう問うともごりもごりと何事か名前を言ったようだが、よくよく考えれば浚ってきた子供の名をそのままに呼ぶわけにはいかない。
よくも聞かずに遮り、その長く結わえられた髪をほどいた。
『そうね、あなたのお名前は今日からミク。ミクよ、わかったかしら?』
「ミク」
わたしのことをそう呼んでくれるあねさまはおきれいで、目を細めてそれを見つめるそいつも憎たらしいほどにおきれいで。
わたしはだからいつも、日溜まりのなかの月明かりの中のおふたりの姿をみる度、胸がぎゅうとしめつけられるようなきぶんになる。
→
**********
まさかの二本立て
二本目は下にあります
上の続き
**********
ああ憎らしい、憎らしい。
あの美しいおぐしも切れ長の瞳も骨張った大きな手も、あのあねさまに素っ気なくする態度も流れるような所作も、みなみなひっくるめて憎らしい!
lヰNe
そう思いながら座布団を三つ重ねて縁側へ運んでいた。
私用にとハクねえさまがしつらえてくださった萌葱色の座布団と、座敷用に幾つも用意された茄子色の座布団を二つ。
縁側まで転げないように注意しながら駆け行き、板間の上にそれを置く。
序でに、わたしとあねさまがお茶の用意をしている間、のんきに座ってらしたであろうそいつをにらんでやろうと視線を飛ばす。が、先ほどまで居たはずの位置にあの紫のお髪が見あたらない。
あねさまがお茶に誘ってくださったというのに、一体全体どこへおゆきになったのかと視線を揺らしていると、それはすぐに見つかった。
あねさまが丹誠込めて育てているばらの咲くすぐそば。
素足を湿った土に汚し、瞬きさえも惜しいという様子でそれを見つめている。
その様子はあまりにも、優雅で。
わたしはこくりと息を飲み込んだ。
不意に、その手が一輪咲き誇る赤い薔薇にのばされた。
ゆったりとした、まるで流れる舞のごとき動きで、しかして一番手近だったからといわぬばかりに無造作に。すぐしたの首元から手折ろうとしている。棘のらんと輝く新緑に、いまにもふれんと細い指が曲がった。
「……なんだ」
わたしは思わず縁側から飛び出し、その手を掴んでいた。
一回りもふた回りも大きかろうその手が、わたしのてによって動きを止める。
それを刹那眺めてから、そいつはゆるりとこちらをみた。
「あ」
その手に棘が刺さるのを見ていられなかったなどといえるはずない。
「こ、」
「こ?」
「これは、あねさまのばらだ」
「ああ、ルカの薔薇だ」
「勝手に、取るな」
「ルカはそのくらいでは怒ったりせん」
せいいっぱい吐き出したわたしの言葉は、ひくいひくいお声にすいこまれていったようだ。
煮えたった怒りもしゅんと萎えゆくようで。
残った怒りをかき集めてそいつをにらむと、そいつは丁度ばらの首をもいだところだった。
案の定棘がひふを食い破り、ぷちぷちと音を立てている。しかしそいつはきにならないのか、平素と言った様子でちぎれた花をみやっていた。
そしてしばらくくるくると指先を使って回したり、花を近付けてみたりしていたが、ふいにぐしゃりとそれを握りつぶす。
は、と自分のいきが肺腑から飛び出るのが分かった。
「何を、」
「ん?」
「なんて事を!」
あねさまが育てたばらを、もぐどころではなく、めちゃめちゃにしなさったのだ。
ばらりばらりと彼の手の中で花弁が揺れている。
わたしの半ば金切り声が響いたか、大きなお肩がびくりと震えた。
それから瞬きを繰り返し、その手が私の頭の上までのばされる。
ばさばさと軽いものがいくつも頭に当たり、赤が舞った。
もう一度怒鳴ってやろうと私が息をすいこむと、
「若、ミク! そろいもそろってはだしで、何をなさっているのですか!」
湯呑みと子皿の三つづつ載った盆を持ち、縁側に立ったあねさまがさきに怒鳴った。
あねさまは優しいお人だけれど、きちんとしていないと容赦なくおこるのだ。
むじょうけんでびくりとわたしとそいつの肩が跳ねる。
「全く、ミクどころか若まで……」
「すまなんだ」
「あねさま、ごめんなさい」
濡れ手ぬぐいを受け取りながら、そう二人で頭を下げる。
その様子を見ていたあねさまは大きく溜息を吐いて、ミクだってもうそんなやんちゃではいけませんよと言った。
「若も! あなたはお幾つですか!」
「すまない」
さっきからそれしか言わないそいつを見てからわたしを見て、あねさまはこらえきれずと言うようにころころと笑い出した。
その様子はやっぱりお美しい。
「まるでおひいさまですね、ミク」
私の頭の上にのばされた白い指が、真っ赤なばらの花弁を摘んでみせる。
そのあねさまの笑顔が、様子が酷くきれいで。あねさまのうしろでこっそりほほえむそいつもやっぱりきれいで。
わたしはそのようすを目玉に焼き付けれるならしんでもいいと思っていた。
**********
原曲どこいったし
描いていて非常に楽しかった 後悔はしていない
ミク視点が楽しすぎてどうしようかしらでした
和風もいいよなぁ
またこの設定でなにか書くかもです
**********
ああ憎らしい、憎らしい。
あの美しいおぐしも切れ長の瞳も骨張った大きな手も、あのあねさまに素っ気なくする態度も流れるような所作も、みなみなひっくるめて憎らしい!
lヰNe
そう思いながら座布団を三つ重ねて縁側へ運んでいた。
私用にとハクねえさまがしつらえてくださった萌葱色の座布団と、座敷用に幾つも用意された茄子色の座布団を二つ。
縁側まで転げないように注意しながら駆け行き、板間の上にそれを置く。
序でに、わたしとあねさまがお茶の用意をしている間、のんきに座ってらしたであろうそいつをにらんでやろうと視線を飛ばす。が、先ほどまで居たはずの位置にあの紫のお髪が見あたらない。
あねさまがお茶に誘ってくださったというのに、一体全体どこへおゆきになったのかと視線を揺らしていると、それはすぐに見つかった。
あねさまが丹誠込めて育てているばらの咲くすぐそば。
素足を湿った土に汚し、瞬きさえも惜しいという様子でそれを見つめている。
その様子はあまりにも、優雅で。
わたしはこくりと息を飲み込んだ。
不意に、その手が一輪咲き誇る赤い薔薇にのばされた。
ゆったりとした、まるで流れる舞のごとき動きで、しかして一番手近だったからといわぬばかりに無造作に。すぐしたの首元から手折ろうとしている。棘のらんと輝く新緑に、いまにもふれんと細い指が曲がった。
「……なんだ」
わたしは思わず縁側から飛び出し、その手を掴んでいた。
一回りもふた回りも大きかろうその手が、わたしのてによって動きを止める。
それを刹那眺めてから、そいつはゆるりとこちらをみた。
「あ」
その手に棘が刺さるのを見ていられなかったなどといえるはずない。
「こ、」
「こ?」
「これは、あねさまのばらだ」
「ああ、ルカの薔薇だ」
「勝手に、取るな」
「ルカはそのくらいでは怒ったりせん」
せいいっぱい吐き出したわたしの言葉は、ひくいひくいお声にすいこまれていったようだ。
煮えたった怒りもしゅんと萎えゆくようで。
残った怒りをかき集めてそいつをにらむと、そいつは丁度ばらの首をもいだところだった。
案の定棘がひふを食い破り、ぷちぷちと音を立てている。しかしそいつはきにならないのか、平素と言った様子でちぎれた花をみやっていた。
そしてしばらくくるくると指先を使って回したり、花を近付けてみたりしていたが、ふいにぐしゃりとそれを握りつぶす。
は、と自分のいきが肺腑から飛び出るのが分かった。
「何を、」
「ん?」
「なんて事を!」
あねさまが育てたばらを、もぐどころではなく、めちゃめちゃにしなさったのだ。
ばらりばらりと彼の手の中で花弁が揺れている。
わたしの半ば金切り声が響いたか、大きなお肩がびくりと震えた。
それから瞬きを繰り返し、その手が私の頭の上までのばされる。
ばさばさと軽いものがいくつも頭に当たり、赤が舞った。
もう一度怒鳴ってやろうと私が息をすいこむと、
「若、ミク! そろいもそろってはだしで、何をなさっているのですか!」
湯呑みと子皿の三つづつ載った盆を持ち、縁側に立ったあねさまがさきに怒鳴った。
あねさまは優しいお人だけれど、きちんとしていないと容赦なくおこるのだ。
むじょうけんでびくりとわたしとそいつの肩が跳ねる。
「全く、ミクどころか若まで……」
「すまなんだ」
「あねさま、ごめんなさい」
濡れ手ぬぐいを受け取りながら、そう二人で頭を下げる。
その様子を見ていたあねさまは大きく溜息を吐いて、ミクだってもうそんなやんちゃではいけませんよと言った。
「若も! あなたはお幾つですか!」
「すまない」
さっきからそれしか言わないそいつを見てからわたしを見て、あねさまはこらえきれずと言うようにころころと笑い出した。
その様子はやっぱりお美しい。
「まるでおひいさまですね、ミク」
私の頭の上にのばされた白い指が、真っ赤なばらの花弁を摘んでみせる。
そのあねさまの笑顔が、様子が酷くきれいで。あねさまのうしろでこっそりほほえむそいつもやっぱりきれいで。
わたしはそのようすを目玉に焼き付けれるならしんでもいいと思っていた。
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原曲どこいったし
描いていて非常に楽しかった 後悔はしていない
ミク視点が楽しすぎてどうしようかしらでした
和風もいいよなぁ
またこの設定でなにか書くかもです