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お菓子美味しいよね、という話
がくぽ出ないのにぽルカ風味
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愛宕さんの作った曲を歌うことになった。アカイトとのツインボーカルで、感想は、と問われたのでなんだか某ネズミの国のような曲だ、と伝えると、いいじゃないですかネズミーランド、すてきですよ、目指せ幻想狂気と言われた。俺はテーマパークなんて大層なものには行ったことがない。
兎も角練習の合間、曲想を掴むためにテーマパークとは何ぞや其処に漂う非現実がどうたらとアカイトと俺は話し合うはめになった。結果出たのは、行ったことないからわからんの一つ。全く報われない。
半ば満身創痍で練習を終えて居間へ戻ると、さくりさくりと小気味の良いおとが響いていた。
水気を含む何かが切断される音。ダイニングをのぞき込むと、桃色を垂らした頭が微かな鼻歌を奏でながら揺れている。
りんごだ、と隣で赤い弟分が呟いた。
半音コンポート
「マスターが親戚から貰ったんだってさ」
「へぇ、親戚なんて居るんだ、愛宕さん」
「きょうがくの新事実だった」
カイト兄さんもどうぞ、と差し出された兎さん林檎を口に運ぶ。擦りおろして凍らせるといいんだけどな、と考えながらかみ砕いた。さくりと割れて、口の中で水分がにじみ出る。
アカイトも同じようにしながらダイニングキッチンで動き回るルカの後ろ姿を見ていた。
片足が椅子の上にあがって、ぶらんぶらんと宙に浮いたもう片足が揺れている。俺と同じような年頃の端末のはずなのに、やたらと幼い。
始音種というのは、基本的に初音種を初めとする鏡音種や巡音種、恐らくそれ以降に続くナンバーシリーズに対して、庇護の意識を持つようにプログラミングされている。
赤い弟、アカイトも端末こそ他製品の改造とは言え中身は俺と同じKAITOのはずなの、だが。
どうにもこの弟は、そのプログラムが働いていないわけではないのだろうが、何というかずれている。
稼働時間が短いからとか、そういう問題では無く、初期設定と対反応システムの学習の方向がそういうものになっていたのでは無いかといつだかメイコは推察していた。
アカイトはアカイトなりに成長しているであろうことは俺にもわかっている。いるが、兄貴分としては何ともかんとも不安である。
せめて、もう少しきびきび喋って下さい、アカイトさん。
確かに柔らかな声音は俺たちの声帯の魅力ですが、おまえのそれは柔らかさの無駄遣いです。俺と同じ素体とは思えないよ。
何であんなに歌の相性悪いの。KAITO同士なんだからそう変な反発はしないはずなのに。
「そんなに送られてきたの」
「あそこにある段ボール、あれ一杯、りんご。後で兄貴幾つかがくぽ達におみやげ持っていってくれ」
「ん」
そういっている内に一切れ食べ終えた。林檎というのは中々消化器官にたまるので、四分の一も食べると結構な満腹感が得られた。
アカイトは依然変わらないペースでもっしゃもっしゃと林檎を食んでいる。
もう一つ食べようか否か、手をゆらゆらさせて俺が迷っていると、キッチンのほうからルカが現れた。いつもの服の上につけた少女趣味なエプロンが妙にはまっている。
「カイト兄さん、林檎のコンポートを作りましたので、どうぞお持ち帰りになって下さい」
机の上に置かれた陶器の入れ物から、ほんの微かに甘い香りが漂っていた。
それを見たアカイトが「あー!」と悲鳴を上げる。
「ルカ、それおれが明日持ってく奴」
「今また作っていますから、明日までには出来上がります」
「明日?」さんざ迷ってもう一切れに手を伸ばしながら、俺は首を傾げた「アカイト、どっか行くの」
「い……友達の家」
「……おまえ、友達なんて出来たんだ。良かったねぇ」
「おう、祝ってくれ」
「祝ってやる」
おめでとう、とまだ口に付けていなかった林檎を差し出すと、ありがとうと受け取った。
ルカはそんな俺たちの様子を微笑ましそうに見ながら、テーブルの椅子を引いた。
「あ、なんて言うか、ごめんね。有り難く貰おうかな」
「どうぞどうぞ、持っていって下さいませ」
俺とアカイトの妹にあたる彼女はしっとりと微笑んで陶器の入れ物を丁寧に布で包み、紙袋へ入れていく。
しかしすっかりとお母さんな仕草だ。手伝うアカイトが息子のようだぜ。
「マスター喜ぶよ、今絶賛修羅場中で、簡単に食べられるものしか食べてないから」
「がくぽは?」
「がくぽ?」
アカイトに問われて、出掛けに半泣きになりながらマスターの原稿を手伝っていたがくぽを思い浮かべる。
(「もうイヤだ、液体描写なんて書きとうない! 俺は歌うために出来たボーカロイドです!」「黙れ食い扶持貰いたきゃ手ぇ動かせ! 歌いたかったらBGMにしてやるから好きなだけ歌っていいぞー!」「あのー俺出かけますねー」「このーてーをはーなーすもーんか!」「「真っ赤な誓いぃぃいいいいい!」」「……いってきまーす」)
「……うん、喜ぶんじゃないかな」
あの惨状で、どんな壊れた反応をするか知らないけれども。
それだけ飲み込んで返答すると、とたんにがたんとルカが身をのりだした。え、なにこの子。
「でっ、でも、神威は茄子が好きですしっ、林檎は好かないのではないのでしょうかっ?!」
「そ、んなこと、ないよ? よっぽど酷くなかったら、基本的に好き嫌いはないし、ルカは料理上手いし」
「けれどっ! 先日は! 甘いものは好かないと言っていました!」
「それこそ嘘だ、あいつ甘いの大好きだよ」
「ですがっ、ですがですがっ!」
其処まで言って、ぴたりとルカが動きを止める。殆ど迫られるように顔を突きつけられていた俺は無意識に降参ポーズをとっていた。
傍らの赤いのはまるきり無心な様子で林檎を頬張っている。
顎を引いたルカは付いていた手を戻し、背筋を伸ばした。
すとんと椅子に腰を下ろす。
きり、と関節を軋ませて俯いた。
「……喜んでいただけるのなら、いいのです」
「おれはがくぽを、お義父さんかお義兄さん、どっちで呼べば良いんだろう……」
呟いたアカイトの顎をフォークの柄が、すこーんと突き上げた。
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ルカはお母さんだよ!
我が家のがくぽは会津さん(カイトのマスター)宅にいます
別にナイスをやっている訳ではありません
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