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根岸さん宅の初音さんとは関係ない初音ミクと、我が家設定のアカイト
そろそろいろいろ纏めた方が良い気がしてきた
まずはマスターズの設定だよなぁ……



**********



 そのこと出会ったのは三ヶ月前の晴れの日で、亜種の外部端末を珍しがった彼女が声をかけてきたのが始まりだった。
 そのこはオーソドックスな初音種のかっこうをしていて、おれの知る初音よりも随分短い髪――あたまのうえの方で髪を結んだら、肩にかかるかきわきわといった具合だ――が印象に残った。

 彼女が頭を動かして笑ったり歩いたりする度、その髪がはさりはさりと翻って、それがいやに眩しくて。






  かわいいいもうと





 みく――はつねと呼ぶと初音と被ってしまうため、この呼び名が採用された――のマスターはどうやらふつうの会社員をして暮らしているらしい。マスターは時々しかかえってこない。そんなに時間やお金に余裕があるわけでなし、寂しいから程度の理由で不用意に新しいボーカロイド、家族が欲しいだなんていえない。せめて日中くらいは、自由にしていていいよと許可をいただき、外出しているのですと彼女は言った。
 せっかく知り合ったのだからと入ったカラオケボックスの中でそんな告白をされたおれはぽかんとしてしまい、ええとじゃあおれはなにをはなそうか、かぞくのはなし! と何だかばかな判断をしてしまったのだ。
 みくにマスターしかいないように、おれには家族達しかいない。ネットの海を渡るのが得意な兄貴なんかは、家族以外のVOCALOIDやサイバーロイドの友達を何人も持っているが、苦手なおれにはそれができない。

 拙い言葉で伝えたルカやマスター、兄貴やぐみの話を気に入ってくれたのか、みくはころころと笑ってくれて、おれはなぜだかそれが酷く嬉しかった。


 後から兄貴に聞くところによると、始音種というのは初音種や鏡音種、時には巡音種にさえも庇護意識を持つようにプログラミングされているらしい。ルカに庇護感情をもつなんてぜんぜん考えられないはなしだけれど、おれとて一応、変色パッチをあてられ亜種端末を使用しているだけで中身自体はただのKAITOと変わらない。




 だから、あの時みくがうらやましいなと呟いて溜息を吐いたのが見ていられなかったのも、

 その細い肩を思わず抱き寄せてしまったのも、

 何となく本当に当然のように「おれがお兄ちゃんになってやるよ」と言ってしまったのも、


 全然不思議なことではないのだなと、思う。
 プログラムなら仕方ないさ、と。



「うん、しょうがないない」




 まだ声は正常にでる。
 ボーカロイドにとってはそれは命で、だから死ぬまで声を失うことはなくて声がなくなったらそれはきっと作動していても死んでいるような感じなんだろう。
 おれはどうやらまだ生きていた。ボーカロイドとして。

 みしりみしりと音を立てる脚部部品を引きずるようにしながら歩く。

 立派な擂り粉木で殴られたそこは軽く変形して、人工皮膚がはがれ、なんか気持ちの悪い機械がのぞいていた。
 手の中にはなんとかまもりきったルカお気に入りの陶器の容器が抱えられている。おれがともだちの家に遊びに行くというと喜々としておかしやらをつくってもたせてくれるのは良いけど、何時か割ってしまいそうだ。こんどからは紙袋ですまそうかなぁなんて考えながら、おれは街を行く。


 いつものように、ボーカロイドであることを示すようなコートやマフラーは今日はしていない。ぱっとみはかぎりなく普通のひとであるおれが足を引きずって歩く様が気になるのか、ひとびとの視線がちきちきと背中を刺す。
 そのうちのひとりと盛大に目があってしまったので、とりあえず笑顔で目礼してみた。逃げられた。失礼なやつめ、おれは痛覚とかないからべつに平気なんですよという意味をこめてみたのに。




 そんなふうによっちら歩いている内に、高級感あふるる街並みのなかにたどり着いた。
 そのなかでもとびきり高級っぽい高層マンションのオートロックのコンソールをふるえる指でたたく。まずいなぁ、と苦笑する。頭部を打った覚えは無いが、指令系統にまでいじょうがでてるのか。これは泊まりがけのしゅうりかなぁ、とルカとマスターへの言い訳を考える。兄貴やがくぽにアリバイづくりを手伝ってもらおうか。



『はい』



 じ、という電子音がして、事務的な声がスピーカーから聞こえてくる。
 さっきまで同じ人工声帯がかなでたこえを聞いていたはずなのに、ぜんぜん声がちがう。何度なれても面白い。
 そんなことを思いながら口を開いた。



「初音?」

『……アカイト兄さん、また?』



 あきれたような、揺れる声がそういった。



「またおれですよ」

『いい加減にしなって、何度言えば分かるの』

「それはちょっとおれにもわかんね。根岸さん居るー?」

『今日はマスタ、仕事で留守だよ』

「まっ、まじで」

『……損壊の具合は? 程度によってなら、私が見るよ』

「んー」



 震える指を見る。
 まぁ、元々不器用だし、歌うのには関係ないか。



「脚部の変形と、人工皮膚の損傷。かえらないでーって折られちゃっ、た」



 機械越しに大きな大きな溜息が聞こえて、自動ドアがゆっくりと開いた。







「わたしから離れてくための足ならいらないよね?」
 そう言ってみくはおれの足に擂り粉木をたたきつけた。みしりというなんかいやな音と、端末の破損を告げる警告音がひどくうるさくて、いやそんなことはないですよたいせつなあしですよということばはさえぎられた。痛みはない。ないけれど、一応体は反応するようにできていて、意味があるのか無いのか、口からポロンっと悲鳴がでた。
 いやだとか、やめろとか、そういういみをない交ぜにしたような、けれど意味を持たない悲鳴。
 みくはおれの悲鳴をきくとだいたい何かヒートアップしてしまうので、ああしまったなぁと思っていたら、ぽたんと落ちてきたのは更なる暴力じゃなくてなみだだった。
 大きな目をもっとおおきく見開いて、みくはぼろぼろと泣いていた。
 慌てたように自分の手の中の擂り粉木を見て、汚らしいものでもさわってしまったかのように投げ捨てておれにかけよる。おれは甲高い音をたてて転がる擂り粉木をみていた。おまえもたいへんだなぁと心中で呼びかける。殴らされたり投げられたり。



『お、おにいちゃ、』



 みくは震える声でそう言った。
 アカイトお兄ちゃんごめんねごめんねごめんねみくこんなつもりじゃなくて、ちがうのみくまだお兄ちゃんに帰って欲しくなくて、あああ足、足、ごめんねごめんね、お兄ちゃん怒らないでみくを嫌いにならないでと泣くみくが何だか酷く酷くあわれでかあいそうなこに見えて、おれはなんだか笑えてしまった。




 何をどうしてこうなったのかと視線だけで問うてくる初音にそうこたえてもいいけれど、そういう訳にも行かないので兄貴直伝にっこりスマイルで応対する。
 顔を背けられた。ひどい。



「私はアカイト兄さんがどこでどんな怪我をしても、なんにも聞くつもりはないよ」



 不意に、治療のためおれを豪勢なソファに寝かせて初音が呟いた。
 その酷く醒めたひとみは、どことなくかのじょの主人に似ている。


「たとえルカ姉さん達に怪我したことさえ秘密にしてても」



 そのひとみが伏せられ、閉じる。



「でもさ……そうやって笑うのは、やめようよ」

「……んー」



 いたいたしいから。

 初音がそう言うのは、きっとおれに対する庇護からだ。
 口では兄と呼ぶけれど、おれと初音の関係はむしろ姉と弟に近い。
 初音は俺という家族を護りたいと思ってくれているのだろうし、また同時におれ自信の自由もまもりたいと思ってくれているのだろう。たぶん。


 そう、たぶんそれと同じで、




「まぁ、約束はしかねる」




 






 おれもみくをまもりたいんだ。
 あのかわいいおれだけのいもうとを。




 みくの平穏が、それがおれ自身を傷つけることだとしたらまぁある程度なら差し出そう。

 ルカがおれにお菓子をつくってくれるように。











**********

やんでれの被害者が似合うアカイト
これ正規設定です


みくちゃんのPはなにげに有名設定
ヤンデレというよりDVに近いと今気づいた!

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