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現代パロディー
ヤンデレ!ヤンデレ!
ぽルカ!ぽルカ!



**********



「がくぽ」

「ん? 何?」

「なんでもないわ」


 ソファから出た肩を暖めるのは、大好きな彼女の声。首に回った細い腕にぎゅっと力がこもれば、俺の肩胛骨にはなんかもうものすごい柔らかい御胸様が押し当てられる。

「そっ、か、ぁ」


 そんな幸せを噛みしめながら、その白い腕と首の間に指をねじ込もうと試みる。


 俺の手首くらいしかないんじゃないかと疑いたくなるようなその細い腕からは想像も出来ないような剛力が、気管を圧迫し始めている。
 声帯が押しつぶされだした。ちょっとさすがに苦しい。
 右手も動員しようと開いた雑誌を手放すと、すかさず彼女の空いた手がそれを捕らえて、肩固めのような体勢にもっていかれる。

 え、ちょっとちょっと、それは反則じゃありませんか彼女さま。っていうか何その訳わかんない高等技術?!

 体を浮かそうとすれば、逆に引き寄せられるかたちでソファに押しつけられる。
 その間も肩固めもどきによって着々と意識が遠のき出した。


「る、ルカ?」

「……」


 声帯ごと圧迫された自分の声がまるで死人の如きで逆に笑える。いや全然笑えないんだけれども。
 なんだこれは、可笑しい。いや確かに我が彼女さまはちょっとびっくりするような怪力の持ち主だけど、さすがに俺も男だし力で負けるなんて、そんな馬鹿な。


「な、ん……」


 あ、やばいこれ落ちる。
 視界が暗濁して、黄色く染まって、鮮やかに明滅しだす。
 ぱさりと顔にかかった彼女さまの髪の匂いに誘われるようにして、横転回転暗転座礁。最後に目に映ったのは珍しく彼女が淹れてくれたコーヒー。妙に甘ったるかったっけ。そういうことか、どういうことだ。

 そう言えばルカ、シャンプー変えた?









   彼女の愛情と彼の異常








「……ぁ、あ」


 あたまがいたい。

 薄目を開け確認した時計は五のところを指している。
 ずいぶん日が高くなってきた初夏の今日この頃。彼女さまは起きているが生活リズムがてんでむちゃくちゃな彼女の起床時間は全く宛にならない。今は、午後なのか午前なのか……!


「がくぽ、おはよう」

「お、おはよお」


 俺が悩んでいるといつも通りと言った風に挨拶をして下さる彼女さま。いやぁ今日もお綺麗ですねなんて言ったら「当たり前でしょ」とか言われそうだ。
 勿論そんなの冗談だって分かってるけど。
 コンプレックスなんて一個もなさそうに見える、というのがコンプレックスの彼女さまは、そうやって場に応じて対応してしまえるのが悲しい娘だ。だから疲れるんだろう。素直に喜んだりすればいいのに。

 そんな彼女さまの精神鑑定はおいておいて、さてはて一体この状況はなんなのだろうかね。


「えっと、る、ルカさんや」

「何かしら」

「これは一体なんですか?」


 寝かされていたベッドマットから起き上がり身じろぎすると、がちゃりと金属と金属が触れ合う音がする。
 その発生源は、窓から差し込む朝の光をまばゆく反射していた。あ、これ朝だ。このまぶしさはみまごうことなき朝だ。
 最後の記憶が正しいとすれば、半日くらい意識を失ってた事になるのか。トイレ行きたくなってきた気がする。

 そんな与太を考えていると、少し目を細め、外したエプロンで手を拭きながら彼女はこちらへやってきた。
 かすかに甘い匂いがする。香ばしいこの芳香は、彼女さま特製のクロワッサンサンドの香りだ。どうやら朝食を作ってくれていたらしい。


「鎖よ」

「それくらいはさすがに見りゃ分かる」

「ペットショップで買ってきたわ」

「犬扱いですか、俺は。いやそうじゃなくて、」

「そう、『大型犬が逃げそうで周りに迷惑をかけるといけないから』って店員さんに言ったのよ」


 右足にはまった合皮性の首輪は、俺の足首の太さに合うようにきっちりと改造してある。几帳面な彼女さまらしい仕事が伺えた。
 長く伸びる鎖は部屋に備え付けの家具に固定されている。試しに引っ張るけれども、びくともしない。ああ、さすが俺の彼女さま、仕事ちょう完璧。涙が出てくるね。


「じゃなくて、なんでこんなことって、聞きたいんだが……」


 思わず顔をひきつらせていると彼女は俺の顔をのぞき込んで、思わずキスしたくなるくらいにきれいな顔で笑って見せた。


「あなた、この前ミクと楽しそうに話してたんだもの」


 その言葉に思い起こされるのは、輝く笑顔で「ルカさんと夏休み遊びに行くんだけど、何処が良いと思うー?」と聞いてくる年下の先輩の顔。


「あ、あれは初音ちゃんの相談にのってて、」

「それにメイコとは呑みに行ったって?」

「カイトも居たよ! 見せつけられて悲しくなってルカんとこ行っただろ!」

「そう、そのカイトとも遊びに行ってたし」

「あいつと遊ぶのも駄目なの?! あたり判定どうなってんだよそれ!」

「リンちゃんやレンくんとも遊んでるし、グミちゃんとはご飯食べたって聞いたわね」

「十四歳相手になんで俺が! っていうか、妹だし! ルカ、聞け! 俺の話聞け!」


 半ば自棄になって叫ぶと、ふわりと甘い香りがまた意識を曖昧にさせる。
 鎮静作用でもあるみたいだ、と抱きついてきたルカの背に手を回しながら考えた。首筋に立っている爪は痛いけれど、我慢する。
 生ぬるい感覚。流血したのかもしれない。彼女の爪は何時だってきれいに整えられていて、それが汚れてしまったのなら少し悲しいなぁと思う。


「不安なのよ。みんなあなたのことが好きだから」

「……あくまでlikeだろ。それに、みんなはルカの事だって大好きだぞ」


 むしろ俺よりもルカの方が好かれていように、彼女はそう言うところに自信がない。

「不安なのよ、たまらないの。でも、私以外の前では笑わないで、喋らないで、歌わないで、なんて、言えないじゃないの」

「……別に言えばいいだろうが」


 彼女がそう言ったなら、俺はおそらくそれを実行する。
 彼女以外の前では笑わないし喋らないし歌わない。彼女が嫌がるなら彼女以外の人間と接することだって止めてやろう。
 でも俺の彼女さまはそんなことを言ったりはしないのだ。優しい優しい彼女は、そんな程度のことで俺が苦しむとでも思っているのだろう。

 ああ、可哀想なルカ。
 優しい癖に欲深くて、思慮深い癖に考えなし。
 だからこんな風になってしまうんだ。


「ずっと我慢してたわ。けど、もうだめ。もうだめなの」

「そうか、もうだめか」

「ごめんなさい、がくぽ」

「気にしちゃいないよ」


 肩から伝い落ちる水は、俺の血液かルカの涙か、考えている内にルカ特製の朝ご飯はすっかりさめてしまう。
 それが何となく惜しくて、彼女さまがご飯作ってくれるなんてレアなのになぁと俺は考えていた。









   それできみがしあわせなら、ぼくはなんだっていいよ








**********

……あれ? なんか書きたかったのと違、あれー?
もっとこうハードなヤンデレになる予定だったのになんだこれ。がくぽの一人称の所為か! 緊張感がない!

監禁ルカさまとはねっかえりがくぽを本格的に書こうかどうか迷ってます
書いたらこれがちょっと対になるのかな
両方ともぽとルカ。これは譲らん。
あれ? ルカぽ?



ルカの異常な愛情と、がくぽの異常な包容、みたいなそう言う話
ヤンデレ×ヤンデレはえらい楽しいね!

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