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知り合いがVOCALOIDを買ったので、インストールに立ち会わせてもらいました
で、まぁ、なんかそんなんです

我が家設定でも何でもないけど俺設定のがくぽと、マスターと、第三者な語り部
いろいろ注意



**********



「アクティベート? なにそれおいしいの?」

「せっかく買ったのに十四日しか使わない気か」

「ん、それはイヤやなぁ」


 言いながら彼はぱたんぱたんと操作を続けていった。その後ろ姿を見守りながら、本当に大丈夫なのかこいつと私は思う。


「よ、っしできたー」

「おめでとう」


 そうして、なんだかんだと様々な紆余曲折を経て、彼のパソコンの中にVOCALOID2:がくっぽいどはインストールされたようだった。
 早速何か歌わせるのかと見守っていた私は、『……とりあえずフルチンって言わせるか』とつぶやく彼の後頭部を見て思わず溜息を吐いた。ノートパソコンの画面の中のがくっぽいども、困惑顔で自分のマスターとなった男を見上げていた。
 その間にも、彼は立ち上がったエディターに慣れない手付きでノートを書き込んでいく。
 音感も何もないベタ打ちにローマ字入力だったが、性能の良いがくっぽいどはそれだけでもそれなりに発音するのだ。私はVOCALOIDを所持していないけれど、そういう知識は割とあった。
 不安そうな碧い瞳がこちらを伺う。残念ながら私は巡音厨だ。そんな目をされても、がくっぽいどがどんな言葉を吐かされようがどうも思わない。
 だいたいこのがくっぽいどを購入したのは彼であって、私ではない。

 どうも思うはずがない。
 思ったとしても私に彼を止める権利はない。

 そう、どうも……


「『フルチン』っと」

「止めてあげて! かわいそうだから止めてあげて!」


 無理でした。


「何をそんなに必死?」

「おまえ、初めてしゃべるのが『フルチン』ってさすがに可哀想すぎる! せめて『おっぱい』ぐらいの妥協をしてやって! っていうか歌は?!」

「俺が買ったソフトなんやからどーつかおーと勝手でしょおが」

「それはそうですけど!」


 必死で彼を制止する私を見上げ、画面の中のがくっぽいどはそれでもまだ不思議そうな顔をしていた。
 なんだよ、私はおまえのハジメテを守ってやったって言うのに。


 結局がくっぽいどのハジメテは、DVD-ROMに入っていた『島唄』となり、晴れて彼は友人のソフトとなった。
 それからも私はちょくちょく彼の部屋へ遊びに行き、がくっぽいどをいじらせてもらったり、調声の様子を眺めさせてもらったりした。

 だから、彼の口から『がくっぽいどが、また遊びに来てくれっていってたよ』という言葉が飛び出したときも、そんなには不思議に思わなかった。




   あやめ






『マスターやい』

「なんじゃらほい」


 彼とがくっぽいどの会話は、いつもそんな風に始まるのだそうだ。
 がくっぽいどが彼に呼びかけ、彼が適当に返答する。そうしてがくっぽいどに呼びかけられるときは、たいがい彼が作曲に煮詰まっているときで、丁度良い息抜きのつもりで彼はその手を休めるらしい。
 その日もそうだった。


『マスターやい』

「なんぞー」


 ああ今日もか、最近調子悪いのかな、などと彼は思っていたそうだ。ほかのがくっぽいどどうなのかいざ知れず、彼の所持するがくっぽいどは彼が本当に煮詰まって、どうしようもなくなったときにしか話しかけてこない。
 作業の手を止め、デスクチェアから伸びをしつつ返答する。


『マスターは、俺をインストールするまえに一回、がくっぽいどをアンインストールしたな?』

「……は?」


 そう言った彼の顔はさぞかし間抜けだったに違いないと私は思う。
 彼自身も面食らったと、笑いながら話していた。

 確かに、今のがくっぽいどをインストールする前。不慣れのためか彼は一度エラーを起こし、がくっぽいどをアンインストールしている。
 しかしそれが今この場にいるがくっぽいどにわかるのか? 彼はとりあえず首肯し、それがどうしたと問うたらしい。


『殺意というのか、……あるんだ』

「殺意」

『たぶん、歌いもせずエディターも開けられず、起動もされずに消された、先代のがくっぽいどの』

「殺意? 俺に対しての?」

『もしかしたら俺に対してかも知れない』


 歌わせてもらっている、起動してもらっている俺に対しての。
 そうがくっぽいどは言ったそうだ。

 とにかくあるんだ、と。まるで物体がそこに存在するかのように。


「……そう、なん」

『ああ』

「がくっぽいどは、なに? 俺を殺したいの?」

『おそらく』

「でもおまえ、ソフトやん」

『その通り』

「殺せるの」

『殺せない』


 おかしな話だよな、とそう私に話した彼はへらっと笑った。
 そうしてMP3プレーヤーを取り出して、それはそうと新曲作ったから聞いてみてとかそんな事を言い出す。
 無理矢理に聞かされた曲は、武士が一途に使える主のことを想う曲。がくっぽいどのキャラクターに合わさって作られたようなその歌詞が、荒ぶるロックチューンに載っている。


「どうよ? アップしようかちょっと迷ってるんやけど」

「……いいんじゃないの」

「そっかー! タイトルはどんなんがいいとおもう? 俺そういうの考えるの苦手で」

 そう笑う彼は、今日も自身に殺意を抱くVOCALOIDを歌わせる。


「……」







    (おかしいのはあんたの頭じゃない?)




**********

おかしいのは大木の頭です
どうしてこうなった……!

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