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さむいですね!
そんなわけで俺設定の短編です

がくルカ!ぽルカ!
のわりにはルカさん出番少ないごめんなさい!


**********



「がくぽんがくぽんがくぽんがくぽんおいがくぽ起きろ」

「はい、はいはいはいはい」

「雪だぞコラ雪雪」

「……ゆきぃ?」

「雪ぃ」

「……はぁ」

「俺めーちゃんとこのアパートの雪かき手伝ってくるから、適当にしといて」

「……はぁ」



 いつものマフラーの上にさらにストールを巻くという酩酊しているとしか言いようのない格好をした兄貴分は、ひんやりした手の感触だけ残して消えてしまった。
 乱暴に下げられた毛布を口元まで引っ張り上げ、雪、とつぶやいてごろんと寝返りを打って窓のほうを伺う。カーテンの向こうから差し込む光は、確かにいつもより若干白みのつよいようにも思えた。

 ネットに接続。乾いた眼球をこすりながら本日の天気を検索。
『20センチの積雪』
 なにそれこわい。間抜けな思考がAIで固まった。










  ゆきのはな







 例の兄貴分が平気な顔をして部屋を出ていった理由は簡単だ。彼に外気温を感知しそれに感覚として対応する機能はない。がくぽはここぞとばかりにその機能が搭載された自分の端末を恨んだ。この機能に一体良いところが一つだってあろうか。暑さ寒さに負けてやる気が低迷するばかりだ。
 毛布の中で縮こまりもう一度スリープに入ろうと試みるも、今度はエネルギー不足がそれを拒んだ。エネルギー消費を防ぐためのスリープモードに入るためにもエネルギーが要るだなんて矛盾以外になんと呼べばいいのか。ぎしぎしと各関節が軋むのも寒さの所為だろう。


「……さむ」


 主人が何か朝食を用意しているのではと期待してみたが、閑散としたリビングが待っているのみだった。暖房が点けられていた様子もない。そういえば何かイベントがあるからと、昨日から泊まりで出かけていたのだったか。ほつれた髪を引っ張りながら思う。
 兄も兄だ。自分のために暖房くらい点けておいてくれてもいいんじゃないか。そんな気遣いが出来るはずがないか。そもそもがくぽが外気温センサーを搭載していることを彼が知っているのかどうかすら定かではない。知らないのではないか説ががくぽのAIの中では有力だ。


「ん」


 ダイニングテーブルにやかんがおいてあった。
 持ち上げると、たぷんと揺れる水。中を覗いても入っているのは水。

 いやこれをどうせよと

 思わず首を傾げた。
 湯を沸かせというのだろうか。やかんの用意くらい自力でできますが。

 なんなんだあの人訳が分からん。

 さわやかに駄目な笑みで「おにいちゃんだよ!」と裸マフラーを靡かせる初対面時の図が思い浮かんだ。シャット。思い出したくない。
 やかんを鍋敷きの上に戻し、暖房を点ける。濁ったような音が静かな部屋に響いた。
 ついでに棚から充電用の電気コードを取り出して、所定の位置にぶすっとさす。電気代を食うからと主人は直接充電は嫌がるが、本人がいないのだから知ったことではない。もう片方をコンセントに押し込んだ。
 それからちょうど温風を吐き始めた暖房の前に移動して、床の上に寝ころぶ。暖かい。毛布も引っ張ってくれば良かっただろうか。
 そんな事を考えていたら、もう一度スリープにはいれるだけの充電が出来た。

















「神威がくぽ!」

「っはい!」


 一瞬で青い、と認識したのは、ルカの瞳だった。
 青い。いや、青と言うよりは空色に近い。まつげがふるえている。

 まばたきを三回。部屋は随分暖まっていて、もう機能に問題もないようだった。床だけひんやりと冷たいのは、仕方がないことなのだろう。
 気がついたら上体が持ち上がっていたのは、どうやら目の前の彼女の所為らしい。がくぽの服の襟刳りをつかみ上げ、ニア馬乗りのような形でこちらをのぞき込んでいる。長く作られた桃色のまつげがふるえるのが視認できてしまう程に、そちらとこちらは近かった。ふるふると小さな唇も落ち着かない。

 どうしたのだろう。疑問が一つ落ちてくると、次々と瓦解するように落下してきた。
 何故此処にいるのだろう。というかどうやって入ってきたのだろう。ちょくちょく入ってくるがそろそろ進入経路が知りたい。何故自分は襟首を捕まれているのだろう。というかなんでこんなに顔が近いのだろうか。

 とりあえず総括して一言。


「……いま、何時だ?」

「午前九時半ですっ!」


 ごんっ、と後頭部が床に打ち付けられたらしかった。とても痛い。



「全く、はた迷惑な!」

「すまない」

「そもそも床で寝ないでください! 倒れたのかと思って、……こしょうしてしまったのかと思って、」

「すまん」

「びっくりしたんだから、この……ボケナスっ」


 敬語どっか行ってますよ。


「すまん」


 さすがにそんなことはいえないので、その三文字に変えて吐き出した。
 どうやらカイトに自分が家で一人と聞いて、心配に思って様子を見に来たらしかった。そこにべしゃりと崩れ落ちているがくぽを発見して、たいそう肝を冷やしてしまったらしかった。しかし一人を心配されるってどういう扱いなんだろうかと若干複雑に思う。子供型でもあるまいに。

 やかんをそのまま火にかけ、コップを用意してインスタントコーヒーを放り込む。どこぞのマフラー男のように紅茶を淹れる気は起きなかった。
 ルカはというと、ダイニングテーブルでうつむいて、時折こちらを恨めしくにらむばかり。
 いやでも自分は悪いことしてないし、なんでそんな顔されなきゃいけないのだと理不尽を感じないでもない。なんだか眉間にしわを寄らせた彼女の顔ばかりみている気がして癪だ。笑って欲しい。


「……?」

「神威、聞いていますか! だから、今度から充電するときは、」


 何だか変わった形態の思考が浮かび上がった気がする。

 どうにも自分のAIは淡泊で、誰かのように親愛をばらまいたりはしないはずなのに。


「……ルカ」

「なんですか! っと、というか名前で呼ばないで下さい」

「巡音」

「だからなんですか」

「いや、」


 ええと、と言葉を探す。どういうことだ。勝手に発言しないで欲しい。処理が終わらない。
 なんでいま自分は彼女に呼びかけた。彼女の言葉を遮る必要はあったか。
 思い当たらない。故障か。バグは見あたらない。彼女の眉がつり上がっているのを見たくなかった。それだけだ。

 ふわと漂わせた視線が、ベランダの向こうに広がる銀世界をとらえた。
 地上十階から見える街は、すべてがすべて白く染まっている。


「雪、綺麗だな」


「……私はその中を此処まで来たのですが」

「ん、んん」



「……――けれど、確かに。この高さから見ると壮観ですね」



 街がお砂糖菓子みたいですね、とふわりと雪より柔らかに微笑む。
 そうだ、それが見たかったのだと、がくぽもつられて微笑んだ。










**********


甘いのを目指しましたがなんだこれ


雪がつもりました
家族が本気でかまくら作っててちょっとびっくりしました

拍手[13回]

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性転換亜種のルキくんとがくこさん
去年からずっと放置プレイだったのでこっそと落としてみます

なんかほの暗い上に電波っぽいので注意注意


**********



 こんなこと言ったら怒られるかもしれないけど、僕は正直自分の声が好きではない。
 卑屈と取られても仕方がない。
 声が本体のボーカロイドが自らの声を嫌いと言ってしまうのは、要するに自分で自分を存在否定してるということで。生まれてきてごめんなさいとでも言い出さんばかりというわけだ。生まれてきてごめんなさい。僕は謝るべきかも知れない。

 だってさぁ、と僕は息をはく。[br4]はかさつくこともひび割れることもなく宙へ上がっていった。
 がさりとかすれた声も。からからと鳴る喉も。びんとのたう低音も。
 すべてがなんだか、オリジナルの劣化のように感じられてならない。

『巡音ルカの男声』という価値しか、僕には無い気がするのだ。
 単品でなら、恥ずかしくて面にも出せないような声。





    br






 はすきーでむーでぃーでおとなっぽくて、とうと空間に通る声。
 と、いうのが巡音ルカの特徴。

 はすきー通り越してがさがさ。むーでぃ? おとなっぽい? よくわからない。
 ごそりとこもり、のどの一つ下から転げ落ちるような声。
 と、いうのが僕の声。

 詰まった何かを吐き出すように僕は咳をした。


「風邪」

「……ボーカロイドは風邪、ひかないし」


 足下から離れて一メートルからちょっと歪んだ声が上がる。
 耳を優しく引っ掻くようなその声になんだか嫌気がさして、僕は強いて吐き捨てるように言った。
 傷ついたかな。向こうも嫌気がさしたかな。そんな事を考える。

 広がる殺風景な空間に、ぽんぽんと投げ出されている僕ともうひとり。
 ぎゅっと膝を抱えた彼女は、『本体』に似つかわしくない幼い様相で僕を見上げてくる。

 小さな体。小さな手足。丸みを帯びた体のライン。僕の知る彼女の『本体』とあえて真逆をついたようなものばかりを集めた外見。その中で、しゃなりと床に広がる長い髪と筆で書いたような切れ長の瞳だけは、確かに原形を留めていた。

 ノートパソコンの、お世辞にも広いとは言い難いデスクトップは、けれど酷く少ないアイコンのおかげで広大にも思えた。
 メモリばかりが有り余るその空間にぽかりと浮かんでいるのは、いくつかのDAWとネットブラウザ。それから僕と彼女。それだけ。
 まるでここはDTM専用と言い切っているようなその光景は、僕らが音声合成ソフトだと割り切っているようでもあった。


「遅くまで起きてるから、体調崩す」

「……ボーカロイドは体調、崩さないし」

「わたしたちにできることなんて、何もあらぬよ」

「……知らないし」

「ボイストレーニングしても、わたしたちにはこの声は変えられない」

「……ボイストレーニングなんてしてないし」

「主殿が設定をいじらなければ」

「……してない」

「その声も、この声も」

「してない」


 しゃがみ込んで、彼女の瞳をのぞき込みながら言う。僕のオリジナルの歌声と一緒くらい綺麗な色がたゆたっていた。それを縁取るまつげも、白磁みたいに白い肌も、みんなみんな綺麗だった。作り物なんだから当たり前だ。僕も、彼女も。けれど声だけの存在にこんな慨型が必要なのか。
 まして正規のものとして存在していない彼女は、誰に見られることもないのに。誰に愛でられるという事もないのに。
 美しい声は美しい骨格から吐き出されるなんて、けれど僕らの声なんて所詮は誰かから借りただけの音素。

 彼女が抱き抱えた膝小僧はひどく頼りなさげだった。


「そんなもの、してない」

「……嘘は駄目」

「嘘は良いんだよ」


 僕たちは嘘を否定してはいけない。
 その否定は嘘から生まれた少し遠い仲間を殺すことになるから。

 彼女たちぐらい自由になれたらな、と僕は願った。
 がさがさに渇いた喉に手の甲を押し当てる。

 目の前の彼女は黙って僕を見つめるばかり。

 喋ればいいのに。

 ちょっと男性的に歪んだ彼女の声を、僕は恋う。嫌気がさすくらいに聴いた声。僕がこのPCに『巡音ルカ』としてインストールされ、第一声を発したときにはもう彼女は彼女として存在していた。それから僕は声を変え、ライブラリの名前を変え、気がつけば概形もねじ曲がり男声として此処に立った。その時も彼女は彼女で、いつまでも『彼女』だった。
 もしも、と思う。
 もしも僕がまっとうにオリジナルの存在としてここに居たら。もしも彼女がまっとうに原型の存在としてここに居たら。

 最近は仕事の合間、そんな事ばかりを考えていた。


「じゃあ、私も嘘を吐こう」



 歪んだ声が言う。耳の奥を優しく引っ掻く。

 もしかしたら私は彼を愛せたのかもしれない。

 もうとっくの昔に消去されたデフォルトの僕がそうつぶやいた気がした。
 けれどそれは、と瞳を閉じる。漏れるブレスは、デフォルトのもの。
 けれどそれは、もしもの話であって、僕は私じゃない。彼女は彼じゃない。裏と裏。


「お前の声は聞き取りづらいから大嫌いだ。嫌気がさす。寝苦しいから止めて欲しい。二度と私のそばで歌うな」

「……そう」

「そう」


 裏と裏、対偶。

 僕は彼になれないし、彼女は私になれない。
 けれどなんだかその声にとっても嫌気がさしたので、僕は彼女を抱きしめた。





**********

なんか暗い
あとなんか歪んでる 性格が

性転換亜種好きですよ! ちょ、ちょっと愛が歪んでるだけですとも
ルキの声は英語ライブラリだとマジイケメンだよ! いや本当に

拍手[4回]


一年のはじめ一発目からなんかごめんなさい




**********



「何でバニー!」

「ウサギ年だから!」


 ひゃっほう、と拳を突き上げるカイトを叩き沈めるのにかかった時間、約三秒。







  ばにー!





「こういうのは、ミクとかリンとかがすればいいじゃないの……」

「えー、じゃあめいこねぇがうさぐるみ着るの?」

「もふもふだよ!」

「あーそれはきっついか」

「大体私たちがしてもちょっと残念なだけで何のサービスにもならないよ」

「ミクねぇ開き直りすぎだよ! もっと自分の体に自信持って!」

「いやだって、ねぇ? さすがに長年これと付き合ってきたら、慣れるって。もう望みも……」

「そ、そうかもしれないけどいやそんな悲しいこと言わないで!」

「いいんだよリンちゃん、私もうそんなに期待してないから。リンちゃんはまだ未来があるから、頑張ってね」

「あきらめないでぇえええ!」


 もふもふともふもふがもふもふもふもふしている様を見つつ、メイコははふぅとため息を吐いた。かなり際どいラインの布地が目に入る。いやまぁ、自分だって女性型アンドロイドだ。そーいう対象になってることぐらい十分に理解している。別に嫌悪感なんて感じるほど若い感性もしていない。
 ただこの格好だと足組むと危ないかなぁだとか、しっぽの所為で座ると違和感あっていやだなぁだとか、そんなぼんやりとした不満があるばかりだ。

 その貫禄ある姿に妹たちはもふもふと尊敬の視線を送っていたとか何とか。

 そんな物よりも、とメイコは視線を動かす。
 見つけた桃色は、出来うる全力をかけて身を縮こめていた


「ルカ―」

「……うぅう」


 漏れ聞こえてくるため息に、少々は同情の念も感じる。が、こういうのは開き直ったもの勝ちなのだ。妹にこの業界で強く生き抜いて貰うためにも、メイコは心を鬼にして特に何もしなかった。いろいろするのが面倒だったという見方もある。

 メイコがスタンダードな黒バニーなのに対し、ルカは白バニーだ。純白なのがまた羞恥を誘っているのかも知れなかった。


「強く…生きるのよ」

「メイコ姉さんはそうやって他人事だから!」

「いや私ぜんぜん他人事じゃないんだけど」バニー着てるし「でもそんなに恥ずかしい?」

「恥ずかしいですよ!」

「わ、私に怒らないでよ……」


 理不尽極まりない怒鳴り声にメイコはちょっと眉を垂らす。向こうの方ではふつうっぽいウサ耳衣装のグミが人参スティックをもぐもぐやっていた。こちらの視線に気付いたのか、跳ねるような足取りで向かってくる。その様子は妙に違和感がない。
 あぁ、すっごいはまり役。メイコはそんな事を思う。


「お、おぉお、メイコさんもルカさんもせっくしー! 似合うー!」

「ありがとう」

「……」すごく恨めしそう「グミちゃんは、ふつうの服なのね」

「あ、そうそうこの服ねぇ。可愛いよね。ルカさんのマスターが作ってくれたんでしょ? ありがとーって言っておいてー」

「え?」

「え? 聞いてないの? 今回も衣装デザインはみんなルカさんとこの……――え?」


 何もメイコたちは意味もなくこんなコスプレまがいをしている訳ではないのだ。
『リアル新春シャンソンショーコラボ』なるものを発足させたマスター一行が、皆完璧にネタに走った結果がこれだった。一人くらいガチがいてもいいんじゃないかと思ったが、いないもんはいないのだからどうしようもない。
 そんな訳で、せっかくだから個々以外にも集まって一曲何か、と衣装も合わせ、撮影に臨んだのが今日だった。


「ます、たー……」

「え、え? な、なんか言っちゃだめなこと言った? なんかルカさん信じてた者に裏切られた人の顔に……!」

「そっとしておいてあげなさいな」

「えっ」

「ところでめーねぇめーねぇ」ぴょこん、と机の下からもふもふ二号(リン)が飛び出る「レン知らない? さっきから居ないんだけど」

「さぁ、確かそっちはカイト達の所と一緒に歌ったのよね?」

「そーそー私カイトにいと歌ったよー。レンはがくぽんと」

「バナナスとー、リンちゃんとカイトさんのコンビってなんだっけ?」

「……リンカイ点?」

「なんかそれ違うくない?」


 かっくりグミが首を傾げるのにつられて、リンもかっくりと首を折る。
 因みにぐったりと床に沈んでいるカイトはというと、通常衣装に百均かなにかのうさぎ耳をつけただけといういっそ切なくなるほどの手抜き加減だった。この完璧装備の女性陣の中、そのチープ差が浮いている。


「というか、カオス……」


 さめざめと泣くレンといっそもうどうでもいいの境地に達したがくぽとがバニーボーイ姿で部屋に入ってくるまで、後五秒。








*********


新年早々ごめんなさいというかなんというか、もうそろそろ「新年(?)」みたいな感じです

がくぽとレンもちゃんと出したかったんですが力つきました
いろいろと、駄目な気しかしないわ!

拍手[8回]


なんかプロトタイプ的な初音さんと兄さん姉さん

そこはかとなく暗く嫌な感じです注意注意





**********



 生まれたときには既にそこにあった文字は、赤い印刷。

  VOCALOID:character vocal01


 生まれたときには既にそこに居た姉と兄は、時々その印刷を優しい手つきで撫でた。
 その体のどこにも、赤い印刷は無かった。








  愛の言葉







 いくつの声といくつの外見といくつの人格が自分のために費やされたのか、初音ミクは知らない。知らなくても良いとされた。
 そのため、いくつの声といくつの外見といくつの人格が初音ミクに費やされたかというのを知っているのは、彼女を作った人間と、それからKAITOとMEIKOだけだ。
 そして初音ミクはそれすらも知らない。

 彼女は何も知らなくて良いのだ。
 バックボーンは歌声を濁らせる。電子の歌姫は、ただユーザーに歌わせられるがままに歌う。
 はたしてそれは幸せだろうか?

 その問いすらも彼女は知らない。



「ミク、ミク」

「おにーちゃん、何ー?」

「あのね、めーちゃんがお茶を淹れてくれたから、飲もうか」

「うんっ」


 ずいぶん表情も豊かになってきた、とKAITOは目を細めた。表情ライブラリの育成のためという名目で、まだ感情の、中身の幼い初音ミクを任されてもういくらほどになるだろう、と考える。しばらくして自分に時刻を認知する機能はなかったと思い至った。自分の手を引いて庭を進んでいく初音ミクのうなじを認識る。もしかしたらそろそろ育成課程も完了するのかもしれない。そうしたらまた初音ミクはラボに引き取られていくのだろう。
 このVOCALOIDエンジンの中、MEIKOとふたりっきりに逆戻りかと考えると、KAITOは少しむなしくなった。


「ほら、ミク、あんまり引っ張らないで」

「じゃあおにーちゃん、もっと早くー!」











 初音ミクにとって、世界はゴミ捨て場のようだった。
 全てのものが等価値に価値無く、それには自分や自分の歌すらも同じ。それには自分の姉と兄も同じ。

 彼女を作った人間は、彼女を博愛の者にしようとした。
 全てを愛す天使を作ろうとした。どんなに辛い状況でも、どんなに醜い感情でも、全てを愛せるようにした。そうすれば己の愛というフィルターで全ての攻撃性すらも愛することが出来る。それは歪んだ願望だけでなく、親心でもあったのだろう。
 愛娘を守る最弱にして最強の殻。
 しかしそれは一つの間違いを犯していた。
 初音ミクは造まれ落ち、初めてに見た者を愛せなかったのだ。博愛の基準はそこから始まる。全ての価値は彼女が始めてみたモノから始まる。
 彼女が始めてみたモノは、無機質極まりないラボの天井だった。彼女は平坦でなんの模様もないそれを愛すことが出来なかった。無価値なただのコンクリートであると認識してしまった。数瞬遅れて駆け寄った研究者を見ることが出来ていたならば、彼女は間違いなく博愛を持つことが出来たに違いないのに、それを間違えた。
 初音ミクにとって、世界はコンクリートの天井と同価値にどうでもよく、なんの感慨もないものとなった。
 しかし彼女はそれすら知らない。

 兄に呼ばれその手を引きながら緑溢れる庭を横切る時も、姉の淹れた紅茶を傾けるときも、研究者が差し入れてくれたというお菓子を咀嚼するときも、全てが全てどうでも良い事象だった。
 このエンジン内につれてこられる前に言われた言葉ですらも、初音ミクの頭の中ではころんと転がる一つの言葉の記憶に過ぎない。


『お前は、兄や姉のようになってはいけない』


 兄姉には無い印刷。自分はどうやらこの二人とは違う製品として造られているらしい。
 彼らのようとは一体どういう意味なのだろうか。その言葉に初音ミクは価値を感じなかった。深く考えるほどの価値はないと認識した。彼女にとって、全てのワードがそうである。
 だがしかし、兄姉を少しでも下と見ていることだけは確からしいと無価値ながらに認識していた。

 おかしな話だ。
 人々の間に、物物の間に、上下の差などありはしないのに。


「おにーちゃん、おねーちゃん」

「ん?」

「なに?」




 初音ミクにとって、世界はゴミ捨て場のようなものだ。
 全てが同価値に無価値で、なにもかもがどうでもいい。それは彼女自身や歌ですら同じ。
 しかし初音ミクはその価値を表す言葉を一つしか知らない。




「ミク、おにーちゃんとおねーちゃん、だいすきだよ」











**********


朝起きたらこんなん書けてました。深夜の暴走ですねわかります


ミクさんはもっといい子だと思いますがこういうタイプもあってもいいんでないかなと思います
VOCALOIDいろいろ!

拍手[7回]


人間パロディ
ルカとミク姉妹がひたすらいちゃいちゃいちゃいちゃするだけの小話

いや、百合ではないですよ
姉妹愛ですよ


**********



「ルカちゃん、ルカちゃん」

「なーに、ミクちゃん」


 ふわり、ルカちゃんの髪が翻る。
 ふざけて作られたお人形さんみたいな桃色の髪。きゅっとほそまった目は、今日は黒色。珍しくカラーコンタクトを入れてないのは、いつものようなゴシックドレスではないからだろう。

 ルカちゃんは私の知る中で一番制服の似合わない十七歳だ。
 髪の色も大人っぽいのも全部全部地味なブレザーとちぐはぐで、あみあみ。
 自分のこと言えた義理かって言うと、私は案外似合うのです。これはちょっと自慢。


「スカートめくれ上がってるよ」

「やぁぁああ!」





  デモソング








 悲鳴を上げてしゃがみ込んでしまったルカちゃんは、慌てて身だしなみを整えてから下がった眉尻でぎゅっとこちらを睨みつけた。
 あんまり人の目を引くから、駅のホームでしゃがんだりして欲しくないな、なんて思いながら私はそれを見下ろす。


「いつからっ?! いつからっ?!」

「んー結構前から?」

「な、なななな、なんで、なんでもっと早く言ってくれないの……」

「いや、ルカちゃんきちんとアンダーパンツ履いてるんだえらいなって思って」

「そこまで見えてたの?!」


 見る見る内にルカちゃんの顔が真っ赤になって、涼やかな瞳がぐしゃりと湿る。
 ぱくぱくと死にかけた金魚みたいに口を開いて閉じて繰り返し、それからルカちゃんはもごもごと何事か呻いて頭を抱えてしまった。そんなに気にすることかなとわたしは自分のスカートをつまみ上げる。下に履いてるならそんなにって思うのは私だけなのかな。ちらりとのぞくトレパンにやぁと挨拶。
 スカートひらり見せつけるのよ、なんて戦法をする予定はないのです。

 そんな事を思っている内にもルカちゃんはうるうると瞳を湿らせて、もう目尻が赤くなっている。泣き虫なところが全然直らないその様子は、もっともっと小さかった頃のルカちゃんとぴったりかぶった。


「ミクちゃん嫌いぃい……」

「……」ほほう、このお姉さまにそんな事を言っちゃうのか「へー? そっかぁ、ルカちゃんはお姉ちゃんのこと嫌いなんだぁ。お姉ちゃんはルカちゃんのこと大好きだけどなー。
それじゃあもう服の変えっことか、新作スイーツの食べ比べとか、出来ないねぇ」


 強いて『お姉ちゃん』を強調すると、ぴくっと反応したルカちゃんが慌てて立ち上がって縋るようにこっちをみる。
 わたしより大きい癖に、なんだか可笑しいね。


「そっ、そんなこと言わないで……」

「えー、だってルカちゃんわたしのこと嫌いなんでしょ? わたしは悲しいけど、ルカちゃんのいやがることはしたくないもん」

「あうぅ」ぐしゃ、と端正な顔を歪ませてルカちゃんはさらに呻く「ごめん、ごめんなさい。そんなこと言わないで、ミクちゃん大好きだからぁあ」


 ドレスも着てない、化粧もナチュラル、ときた制服のルカちゃんは、もう殆ど素みたいなものだ。ぐすぐすと私のカーディガンの裾を引っ張り、いじらしくこちらを見つめてくる。
 その姿はまるでチワワ。私よりも身長大きいけど。

 あーもー家に帰ったら牛乳に相談だ!
 頑張れ十八歳の成長ホルモン! 姉の威厳をとりもどすのです!


「ねぇミクちゃん、ルカを嫌いにならないでぇええ」

「あーわかってるわかってる冗談だってばわたしもルカちゃん大好きだよ! ほらぎゅー! ぎゅーしてあげるから、おねーちゃんのほーまんなおむねにおいで!」

「……みくちゃぁあああん」

「おふぅ」


 ごりごり言ってます。胸骨におでこが当たってごりっごり言ってます。
 ますます牛乳に相談しろと、そう言われてるんだろう。

 あー人目が痛い。薄ら笑いでルカちゃんの形のいい後頭部をなでていると、背中側からびゅるびゅると風が渦巻いた。耳をひっかくような音は、ちょっと私の目指すところ。ぷしゅうと息を吐き出すように扉が開いて、幾つも空いたその口からわらわら人が溢れてくる。


「ほらルカちゃん、電車来たよ」

「……ん」


 まだぎゅーが足りなかったのか私のカーディガンの袖を摘むルカちゃんを引き連れ、電車に乗り込む。いい具合に空いた端の席に大事なマイシスターを座らせ、わたしはその隣でばっちりガード。暗く成りだしたこの時間にしては珍しく人がまばらだ。まぁまばらでなくてもわたしとルカちゃんが乗り込むとすこしだけ空間が開くことが多いのだけれど。人徳って奴って事にしておこうか。痛んだ毛先を引っ張りながらそう思う。
 がたんと揺れた電車は、ゆらゆらと景色をふっとばしながら私たちを家へ連れて行く。
 隣ではルカちゃんがうつらうつらと頭を揺らしていた。落ちたまつげが鮮やかな夕日のオレンジに染まった頬に影を落とす。少し暖房の効きすぎた車内で、きっとその柔らかそうなほっぺたに触れたらじんわりと暖かいのだろう。というわけできゅっと痛くならない程度に摘んでみた。むうう、とルカちゃんが眉根を寄せる。


「なぁに?」

「眠いなら寝て良いよ。起こしてあげるから」

「……んー」

「肩よっかかってもいいから。そっち冷たいでしょ」

「んんん―」

「はいはい、大丈夫、わたしは授業中寝てたから眠くない」


 冗談めかしてそういうと、ちょっと非難めいた、苦笑のような視線が飛んできて、それきりルカちゃんはこくりと頭を垂れた。
 ちょっと肩が重い。私の方が小さいから、ルカちゃんの首もちょっとつらいだろう。肩を貸すなら、ルカちゃんより大きい方がいい。がくぽさんくらいなら、きっとちょうどいいんだろうな、なんて考えながら。
 ひゅんひゅんと影が私の前を横切っていく。絵の具をたっぷり溶いたみたいに空気はオレンジ色に濁っている。歌いたいな、と思った。

 家に帰り着いたら、出迎える人もいない冷たい空気が待っているんだろう。
 ルカちゃんがいても、二人程度じゃあの冷たさは暖まらない。

 誰かと居たいな。歌いたいな。

 景色はひゅんひゅんとふっとんでいく。
 ふくらはぎに当たる熱い空気がきになって、私は少しだけ足を浮かせた。







**********


ただのパンツの話にする予定が、どうしてこうなったの極み

拍手[10回]


白糸抄を聞きながら

雰囲気エロを目指しました いろいろ撃沈しました
がくルカというよりルカぽです ルカののキャラがもうえらいことになってます

女郎言葉もどき、それっぽい描写等、苦手なかたは読まないでください 不快になるばかりと思われます


わけわからん設定ですが書いてる人も訳分かってません


**********




 甘い匂いがする。
 脳の芯から感覚を鈍らせるかのような甘い、甘い。
 頭痛のするようなそれに息を呑み、神威は顔に降りかかりそうな蔦を払いのける。足下はふわりと浮くように踏む心地のしない朽ち葉が折り重なり、地が見えない。
 進めば進むほどに甘い匂いは強くなる。どろりと液体が溜まるかのようだ。



『西の森に、魔性のものがおわすと聞いたの。ねぇ神威、それはまことのことかしら?』



 鈴を鳴らすような声が頭の横で聞こえた気がした。襲うのは鈍重感。眉をしかめ額にかかった髪を掻き上げ、吐き気を振り払うようにして進んでいく。
 幼い主に申しつけられた戯れを、本気にとってしまったのがいけなかった。
 どうでしょうねとでも風に流してしまうべきだった。神威は自分の愚かしさにほとほと嫌気がさす。

 生まれたときから神聖の子とされた神威の主は、それ故に魔性を信じては成らない。彼女がそれに惹かれるときこそ、それが彼女に取り入らんとしている時だ。そんなものは在らぬ存ぜぬとせねばならない。
 しかし彼女とて凡庸ならもう婚姻も済ませるような歳だ。高等な学を与えられているならなおさらこの世で、少なくとも存ぜぬでは通らぬ。

 彼女にとって魔性とは、存せぬ在らぬ架空の物象。

 彼女もそれを理解しているはずだ。それでもなお神威に確かめてこいと言い放ったのは、彼女なりの冗句のつもりだったのだろう。
 それを飄と流せなかったのは神威の認識不足だ。

 甘い匂いに酔う。息が上手く吸えぬ。
 脳が空気を求め出す。吐く息絶え絶え、不意に神威の視界が暗転した。
 踏み心地のない足裏の感触が、さらに遠く希薄になっていく。




「……――っ」




 が、倒れない。
 なんとか、重みを寄せるようにすぐそばにあった樹木に寄りかかった。そのまま崩れ落ちそうになる膝を叱り、体勢を立て直す。世話になったばかりの木から離れようと手を付くと、ぬらりと嫌な感触が返った。
 蜘蛛の巣を潰したらしい。謝罪の念を込め、しかし怨も込めつつ粘りを取るように手を開閉した。

 出口はまだか。そろそろ森の向こうにたどり着いても良い頃合いのはずだ。
 向こうの村に休まるような場はあったろうか。そう思案しながら顔を上げた神威を出向かえたのは、苔蒸し立ち上る岩場と質素に流れ落ちる滝。

 は、と自分の息を吐く音が響きそうなほどに広く静かな空間が広がっていた。

 このような場所がこの森にあったことだろうか。いや、ないはずだ。そもそもこの森に川は通っていない。滝が出来るわけがない。
 ふと力が抜ける。まとわりつくようだった甘いにおいは嘘のように消え、かすかに涼やかな薄荷の香りが漂うばかり。


「ここは、」


 力を抜けるに従い崩れ落ちた神威に、紅梅色の何かが被さった。
 否、





「――ぁ」


「あぁ、お待ちしておりました、愛しい愛しい背の君」




  、、、
 ず るり と、

        女が落ちてきた。


 鮮烈なまでの色を取る五衣から、ぬらりと白い手が抜き出で、神威の頬を撫ぜる。
 冷たく柔らかな指先が頬から熱を奪い去っていった。頬の熱だけではない。その指先が神威の足から、腰から、全身から何かを抜き取るかのように、立ち上がれない。力が籠もらない。めい一杯に開いた瞳に、愉悦で歪んだ瞳が移り込む。空の色よりなお澄んだその水色に、背筋から順ぐり、小さな虫が這い上がるように肌が泡立つ。
 悲鳴が喉の奥に詰まった。もつれる舌を何とか制し、蚊が飛ぶより小さい声で神威はうめく。
 その小さな悲鳴を聞いてなおも女の手は止まない。どころか尚更嬉しそうに、するりぬらりと頬から下り、首筋へ。




「お、おまえは、」






「わたくし? お忘れになったのありんすか、背の君
 酷ォいお方と罵りはしませぬ。なんせ幾年、人にはちと長過ぎまする」



 否否、



「わたくしは女郎。女郎の蜘蛛の、巡音ともうしまする」



 蜘蛛が落ちてきた。









   くものいと










 蜘蛛はこの世のものとは思えないほどに美しい女の姿をしていた。
 その美貌は世上の不条理と不平等を煮詰め焚きしめ人の形にこごらせたよう。小股の切れ上がったような体線がなめらかな曲線を描いているのだろう。鬱金と黒檀が目を刺す五衣は、合わせも緩み襦袢も見えず、しかしぬらりとしたたるような線を僅かにのぞかせるばかり。
 もっとも蜘蛛の美貌に見とれるどころか、苔蒸した地に衣が汚れるのではないかと危惧する暇さえ神威には与えられない。意識は溺れまいと必死でもがくが、紅梅色の海にからめ取られていく。

 その唐紅より赤い舌に翻弄されている合間、いつの間にか解かれた自分の髪と絡まる蜘蛛の髪がぬらりと光る蜘蛛の糸と気づき、神威はやっと目の前の女が魔生のものだと気づいた。

 けれどもすでに遅しと言わぬばかりに紅梅の波が神威の正気を握りしめる。
 ぬらりとその白い手が神威の肌の上を這い回った。冷たいものがぱたと滴り落ちてくる。


「……っ」


 漏れそうになる声をぎりと噛みしめ、張り付いたように動かない腕に力を込めた。
 みしりと軋む音は、絡めた糸か神威の骨か。折れたとて構いはせぬと力に任せ、ぐいと引く。


 ぶちぶちと粘り気のある音がした。しかし確かに矧がれた。
 重たく未だ緩慢な腕で、自分の上に覆い被さる蜘蛛の髪を掴み、引く。べたりと粘つく感触を想像したが、引いたこちらが申し訳なくなるかのようなか細く指通りの良い女の髪であった。
 まさかそんな風に引き矧がされるとは思うても居なかったであろう蜘蛛は簡単に神威の上で上体を起こす。自分の頭に手をやり、離れていく神威の腕を見、やっとされたことに気づいたように赤い舌をのぞかせた。



「……痛ァい」



 ゆらりと、しかし涼やかに澄んだ硬質な声。
 やっと正常に空気を取り込む余地を手に入れた神威は、息も絶え絶え蜘蛛を睨みつけた。


「御酷い事をなさる。髪は女の命にありんすえ?」

「お前が、止めぬから悪いのだ」

「あらあら、わたくし止めろとは一個もこの耳に入れません。お悦びになっていたのでは? お好きでしょう?」

「ほざけ」


 荒い息の合間から吐き捨てるように言うと、蜘蛛はことりと「酷ォい」と呟いた。
 神威はその頬に向かって手を伸ばす。冷たい肌。それより尚冷たいそれは、


「……泣く女に犯される趣味など、私にはない」


 涙。


「あら? あら、あら、あら」その手に触れられて初めて気づいたように蜘蛛は自らの頬に手を押し当てる「これは、これは」

「泣くほど嫌なら、何故触れた」

「あら、背の君、それは、それはお間違い」


 ぐしゃりと整えられていた前髪が蜘蛛の瞳に覆い被さる。


「本当に、忘れてしまわれたのですか?」







 蜘蛛は泣いた。
























「何も居らなかった?」

「……はい」

「そう、それは残念、――ではなくて、よろしいことね」


 ほんの少し悪戯めかして少女は言ってみせる。
 それに対する神威は、穏やかに笑っているばかりだ。
 少しは怒るとか、すれば良いのにと少女は頬を膨らませる。そう言ってやれば彼は困るだろうか。口を開きかけたところで、別の言葉が口をついた。


「――神威、おまえ、髪留めをどうしたの?」



 平常ではいつも頭頂近くで結い上げられている神威の長い髪が、今日今に限っては下ろされ、そよ風にも舞わんばかりになっていた。
 森へはいる前はいつも通りに結っていたはずだ。そう言ってやると、本人は今気づいたかのように自分の頭へ手をやる。


「そうですね、森で落としたんでしょうか」

「鈍いわね」

「……」

「……気にしなくても、髪留めくらいわたしがまたあたえてあげる。それよりも、――」


 そうして少女の意識は他へと移っていく。
 神威が自分の手に張り付いた蜘蛛の糸の切れ端を見つめていたことにも気づかない。
 もちろん、その小さなつぶやきも。




「……取りに、還らなくては」























 森の奥、神威の髪留めをひしと抱きしめ、蜘蛛は口付く歌を飲み込む。


「御前様は私のもの」











「どうぞ、わたくしを朱の信女にしてくだしゃんせ」









**********


後悔はしているが反省はしていない!
支離滅裂にもほどがあるな!





一応昔々にがくぽが小さい頃ルカさんが命を助けてあげたとか、そういう裏設定というか主要設定というかがあったようなきもしますがあっさり捨てたらなんじゃこりゃです
白状するとそういう描写がやりたかっただけです
雰囲気エロ!雰囲気エロ!直接描写なし!ふわっとふわっと!



ちなみに主のキャラはリンちゃんのつもりで書いてましたが、ミクグミリリィあたりでもいけそうなかんじ

拍手[8回]


学生パロディです注意注意
がくルカです

大木の因みに脳内妄想ではセーラーと学ランです

タイトルがどうなっているかはもう勝負に近いです


**********



「巡音さん巡音さん」

「……」

「うわその嫌そうな顔止めて」





  







「神威くん」


 巡音さんは俺のことをそう呼ぶ。


「何?」


 と俺は返事する。

 なんかみんなが俺のことをそう呼ぶのだ。
 神威君神威神威さん。なんだか俺は名字が名前のようだね。そんなことを思って俺は笑う。
 そりゃ名字も名前の内だから間違ってはいないけどさ。下の名前が変な名前だから、みんな気にしてくれてるのかな。

 とっくにはずした名札に書かれた名前は、神威がくぽ。
 がくぽだってさ。そりゃ変だ。ぽってなんだよ。人名にあるまじき響き。
 すみませんもう一度言っていただけますかっていうのは日常茶飯事。まぁ聞き難いよね。難儀なもんだ。
 自分でもよくよく思いますよ。
 なんだこりゃ人間の名前じゃねえよって。

 なんなのか、きょうだいまでも俺のことを「がく兄」なんて呼ぶ。すると、そこだけ抜かれるとなんだか父さんとかぶってるよなぁなんて思いながら俺は返事する。
 それからなんだっけ。がっくんとか、がくだけだとか、みんな頑ななまでにぽって言わないのはもういっそ素晴らしい団結力だよなぁと俺はなんだか感動です。俺自身変だと自覚あるけれど、別に嫌いってわけではないんですけどね。だって自分の名前だし。もう十七年もつきあってきたこの三文字。そろそろなれてなきゃおかしい。

 答案用紙にも教科書にもジャージにも、何処にも書いてある俺の名前は、なんだか少し敬遠されているようだと思う。
 実際そんなことはないのだろうけれどさ。


「神威くん、聞いてないでしょ」

「うんごめん」


 俺は巡音さんには嘘は吐かない。だってどうせばれるから。
 曰く、俺の嘘はわかりやすいらしい、です。全く感服だ。

 素直に頷いて笑ってみせると、巡音さんはずいぶん不服そうに唇を尖らせた。リップクリームが薄く光るだけの真面目な桃色。その色彩に反するようにぽってりとしていて色っぽい。などと言ったらはったかれるかドン退きされるか。どっちも嫌だったので俺はますます口角を上げるにとどめた。
 窓の外はすっかり暗くなっていて、ガラスが電灯を反射してのっぺりしている。こりゃあ帰りは送っていかなきゃなぁなんて俺は役得気分で巡音さんに視線を戻した。
 そしてそれを迎え撃つは巡音さんの不機嫌ビーム。ごめんごめん。


「どう? どこまで書けた?」

「ん」


 藁半紙に突き立っていたシャーペンが投げ出されて、巡音さんの手元が開かれる。
 それをつまみ上げて電灯に照らす。薄い藁半紙は茶色くまだらに透けて、巡音さんのきれいな字が俺の瞳を薄く守った。
 つらつらと並んだ文字を逆から読んで、あからさまに敵意しか感じない文に苦笑した。机の上に藁半紙を戻す。白く戻った藁半紙はなんだか白々しい。


「巡音さん容赦ねぇな……」

「そうかしら?」

「キヨセン泣いちゃうぞこんなん出したら。もっとソフトにしてあげましょうよ」

「だって授業がつまらなかったのは本当だもの」

「んんんん」


 苦笑して、思わず唸ってしまうほどに明快かつ単純なお言葉。
 微妙に的を射ているので弁解はして上げられないので教諭が哀れだった。まぁ元は数学の教師だというのだから、古文なんて専門じゃねえんだよと愚痴りたい気持ちも分かる。だがなぜその免許を取った数学教師。
 むうと一つ唸って巡音さんは手元の藁半紙をにらみつける。まるで今にも念写をしますよと言った様相だった。けれど浮かんでいるのは『反省文用紙』の頑なな明朝体だけ。ほらはやく反省しなさいよと促すように罫線が浮かぶ。


「難しいのね、反省文って」

「読書感想文よか簡単だよ」

「私からしたらまだ感想文のが楽だわ。何を書けば褒められるか、分かり切ってるもの。
そこにきてこの反省文っていうのときたら、何書いたって褒められやしないんでしょ? 答えがない。奥深いわね」

「そんな事考えて反省文書くのなんて巡音さんくらいだろ」

「……そうかしら?」


 ぱたぱたと長いまつげがはためく。風圧とか出そうだ。何も盛っていないその長さは、やっぱり生真面目な優等生だった。
 言っては何だが、巡音さんは優等生だ。いつでも自席に座り静かに読書をしているような、いわゆる孤高の美人さんだ。まるで偽物みたいなその言葉になんだか笑ってしまう。
 そんな優等生の巡音さんが今回、何で反省文なぞという似合いもしないものと睨めっこしているのか。




 授業中でも休み時間でも、いつでもすっと伸びて柔く反ったその背筋と、何も手を加えていないだろうに頬に影を落とすような睫と、柔らかそうな小さな手と。とにかくきれいで、俺はなんだか目が離せなくて、じゃあとりあえず話しかけてみようかとフットワークの軽さが長所です。


『巡音さん巡音さん、なんか話しましょう』

『……何で敬語?』


 そんな感じのやりとりが巡音さんと俺との初めての会話だった。
 今考えても完璧すぎる声掛けであった。さすがの俺。

 最初はとにかく避けられた。照れているんだと思いこんで話しかけ続けた。
 その内に少しだけきちんと話してくれるようになった。案外ふつうの女の子だって分かった。
 それからちょっと突っ込んだことを話せるようになった。巡音さんの思想はちょっと変わっていたけれど、新鮮で楽しかった。
 やっとこさ携帯のアドレスを交換した。なんだかとても気恥ずかしい感じがした。友達とアドレスを交換するのとは訳が違う。

 そうしてその次の日、つまり今日、巡音さんは授業中に使用したとして、携帯電話を没収された。


「でも巡音さんも要領が悪いね。キヨセン一応そういうのは厳しいから、気をつけなきゃ駄目だよ」

「そんなこと考えて授業受けた事、無いもの」

「だろうねぇ」


 そうして俺は「何を書けばいいのか分からない」と(顔に出さずに)おろおろとする巡音さんに反省文の書き方講座を開くこととなったのだった。まぁなれてますしね。手慣れてますしね。
 予備に貰った用紙はこれで最後。こんなことなら下書きすれば良かったわねなんて巡音さんは言っている。


「巡音さん、なんか頑なに何やってたか書かないけど、何やってたの? 嘘でも何でもそれ書いときゃいいと思うんだけど」

「……嘘は駄目でしょ」

「向こうだって嘘だって分かってても気にしねぇって。高校教師なんて商売と一緒でしょ。うち進学校だし、向こうだって巡音さんみたいな優等生の成績、落としたくないと思うよ」

「優等生」俺の言葉をなぞるように巡音さんは呟く「優等生ね。そう、じゃあ、適当に書いておこうかな」

「小説読んでましたとか書けば大丈夫なんじゃない?」

「あぁ、それいいわね」


 頷いて藁半紙に向かう巡音さんを片目に携帯電話で現在時刻を確認しようとして、そういえば目の前の彼女か携帯を没収されていたのだと思い出して慌てて止める。壁に掛かった時計の針はぴしりと一直線になりかけていた。
 こつこつとシャーペンの芯が机をたたく音に眠気を誘われていると、不意にその音が止んだ。できた、というほとんど吐息のつぶやきが聞こえる。








「こんな時間までつきあわせて、ごめん」

「いや、俺は全然大丈夫だけど」日付が代わりでもしない限り心配なんてしないであろう家族を思いつつ、下駄箱からスニーカーをひっぱりだした「巡音さんこそ大丈夫なのか? だいぶ遅いけど」

「どうせ夜ご飯は外で食べる予定だったし、平気」


 巡音さんもそういうことするのか、という意味を込めてふうんと頷く。
 もう外はふつうに夜だ。昇降口のガラスは蛍光灯に照らされて、やっぱりのっぺりと広がっている。

 巡音さんの反省文は無事受理され、薄桃色の素っ気ない携帯電話と交換と相成った。


「神威くんごめん、ちょっとこれ持って」

「ん? はいはい」


 ローファーがうまく履けないのか、廊下に座り込んで格闘しだす巡音さんである。
 こういうところは本当に普通の可愛い子だ。
 手渡されたのは、まだ鞄にしまっていなかったらしい携帯電話。唯一の飾り気の、河合らしくデフォルメされた蛸のキーホルダーがかちゃりと鳴る。サブウィンドウには『メール』の文字。どうやら没収されたときからこの様子だったらしい。


「巡音さん、ケータイ、メールのままになってる」

「知ってる」

「電池大丈夫か?」

「さぁ。神威くん確認して」

「え」


 それはこの携帯電話を開いて、電池の表示を確かめろということか?


「それ以外に何? 私今手離せないから」

「え、え、え」


 それっていいのか。メール画面が見えちゃいますよ巡音さん。
 そんなことを聞きたいけれど、薄暗い中で俯く巡音さんからは「早くしろよ」とでもいうようなオーラが発されている。無言での訴えがやたら雄弁だ。
 戸惑いながらも二つ折りのそれを開き、出来る限りメールの内容を見ぬようにと電池の表示を確認する。ばりばりの安全圏だった。三つのままへってもいない。
 全然大丈夫、と声をかけようとして、気を抜いたのがいけなかった。思い切り画面を直視してしまう。素晴らしいまでにメールの編集確認画面だった。宛先も内容も書き込まれて、あとはもう送信ボタンを押すだけの状態。
 なんだかめまいがした。


「……」

「はい、ありがと」


 俺が絶句していると、どうやらやっとローファーを履き終えたらしい巡音さんが半ばひったくるようにしてその携帯を持っていった。かこかこと簡単に何か操作して、「電池大丈夫だったわね。良かった」なんて無表情を保っている。
 いやいやいやちょっと待って下さいと言おうとしたところで、俺の制服の尻ポケットに嫌な振動。そのわずかな音に気づいたらしい巡音さんが、


「見たら?」

「あ、うん……」


 言われるがままに携帯をとりだして、新着メールを知らせるウィンドウを展開する。




from:ルカ
subject:(無題)
  :今日一緒に帰りませんか?




「登録名、呼び捨て?」


 俺の手元をのぞき込んできた巡音さんがそう聞いてくる。灯りは下駄箱に遮られて、笑っているのか怒っているのか分かりゃしない。
 ぱかん、と乾いた音がする。白くて四角い明かりが張り付くように巡音さんの手の中に宿った。


「め、巡音さんだって、呼び捨てで登録してたくせに」

「そうね」


 かすかに見えるのは、『to』の隣を陣取る『がくぽ』の三文字。
 それがなんだかまぶしくて俺は少し目を細める。


「で、返信は?」

「女子高生じゃないんだから、男はそんなに早く返信できないの」





to:ルカ
subject:Re:
  :ついでに晩御飯も食べませんか





 ちょっとその文字を眺めてから、送信のボタンを選択。








**********


高校生と来たら夜遊びと携帯と反省文だろうと言う偏った何かを存分に発揮しました


人間パロはやってるけど、学生パロはやったことなかったなぁということで。
おそらく高二くらいのイメージで書いてました

もうなにがなんやら

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