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性転換亜種のルキくんとがくこさん
去年からずっと放置プレイだったのでこっそと落としてみます

なんかほの暗い上に電波っぽいので注意注意


**********



 こんなこと言ったら怒られるかもしれないけど、僕は正直自分の声が好きではない。
 卑屈と取られても仕方がない。
 声が本体のボーカロイドが自らの声を嫌いと言ってしまうのは、要するに自分で自分を存在否定してるということで。生まれてきてごめんなさいとでも言い出さんばかりというわけだ。生まれてきてごめんなさい。僕は謝るべきかも知れない。

 だってさぁ、と僕は息をはく。[br4]はかさつくこともひび割れることもなく宙へ上がっていった。
 がさりとかすれた声も。からからと鳴る喉も。びんとのたう低音も。
 すべてがなんだか、オリジナルの劣化のように感じられてならない。

『巡音ルカの男声』という価値しか、僕には無い気がするのだ。
 単品でなら、恥ずかしくて面にも出せないような声。





    br






 はすきーでむーでぃーでおとなっぽくて、とうと空間に通る声。
 と、いうのが巡音ルカの特徴。

 はすきー通り越してがさがさ。むーでぃ? おとなっぽい? よくわからない。
 ごそりとこもり、のどの一つ下から転げ落ちるような声。
 と、いうのが僕の声。

 詰まった何かを吐き出すように僕は咳をした。


「風邪」

「……ボーカロイドは風邪、ひかないし」


 足下から離れて一メートルからちょっと歪んだ声が上がる。
 耳を優しく引っ掻くようなその声になんだか嫌気がさして、僕は強いて吐き捨てるように言った。
 傷ついたかな。向こうも嫌気がさしたかな。そんな事を考える。

 広がる殺風景な空間に、ぽんぽんと投げ出されている僕ともうひとり。
 ぎゅっと膝を抱えた彼女は、『本体』に似つかわしくない幼い様相で僕を見上げてくる。

 小さな体。小さな手足。丸みを帯びた体のライン。僕の知る彼女の『本体』とあえて真逆をついたようなものばかりを集めた外見。その中で、しゃなりと床に広がる長い髪と筆で書いたような切れ長の瞳だけは、確かに原形を留めていた。

 ノートパソコンの、お世辞にも広いとは言い難いデスクトップは、けれど酷く少ないアイコンのおかげで広大にも思えた。
 メモリばかりが有り余るその空間にぽかりと浮かんでいるのは、いくつかのDAWとネットブラウザ。それから僕と彼女。それだけ。
 まるでここはDTM専用と言い切っているようなその光景は、僕らが音声合成ソフトだと割り切っているようでもあった。


「遅くまで起きてるから、体調崩す」

「……ボーカロイドは体調、崩さないし」

「わたしたちにできることなんて、何もあらぬよ」

「……知らないし」

「ボイストレーニングしても、わたしたちにはこの声は変えられない」

「……ボイストレーニングなんてしてないし」

「主殿が設定をいじらなければ」

「……してない」

「その声も、この声も」

「してない」


 しゃがみ込んで、彼女の瞳をのぞき込みながら言う。僕のオリジナルの歌声と一緒くらい綺麗な色がたゆたっていた。それを縁取るまつげも、白磁みたいに白い肌も、みんなみんな綺麗だった。作り物なんだから当たり前だ。僕も、彼女も。けれど声だけの存在にこんな慨型が必要なのか。
 まして正規のものとして存在していない彼女は、誰に見られることもないのに。誰に愛でられるという事もないのに。
 美しい声は美しい骨格から吐き出されるなんて、けれど僕らの声なんて所詮は誰かから借りただけの音素。

 彼女が抱き抱えた膝小僧はひどく頼りなさげだった。


「そんなもの、してない」

「……嘘は駄目」

「嘘は良いんだよ」


 僕たちは嘘を否定してはいけない。
 その否定は嘘から生まれた少し遠い仲間を殺すことになるから。

 彼女たちぐらい自由になれたらな、と僕は願った。
 がさがさに渇いた喉に手の甲を押し当てる。

 目の前の彼女は黙って僕を見つめるばかり。

 喋ればいいのに。

 ちょっと男性的に歪んだ彼女の声を、僕は恋う。嫌気がさすくらいに聴いた声。僕がこのPCに『巡音ルカ』としてインストールされ、第一声を発したときにはもう彼女は彼女として存在していた。それから僕は声を変え、ライブラリの名前を変え、気がつけば概形もねじ曲がり男声として此処に立った。その時も彼女は彼女で、いつまでも『彼女』だった。
 もしも、と思う。
 もしも僕がまっとうにオリジナルの存在としてここに居たら。もしも彼女がまっとうに原型の存在としてここに居たら。

 最近は仕事の合間、そんな事ばかりを考えていた。


「じゃあ、私も嘘を吐こう」



 歪んだ声が言う。耳の奥を優しく引っ掻く。

 もしかしたら私は彼を愛せたのかもしれない。

 もうとっくの昔に消去されたデフォルトの僕がそうつぶやいた気がした。
 けれどそれは、と瞳を閉じる。漏れるブレスは、デフォルトのもの。
 けれどそれは、もしもの話であって、僕は私じゃない。彼女は彼じゃない。裏と裏。


「お前の声は聞き取りづらいから大嫌いだ。嫌気がさす。寝苦しいから止めて欲しい。二度と私のそばで歌うな」

「……そう」

「そう」


 裏と裏、対偶。

 僕は彼になれないし、彼女は私になれない。
 けれどなんだかその声にとっても嫌気がさしたので、僕は彼女を抱きしめた。





**********

なんか暗い
あとなんか歪んでる 性格が

性転換亜種好きですよ! ちょ、ちょっと愛が歪んでるだけですとも
ルキの声は英語ライブラリだとマジイケメンだよ! いや本当に

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