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学生パロディです注意注意
がくルカです

大木の因みに脳内妄想ではセーラーと学ランです

タイトルがどうなっているかはもう勝負に近いです


**********



「巡音さん巡音さん」

「……」

「うわその嫌そうな顔止めて」





  







「神威くん」


 巡音さんは俺のことをそう呼ぶ。


「何?」


 と俺は返事する。

 なんかみんなが俺のことをそう呼ぶのだ。
 神威君神威神威さん。なんだか俺は名字が名前のようだね。そんなことを思って俺は笑う。
 そりゃ名字も名前の内だから間違ってはいないけどさ。下の名前が変な名前だから、みんな気にしてくれてるのかな。

 とっくにはずした名札に書かれた名前は、神威がくぽ。
 がくぽだってさ。そりゃ変だ。ぽってなんだよ。人名にあるまじき響き。
 すみませんもう一度言っていただけますかっていうのは日常茶飯事。まぁ聞き難いよね。難儀なもんだ。
 自分でもよくよく思いますよ。
 なんだこりゃ人間の名前じゃねえよって。

 なんなのか、きょうだいまでも俺のことを「がく兄」なんて呼ぶ。すると、そこだけ抜かれるとなんだか父さんとかぶってるよなぁなんて思いながら俺は返事する。
 それからなんだっけ。がっくんとか、がくだけだとか、みんな頑ななまでにぽって言わないのはもういっそ素晴らしい団結力だよなぁと俺はなんだか感動です。俺自身変だと自覚あるけれど、別に嫌いってわけではないんですけどね。だって自分の名前だし。もう十七年もつきあってきたこの三文字。そろそろなれてなきゃおかしい。

 答案用紙にも教科書にもジャージにも、何処にも書いてある俺の名前は、なんだか少し敬遠されているようだと思う。
 実際そんなことはないのだろうけれどさ。


「神威くん、聞いてないでしょ」

「うんごめん」


 俺は巡音さんには嘘は吐かない。だってどうせばれるから。
 曰く、俺の嘘はわかりやすいらしい、です。全く感服だ。

 素直に頷いて笑ってみせると、巡音さんはずいぶん不服そうに唇を尖らせた。リップクリームが薄く光るだけの真面目な桃色。その色彩に反するようにぽってりとしていて色っぽい。などと言ったらはったかれるかドン退きされるか。どっちも嫌だったので俺はますます口角を上げるにとどめた。
 窓の外はすっかり暗くなっていて、ガラスが電灯を反射してのっぺりしている。こりゃあ帰りは送っていかなきゃなぁなんて俺は役得気分で巡音さんに視線を戻した。
 そしてそれを迎え撃つは巡音さんの不機嫌ビーム。ごめんごめん。


「どう? どこまで書けた?」

「ん」


 藁半紙に突き立っていたシャーペンが投げ出されて、巡音さんの手元が開かれる。
 それをつまみ上げて電灯に照らす。薄い藁半紙は茶色くまだらに透けて、巡音さんのきれいな字が俺の瞳を薄く守った。
 つらつらと並んだ文字を逆から読んで、あからさまに敵意しか感じない文に苦笑した。机の上に藁半紙を戻す。白く戻った藁半紙はなんだか白々しい。


「巡音さん容赦ねぇな……」

「そうかしら?」

「キヨセン泣いちゃうぞこんなん出したら。もっとソフトにしてあげましょうよ」

「だって授業がつまらなかったのは本当だもの」

「んんんん」


 苦笑して、思わず唸ってしまうほどに明快かつ単純なお言葉。
 微妙に的を射ているので弁解はして上げられないので教諭が哀れだった。まぁ元は数学の教師だというのだから、古文なんて専門じゃねえんだよと愚痴りたい気持ちも分かる。だがなぜその免許を取った数学教師。
 むうと一つ唸って巡音さんは手元の藁半紙をにらみつける。まるで今にも念写をしますよと言った様相だった。けれど浮かんでいるのは『反省文用紙』の頑なな明朝体だけ。ほらはやく反省しなさいよと促すように罫線が浮かぶ。


「難しいのね、反省文って」

「読書感想文よか簡単だよ」

「私からしたらまだ感想文のが楽だわ。何を書けば褒められるか、分かり切ってるもの。
そこにきてこの反省文っていうのときたら、何書いたって褒められやしないんでしょ? 答えがない。奥深いわね」

「そんな事考えて反省文書くのなんて巡音さんくらいだろ」

「……そうかしら?」


 ぱたぱたと長いまつげがはためく。風圧とか出そうだ。何も盛っていないその長さは、やっぱり生真面目な優等生だった。
 言っては何だが、巡音さんは優等生だ。いつでも自席に座り静かに読書をしているような、いわゆる孤高の美人さんだ。まるで偽物みたいなその言葉になんだか笑ってしまう。
 そんな優等生の巡音さんが今回、何で反省文なぞという似合いもしないものと睨めっこしているのか。




 授業中でも休み時間でも、いつでもすっと伸びて柔く反ったその背筋と、何も手を加えていないだろうに頬に影を落とすような睫と、柔らかそうな小さな手と。とにかくきれいで、俺はなんだか目が離せなくて、じゃあとりあえず話しかけてみようかとフットワークの軽さが長所です。


『巡音さん巡音さん、なんか話しましょう』

『……何で敬語?』


 そんな感じのやりとりが巡音さんと俺との初めての会話だった。
 今考えても完璧すぎる声掛けであった。さすがの俺。

 最初はとにかく避けられた。照れているんだと思いこんで話しかけ続けた。
 その内に少しだけきちんと話してくれるようになった。案外ふつうの女の子だって分かった。
 それからちょっと突っ込んだことを話せるようになった。巡音さんの思想はちょっと変わっていたけれど、新鮮で楽しかった。
 やっとこさ携帯のアドレスを交換した。なんだかとても気恥ずかしい感じがした。友達とアドレスを交換するのとは訳が違う。

 そうしてその次の日、つまり今日、巡音さんは授業中に使用したとして、携帯電話を没収された。


「でも巡音さんも要領が悪いね。キヨセン一応そういうのは厳しいから、気をつけなきゃ駄目だよ」

「そんなこと考えて授業受けた事、無いもの」

「だろうねぇ」


 そうして俺は「何を書けばいいのか分からない」と(顔に出さずに)おろおろとする巡音さんに反省文の書き方講座を開くこととなったのだった。まぁなれてますしね。手慣れてますしね。
 予備に貰った用紙はこれで最後。こんなことなら下書きすれば良かったわねなんて巡音さんは言っている。


「巡音さん、なんか頑なに何やってたか書かないけど、何やってたの? 嘘でも何でもそれ書いときゃいいと思うんだけど」

「……嘘は駄目でしょ」

「向こうだって嘘だって分かってても気にしねぇって。高校教師なんて商売と一緒でしょ。うち進学校だし、向こうだって巡音さんみたいな優等生の成績、落としたくないと思うよ」

「優等生」俺の言葉をなぞるように巡音さんは呟く「優等生ね。そう、じゃあ、適当に書いておこうかな」

「小説読んでましたとか書けば大丈夫なんじゃない?」

「あぁ、それいいわね」


 頷いて藁半紙に向かう巡音さんを片目に携帯電話で現在時刻を確認しようとして、そういえば目の前の彼女か携帯を没収されていたのだと思い出して慌てて止める。壁に掛かった時計の針はぴしりと一直線になりかけていた。
 こつこつとシャーペンの芯が机をたたく音に眠気を誘われていると、不意にその音が止んだ。できた、というほとんど吐息のつぶやきが聞こえる。








「こんな時間までつきあわせて、ごめん」

「いや、俺は全然大丈夫だけど」日付が代わりでもしない限り心配なんてしないであろう家族を思いつつ、下駄箱からスニーカーをひっぱりだした「巡音さんこそ大丈夫なのか? だいぶ遅いけど」

「どうせ夜ご飯は外で食べる予定だったし、平気」


 巡音さんもそういうことするのか、という意味を込めてふうんと頷く。
 もう外はふつうに夜だ。昇降口のガラスは蛍光灯に照らされて、やっぱりのっぺりと広がっている。

 巡音さんの反省文は無事受理され、薄桃色の素っ気ない携帯電話と交換と相成った。


「神威くんごめん、ちょっとこれ持って」

「ん? はいはい」


 ローファーがうまく履けないのか、廊下に座り込んで格闘しだす巡音さんである。
 こういうところは本当に普通の可愛い子だ。
 手渡されたのは、まだ鞄にしまっていなかったらしい携帯電話。唯一の飾り気の、河合らしくデフォルメされた蛸のキーホルダーがかちゃりと鳴る。サブウィンドウには『メール』の文字。どうやら没収されたときからこの様子だったらしい。


「巡音さん、ケータイ、メールのままになってる」

「知ってる」

「電池大丈夫か?」

「さぁ。神威くん確認して」

「え」


 それはこの携帯電話を開いて、電池の表示を確かめろということか?


「それ以外に何? 私今手離せないから」

「え、え、え」


 それっていいのか。メール画面が見えちゃいますよ巡音さん。
 そんなことを聞きたいけれど、薄暗い中で俯く巡音さんからは「早くしろよ」とでもいうようなオーラが発されている。無言での訴えがやたら雄弁だ。
 戸惑いながらも二つ折りのそれを開き、出来る限りメールの内容を見ぬようにと電池の表示を確認する。ばりばりの安全圏だった。三つのままへってもいない。
 全然大丈夫、と声をかけようとして、気を抜いたのがいけなかった。思い切り画面を直視してしまう。素晴らしいまでにメールの編集確認画面だった。宛先も内容も書き込まれて、あとはもう送信ボタンを押すだけの状態。
 なんだかめまいがした。


「……」

「はい、ありがと」


 俺が絶句していると、どうやらやっとローファーを履き終えたらしい巡音さんが半ばひったくるようにしてその携帯を持っていった。かこかこと簡単に何か操作して、「電池大丈夫だったわね。良かった」なんて無表情を保っている。
 いやいやいやちょっと待って下さいと言おうとしたところで、俺の制服の尻ポケットに嫌な振動。そのわずかな音に気づいたらしい巡音さんが、


「見たら?」

「あ、うん……」


 言われるがままに携帯をとりだして、新着メールを知らせるウィンドウを展開する。




from:ルカ
subject:(無題)
  :今日一緒に帰りませんか?




「登録名、呼び捨て?」


 俺の手元をのぞき込んできた巡音さんがそう聞いてくる。灯りは下駄箱に遮られて、笑っているのか怒っているのか分かりゃしない。
 ぱかん、と乾いた音がする。白くて四角い明かりが張り付くように巡音さんの手の中に宿った。


「め、巡音さんだって、呼び捨てで登録してたくせに」

「そうね」


 かすかに見えるのは、『to』の隣を陣取る『がくぽ』の三文字。
 それがなんだかまぶしくて俺は少し目を細める。


「で、返信は?」

「女子高生じゃないんだから、男はそんなに早く返信できないの」





to:ルカ
subject:Re:
  :ついでに晩御飯も食べませんか





 ちょっとその文字を眺めてから、送信のボタンを選択。








**********


高校生と来たら夜遊びと携帯と反省文だろうと言う偏った何かを存分に発揮しました


人間パロはやってるけど、学生パロはやったことなかったなぁということで。
おそらく高二くらいのイメージで書いてました

もうなにがなんやら

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