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さむいですね!
そんなわけで俺設定の短編です
がくルカ!ぽルカ!
のわりにはルカさん出番少ないごめんなさい!
**********
「がくぽんがくぽんがくぽんがくぽんおいがくぽ起きろ」
「はい、はいはいはいはい」
「雪だぞコラ雪雪」
「……ゆきぃ?」
「雪ぃ」
「……はぁ」
「俺めーちゃんとこのアパートの雪かき手伝ってくるから、適当にしといて」
「……はぁ」
いつものマフラーの上にさらにストールを巻くという酩酊しているとしか言いようのない格好をした兄貴分は、ひんやりした手の感触だけ残して消えてしまった。
乱暴に下げられた毛布を口元まで引っ張り上げ、雪、とつぶやいてごろんと寝返りを打って窓のほうを伺う。カーテンの向こうから差し込む光は、確かにいつもより若干白みのつよいようにも思えた。
ネットに接続。乾いた眼球をこすりながら本日の天気を検索。
『20センチの積雪』
なにそれこわい。間抜けな思考がAIで固まった。
ゆきのはな
例の兄貴分が平気な顔をして部屋を出ていった理由は簡単だ。彼に外気温を感知しそれに感覚として対応する機能はない。がくぽはここぞとばかりにその機能が搭載された自分の端末を恨んだ。この機能に一体良いところが一つだってあろうか。暑さ寒さに負けてやる気が低迷するばかりだ。
毛布の中で縮こまりもう一度スリープに入ろうと試みるも、今度はエネルギー不足がそれを拒んだ。エネルギー消費を防ぐためのスリープモードに入るためにもエネルギーが要るだなんて矛盾以外になんと呼べばいいのか。ぎしぎしと各関節が軋むのも寒さの所為だろう。
「……さむ」
主人が何か朝食を用意しているのではと期待してみたが、閑散としたリビングが待っているのみだった。暖房が点けられていた様子もない。そういえば何かイベントがあるからと、昨日から泊まりで出かけていたのだったか。ほつれた髪を引っ張りながら思う。
兄も兄だ。自分のために暖房くらい点けておいてくれてもいいんじゃないか。そんな気遣いが出来るはずがないか。そもそもがくぽが外気温センサーを搭載していることを彼が知っているのかどうかすら定かではない。知らないのではないか説ががくぽのAIの中では有力だ。
「ん」
ダイニングテーブルにやかんがおいてあった。
持ち上げると、たぷんと揺れる水。中を覗いても入っているのは水。
いやこれをどうせよと
思わず首を傾げた。
湯を沸かせというのだろうか。やかんの用意くらい自力でできますが。
なんなんだあの人訳が分からん。
さわやかに駄目な笑みで「おにいちゃんだよ!」と裸マフラーを靡かせる初対面時の図が思い浮かんだ。シャット。思い出したくない。
やかんを鍋敷きの上に戻し、暖房を点ける。濁ったような音が静かな部屋に響いた。
ついでに棚から充電用の電気コードを取り出して、所定の位置にぶすっとさす。電気代を食うからと主人は直接充電は嫌がるが、本人がいないのだから知ったことではない。もう片方をコンセントに押し込んだ。
それからちょうど温風を吐き始めた暖房の前に移動して、床の上に寝ころぶ。暖かい。毛布も引っ張ってくれば良かっただろうか。
そんな事を考えていたら、もう一度スリープにはいれるだけの充電が出来た。
「神威がくぽ!」
「っはい!」
一瞬で青い、と認識したのは、ルカの瞳だった。
青い。いや、青と言うよりは空色に近い。まつげがふるえている。
まばたきを三回。部屋は随分暖まっていて、もう機能に問題もないようだった。床だけひんやりと冷たいのは、仕方がないことなのだろう。
気がついたら上体が持ち上がっていたのは、どうやら目の前の彼女の所為らしい。がくぽの服の襟刳りをつかみ上げ、ニア馬乗りのような形でこちらをのぞき込んでいる。長く作られた桃色のまつげがふるえるのが視認できてしまう程に、そちらとこちらは近かった。ふるふると小さな唇も落ち着かない。
どうしたのだろう。疑問が一つ落ちてくると、次々と瓦解するように落下してきた。
何故此処にいるのだろう。というかどうやって入ってきたのだろう。ちょくちょく入ってくるがそろそろ進入経路が知りたい。何故自分は襟首を捕まれているのだろう。というかなんでこんなに顔が近いのだろうか。
とりあえず総括して一言。
「……いま、何時だ?」
「午前九時半ですっ!」
ごんっ、と後頭部が床に打ち付けられたらしかった。とても痛い。
「全く、はた迷惑な!」
「すまない」
「そもそも床で寝ないでください! 倒れたのかと思って、……こしょうしてしまったのかと思って、」
「すまん」
「びっくりしたんだから、この……ボケナスっ」
敬語どっか行ってますよ。
「すまん」
さすがにそんなことはいえないので、その三文字に変えて吐き出した。
どうやらカイトに自分が家で一人と聞いて、心配に思って様子を見に来たらしかった。そこにべしゃりと崩れ落ちているがくぽを発見して、たいそう肝を冷やしてしまったらしかった。しかし一人を心配されるってどういう扱いなんだろうかと若干複雑に思う。子供型でもあるまいに。
やかんをそのまま火にかけ、コップを用意してインスタントコーヒーを放り込む。どこぞのマフラー男のように紅茶を淹れる気は起きなかった。
ルカはというと、ダイニングテーブルでうつむいて、時折こちらを恨めしくにらむばかり。
いやでも自分は悪いことしてないし、なんでそんな顔されなきゃいけないのだと理不尽を感じないでもない。なんだか眉間にしわを寄らせた彼女の顔ばかりみている気がして癪だ。笑って欲しい。
「……?」
「神威、聞いていますか! だから、今度から充電するときは、」
何だか変わった形態の思考が浮かび上がった気がする。
どうにも自分のAIは淡泊で、誰かのように親愛をばらまいたりはしないはずなのに。
「……ルカ」
「なんですか! っと、というか名前で呼ばないで下さい」
「巡音」
「だからなんですか」
「いや、」
ええと、と言葉を探す。どういうことだ。勝手に発言しないで欲しい。処理が終わらない。
なんでいま自分は彼女に呼びかけた。彼女の言葉を遮る必要はあったか。
思い当たらない。故障か。バグは見あたらない。彼女の眉がつり上がっているのを見たくなかった。それだけだ。
ふわと漂わせた視線が、ベランダの向こうに広がる銀世界をとらえた。
地上十階から見える街は、すべてがすべて白く染まっている。
「雪、綺麗だな」
「……私はその中を此処まで来たのですが」
「ん、んん」
「……――けれど、確かに。この高さから見ると壮観ですね」
街がお砂糖菓子みたいですね、とふわりと雪より柔らかに微笑む。
そうだ、それが見たかったのだと、がくぽもつられて微笑んだ。
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甘いのを目指しましたがなんだこれ
雪がつもりました
家族が本気でかまくら作っててちょっとびっくりしました
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