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人間パロ
未だにリンが出てきてなかったなーということで


無駄にぐだっとしてます
ポエムポエム!


**********



 その紙に目を落としたリンは苦い顔でうめいた。


「身長、伸びてる」

「当たり前だろ」


 これでも成長期なんだからな、と言ってその手から紙片――僕の身体測定のシート――を奪い取る。交換していたリンのシートには、申し訳程度にミリ単位で伸びたことを表す身長と、これまた申し訳程度に増えた体重とを示す文字が書かれていた。
 この様子じゃ本人お悩みの胸囲の成長はあまり期待できないだろう。
 そんな事を思っていると、すっかり不機嫌そうな顔になったリンにシートを奪い取られた。

 乱暴に引ったくった所為でしわが寄ったそれを丁寧に握って、リンは僕をにらみつける。


「なんなのよ、レンばっかり男の子に成っちゃってさ」

「はぁ?」


 もう、知らない。
 リンはそんな風なことをつぶやいた、のだと思う。
 その声は柔らかくて小さすぎて、僕の耳に届く前に掻き消えてしまった。





     いいこわるいこ





「へー、良かったねぇ、さっすが成長期。めざせがくぽ抜き」

「え、それ普通にカイトよりでかいぞ。っていうか俺よりでかいレンくんとか想像つかん」

「うん俺も言っててちょっと違和感感じた」


 うーん、そろそろ三兄弟説も苦しくなってきたのかなぁ。


 そんなことを言って、カイトさんは僕の背中をぱんぱんと軽くたたく。

 六限目が終わる一七分前に携帯電話に『一緒にアイス食べよう』というメールが舞い込んだ。無類のアイス好きのカイトさんと、それに付き合わされるがくぽさんという図で正しいのだろう。この二人と友人のような先輩後輩のような、よくわからないつきあいを持ってからというものの、よくそういった連絡を渡されるようになった。
「だってこんな大の男二人が、学生でもない二人が、二人っきりでアイスって、怪しいでしょ? その点レンくんが来てくれたらほーらただの仲良し三兄弟。俺長男がくぽ次男レンくん三男」「むさいことにはなんにも変わりないよなぁ?」「学校帰りの弟にアイスを奢ってあげる兄! 良い図だね全く」「おいじゃあ俺にもおごれよおにいちゃん」「うわ気持ち悪っ」「なにそれ酷い」
 これの送信者がミクさんやルカさん、そうでなくとも女の子ならなぁと思いながら僕はそれに是非と返信した。




「っていうかリンちゃんだっけ? お姉さん。まだ仲直りしてないの?」


 幸せそうな顔でイチゴケーキフレーバーを溶かし食っていたカイトさんが僕のチョコバナナフレーバーをちらちらやりつつ聞いてくる。おそらく狙われてるんだろうなぁと思いながら、ワッフルコーンを少し砕いてスプーン代わりにして差し出した。がくぽさんのように直接がぶりつかれたら、ちょっと堪らない。
 こともなげにそれを受け取ったカイトさんは「ありがとう」ともさもさやりだす。


「いや、っていうか、まぁ仲直りも何も、別にお互いひきずってませんし」

「あー、きょうだいってそういうとこ適当だからな。俺も妹と喧嘩してもうやむやにどっかいってた」

「あーはい、そんな感じです」

「ふーん」


 カイトさんはこともなげに流したけれど、僕としてはがくぽさんに妹がいたことに驚きを覚えた。二人ともどうにも実生活が掴めない人柄なのだ。霞を食って生きてますと言われたら信じてしまいそうと言ったら、おそらくカイトさんは「俺は音楽を食って生きてるんだよ」なんて言うのだろう。
 チョコナッツフレーバーをとっくに食べ終えたがくぽさんは手持ちぶさたにショーウィンドウの向こうの通りを見つめている。
 他の客は僕含むカラフルな頭髪の三人組にじゃっかん退いている感があった。僕の其れはぎりぎり天然で通せる――というか天然素材だ――けれど、がくぽさんとカイトさんの二人はそれでは効かない。未だに僕は一人やリンと二人で居るときとはまた違ったこのたぐいの視線に慣れないでいた。


「そーういえばメイコも、俺が身長抜かした時はなんか怒ってたなぁ」

「あー、なんかその図想像付く」

「いやぁ、でも当時は抜かしたっつっても一センチかそこらだったんだよ? まだ力とかはめー、イコの方が強かったのに、めっこめこにたたかれたからね!」

「……めーいこ?」

「……メイコって言った!」

「めーちゃんは卒業したんじゃなかったのかおい。レンくん聞いたか今の」

「ばっちり」

「うえぇえっレンくんまでそんな!」


 そんなくだらない会話をしながら、ふと窓の外に目をやると、見慣れた金色がこちらを見ていた。なんだか灰色に見える人混みで、ぽつんと色を発したその髪。
 手でも振ってやろうとする前にそれはふらりと方向を変えて、灰色に紛れ込んでいった。思わず拍子抜けして口を噤む。






「わけわかんねぇ」


「わけわかんない」








 ああ神様、どうやったらあのころの素直で優しくてでもちょっと生意気で私より小さかったレンが帰ってくるのでしょうか!

 そんな事を言ってもどうしようもないことくらい、私は誰よりも知っていた。
 レンは少しずつ私の知らない大人になっていくのだ。私がレンに教えない事があるように、レンも私に教えないことを作っていく。例えば可愛い雑貨店が駅前に出来たなんてレンに教えても別に一緒に行く訳じゃないし、signal-Rの新作のワンピがすごく可愛くて欲しくてしょうがないなんて話をレンとする訳じゃない。おいしいと評判のアイスクリーム屋さんがキャンペーン中だから行きたいって思ってても、だからそれは別にレンに言うような事ではない。
 いっつも一緒だった双子が、大きくなってもずっと一緒だなんてそんなことは本当は滅多に起こらない事象。
 特に私とレンなんて、男女だし趣味はどちらかというと正反対だしで、むしろ何で小さな頃いっつも一緒に居れたかが不思議なぐらい。

 そう、だからきちんと理解は出来ているつもり、だった。

 最近のレンの帰りが遅いことも知っていたし、時々声を枯らしていることも知っていた。
 何となくそういうことをしている、そういう人たちと仲良くなっているという噂も聞いていた。



「身長も抜かされるし、私はなんだか置いてきぼりだね」

「はあ?」


 私の鞄のストラップを握ったレンが顔をしかめる。
 ほらその顔だって可愛くない。ほんのちょっと前までのあどけない文学少年みたいだったのはどこへ行っちゃったんだか。こういうのが成長って言うんだ。私は知っていた。これでも現代文やらの成績はいい方だから。


「何訳わかんないこと言ってんの」

「……」

「っていうか身長身長って言うけどさ、当たり前だろ。リン、男の成長期舐めてない?」


 男だってさ。
 知ってるし分かってるつもりだったんだけど。

 私は相変わらず暗くなる前に家に帰り着いてなきゃ不安なのに、レンはそうじゃないらしい。
 なんだかね、それって姉として複雑なんですよ。

 庇護するべきだった弟だったのになぁ。




「……何で男の子ってこんなに簡単に男になっちゃうんだか」



 まだ私はパパとママの下で笑ういいこでありたい。
 だからその手をそっとほどいて、振り返らないようにして駅へと向かった。

 レンの声が追いかけてくることは無かった。









**********

微妙に消化不良
続きみたいなのを書くような書かないような

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