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和風パロで、ハロウィンねた

もういろいろ注意としか…



*********



「とりっくおぁ、とりーと」

「……」

「とりっくおあとりーと」






  trIck!









「ルカ、ルカ」


 低く落ち着いたその声に呼ばれ、ルカは足を止めた。
 心中にふわりと落ちてきた多幸感を噛みしめ、ゆっくりと振り返る。
 最近急に寒さが増したからと干していた布団が腕の中からこぼれかけたが、なんとか持ちこたえた。


「……若、ミク?」


 てっきり声の主だけだと思っていたルカは、そうして眉を軽く上げる。
 まるで子猫か何かのように脇の下から彼に持ち上げられているミクは、それでも珍しくおとなしくされるがままになっていた。


「ミク、もう一度」

「……とりっくおあ、とりぃと」


 ぽかんと開けられた口から飛び出た言葉は、つい先日彼女に戯れに教えたそれそのもの。
 少しばかり間抜けに発音されたそれを聞き、彼は涼しげな眉を軽く寄せていた。


「ルカ、これはどういう意味だ?」

「とりっくおあー、とりぃと」


 さらに間延びさせながらミクも首をかたぶける。
 あなたには教えたでしょうに、と思わすこぼれ落ちた笑いを止めることもせずに言うと、彼の不機嫌そうな眉間の皺は深まるばかりだった。





「はろうぃん」

「Halloween、です」

「……そうか」


 昔の話だ。
 ルカがまだこの屋敷に囲われておらず、髪も伸ばしておらず、父親の背中に甘えるのが好きだった頃、彼女の家には海の向こうから来たという家庭教師があった。

 美しいブロンドの髪に、今でだとてはばかられるような露出の大きいドレスを、さもそれが自らの正装だというように自信満々に翻らせていた彼女は、ルカに先進的な思想を教えたがった。海の向こうでは女性は家にはいるばかりではないのだとか、美しいなら女性がスーツを着ても良いに決まっているだとか、いつか英語は世界に共通の言語となるだろうからだとか、まだ十になるかならないかのルカには少しばかり荷の重い話題。顔を合わせる度にそんな話を押してきた彼女をルカは少し苦手に思っていたが、海の向こうの文化や生活に関してを聞くのは何よりも新鮮だった。
 この国にはない多くのまつりごとが海の向こうには存在する。逆も又然り。そしてそのうちの一つがハロウィン、つまり万聖節の前夜祭。





『アン、今日もきれいなおめしものね。それはその、前いっていたゆうめいなおみせのものなの?』

『いいえルカ、これはワタクシの手作りですのよ。ここらではサテン生地を手に入れるのも一苦労でしたが、中々によいモノが作れました。
ルカ、この服がなんだか分かりますか?』

『……わからないわ。真っ黒で、もふくのようですこし怖い』

『そう、でもすこし違いますわ。これは、魔女の仮装です』

『魔女? ラプンツェルやシンデレラに出てきた?』

『GREAT、よく覚えていましたね。
今日は万聖節の前夜祭です。日本で言うところの盂蘭盆絵のようなもので、世に死霊が溢れかえります』

『おばけ?!』

『ルカは恐がりですね……大丈夫、それらから身を守るために、人々も仮装をするのですよ
ほら、こちらにルカのぶんの仮装を用意しておきました。それから、とっときの呪文も教えてあげますよ』

『呪文? アン、なんだかほんとうの魔女みたいね』

『あら、いつまでも美しい女性は魔女と言うでしょう? 褒め言葉ですわね』





 そんなおぼろげな記憶を辿りながら、目の前でミクと舌足らずに発音を確認し合う彼をみる。正座をしたルカの膝の上を陣取ったミクは、本当に珍しいことに普段は敵視している彼をにらみつけることもなく、年相応に幼い様子で彼に応じていた。行事ごとに浮き足立っているのかもしれない。普段のつんけんとした態度とて、もう引っ込みが付かない意地の域であって、心の底からのものという訳ではないらしい。
 彼はといえば、顔にこそ出ていないがそれが嬉しくて仕方ないようだった。

 まるで親子のようだ。まるで家族のようだ。
 差し出がましいとしか言いようのない思いだが、想うだけならば誰にも咎められまい。

 自分の目の前で展開される愛おしくて仕様のない光景に、ルカは思わず顔を弛ませた。







「へー、なんか忌み名みたいで面白い行事だねぇ。ねぇ、若」


 かんらからと笑ってそう言うカイトを、彼は緩やかに睨みつける。凍てつくようなそれもしかし何のその、カイトはやはり朗らかに笑って狐の面を着けたミクの為に文机から貸し包みを取り出す。
 両手でそれを受け取ったミクは、おぼつかない手つきでそれを包む和紙を開いた。


「……わぁ」


 ぽろぽろとこぼれ落ちそうなほどに広がったのは、色とりどりの金平糖。
 まるで菓子とは思えないほどにかわいらしいそれに、面の向こうのミクの瞳が輝く。その様を慈愛顔で見つめるカイトだった。


「悪戯されたくなきゃお菓子をくれろ、ってか。いい恐喝の手本だね」

「……おまえはなぁ」

「ん?」


 まるで何と言うことこないように首を傾げる兄貴分に、もうあきれる器量も残っていない。
 終いには「おまえもほしいの? 全く若も餓鬼だな」などとほざきだしたのを放り出し、彼はミクを連れて座敷を出た。
 包みをしっかりと握りしめたミクは、おとなしく彼に引かれるままに歩いていく。
 廊下には殆ど冬と言って間違いない日差しが差し込み、すうと吹く風は冷たく澄んでいた。

 ルカは何を思ったのかあの後急に自室へと引っ込んでしまった。
 どうしたものかと思いながら彼は自分の人差し指を緩く握る小さな手を見やる。その表情は仮装代わりという狐面に隠れて見えない。

 不意にくんと指か引かれた。
 行き場もなく無為に歩を進めていた彼は住ぐに足を止める。自分の歩みを止めた主は、面をかたりと取り去って、迷い無い眼で彼を見上げていた。


「とりっくおあとりーと」

「……菓子はないぞ」

「知っている」

「……」



「だから、いたずらする」



 視界からその瞳が消えたかと思うと、ぎゅっ、と腰元に小さな手が回った。
 ほんのかすかに香る甘い香りは、金平糖のもの。
 みどりの髪がくしゃりと音を立てた。


「……」


 ぱさりと彼は自分の睫が羽ばたくのを聞いた。


「み、」

「いたずら」

「……」

「こうしたらお前様はうごけない」


 ぎゅうと細く細く柔らかな腕に力がこもり、彼を緩く緩く締め付ける。
 すぐにでもふりほどけるその腕。すぐにでも咎められるそのいたずら。



「……あら若、」

「ルカ」



 襖を開けて現れたルカは、ぱさりぱさりと瞬きをして彼を見、それからその腰元にくっつくミクを見た。
 すこし状況のつかめないような顔をして、しかしてすぐにそれは柔和な微笑みとなる。


「どうされたんですか?」

「……悪戯だそうだ」

「若、お菓子はお持ちではなかったのですね」


 ころころと笑うのを気まずく目をそらすと、ルカはうれしそうに自分の頭に両手をやった。
 いつもつけている髪留めがはずされ、その代わりにと言わんばかりに見覚えのない飾りが付いている。まるで動物の耳を模したような毛のそれは、


「狼女、ですかね」

「……」

「それでは若、trick or treat?」

「……」

「無いのなら、私もミクに倣って悪戯させていただきますね?」












「ねぇメイコ、あれは一体なんだろうな……」

「さぁ」

「とりあえず、とりっくおあとりーと」

「あんた仮装して無いじゃない」






**********

なんだこれとしか言いようがない

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