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上の続き



**********


 ああ憎らしい、憎らしい。
 あの美しいおぐしも切れ長の瞳も骨張った大きな手も、あのあねさまに素っ気なくする態度も流れるような所作も、みなみなひっくるめて憎らしい!





  lヰNe





 そう思いながら座布団を三つ重ねて縁側へ運んでいた。
 私用にとハクねえさまがしつらえてくださった萌葱色の座布団と、座敷用に幾つも用意された茄子色の座布団を二つ。
 縁側まで転げないように注意しながら駆け行き、板間の上にそれを置く。
 序でに、わたしとあねさまがお茶の用意をしている間、のんきに座ってらしたであろうそいつをにらんでやろうと視線を飛ばす。が、先ほどまで居たはずの位置にあの紫のお髪が見あたらない。

 あねさまがお茶に誘ってくださったというのに、一体全体どこへおゆきになったのかと視線を揺らしていると、それはすぐに見つかった。
 あねさまが丹誠込めて育てているばらの咲くすぐそば。
 素足を湿った土に汚し、瞬きさえも惜しいという様子でそれを見つめている。

 その様子はあまりにも、優雅で。
 わたしはこくりと息を飲み込んだ。

 不意に、その手が一輪咲き誇る赤い薔薇にのばされた。
 ゆったりとした、まるで流れる舞のごとき動きで、しかして一番手近だったからといわぬばかりに無造作に。すぐしたの首元から手折ろうとしている。棘のらんと輝く新緑に、いまにもふれんと細い指が曲がった。


「……なんだ」


 わたしは思わず縁側から飛び出し、その手を掴んでいた。
 一回りもふた回りも大きかろうその手が、わたしのてによって動きを止める。
 それを刹那眺めてから、そいつはゆるりとこちらをみた。


「あ」


 その手に棘が刺さるのを見ていられなかったなどといえるはずない。


「こ、」

「こ?」

「これは、あねさまのばらだ」

「ああ、ルカの薔薇だ」

「勝手に、取るな」

「ルカはそのくらいでは怒ったりせん」


 せいいっぱい吐き出したわたしの言葉は、ひくいひくいお声にすいこまれていったようだ。
 煮えたった怒りもしゅんと萎えゆくようで。

 残った怒りをかき集めてそいつをにらむと、そいつは丁度ばらの首をもいだところだった。
 案の定棘がひふを食い破り、ぷちぷちと音を立てている。しかしそいつはきにならないのか、平素と言った様子でちぎれた花をみやっていた。
 そしてしばらくくるくると指先を使って回したり、花を近付けてみたりしていたが、ふいにぐしゃりとそれを握りつぶす。

 は、と自分のいきが肺腑から飛び出るのが分かった。


「何を、」

「ん?」

「なんて事を!」


 あねさまが育てたばらを、もぐどころではなく、めちゃめちゃにしなさったのだ。
 ばらりばらりと彼の手の中で花弁が揺れている。

 わたしの半ば金切り声が響いたか、大きなお肩がびくりと震えた。
 それから瞬きを繰り返し、その手が私の頭の上までのばされる。

 ばさばさと軽いものがいくつも頭に当たり、赤が舞った。


 もう一度怒鳴ってやろうと私が息をすいこむと、




「若、ミク! そろいもそろってはだしで、何をなさっているのですか!」



 湯呑みと子皿の三つづつ載った盆を持ち、縁側に立ったあねさまがさきに怒鳴った。
 あねさまは優しいお人だけれど、きちんとしていないと容赦なくおこるのだ。
 むじょうけんでびくりとわたしとそいつの肩が跳ねる。

 


 




「全く、ミクどころか若まで……」

「すまなんだ」

「あねさま、ごめんなさい」


 濡れ手ぬぐいを受け取りながら、そう二人で頭を下げる。
 その様子を見ていたあねさまは大きく溜息を吐いて、ミクだってもうそんなやんちゃではいけませんよと言った。


「若も! あなたはお幾つですか!」

「すまない」


 さっきからそれしか言わないそいつを見てからわたしを見て、あねさまはこらえきれずと言うようにころころと笑い出した。
 その様子はやっぱりお美しい。


「まるでおひいさまですね、ミク」



 私の頭の上にのばされた白い指が、真っ赤なばらの花弁を摘んでみせる。
 そのあねさまの笑顔が、様子が酷くきれいで。あねさまのうしろでこっそりほほえむそいつもやっぱりきれいで。

 わたしはそのようすを目玉に焼き付けれるならしんでもいいと思っていた。







**********

原曲どこいったし


描いていて非常に楽しかった 後悔はしていない
ミク視点が楽しすぎてどうしようかしらでした


和風もいいよなぁ
またこの設定でなにか書くかもです

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