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人間パロディ
ルカとミク姉妹がひたすらいちゃいちゃいちゃいちゃするだけの小話
いや、百合ではないですよ
姉妹愛ですよ
**********
「ルカちゃん、ルカちゃん」
「なーに、ミクちゃん」
ふわり、ルカちゃんの髪が翻る。
ふざけて作られたお人形さんみたいな桃色の髪。きゅっとほそまった目は、今日は黒色。珍しくカラーコンタクトを入れてないのは、いつものようなゴシックドレスではないからだろう。
ルカちゃんは私の知る中で一番制服の似合わない十七歳だ。
髪の色も大人っぽいのも全部全部地味なブレザーとちぐはぐで、あみあみ。
自分のこと言えた義理かって言うと、私は案外似合うのです。これはちょっと自慢。
「スカートめくれ上がってるよ」
「やぁぁああ!」
デモソング
悲鳴を上げてしゃがみ込んでしまったルカちゃんは、慌てて身だしなみを整えてから下がった眉尻でぎゅっとこちらを睨みつけた。
あんまり人の目を引くから、駅のホームでしゃがんだりして欲しくないな、なんて思いながら私はそれを見下ろす。
「いつからっ?! いつからっ?!」
「んー結構前から?」
「な、なななな、なんで、なんでもっと早く言ってくれないの……」
「いや、ルカちゃんきちんとアンダーパンツ履いてるんだえらいなって思って」
「そこまで見えてたの?!」
見る見る内にルカちゃんの顔が真っ赤になって、涼やかな瞳がぐしゃりと湿る。
ぱくぱくと死にかけた金魚みたいに口を開いて閉じて繰り返し、それからルカちゃんはもごもごと何事か呻いて頭を抱えてしまった。そんなに気にすることかなとわたしは自分のスカートをつまみ上げる。下に履いてるならそんなにって思うのは私だけなのかな。ちらりとのぞくトレパンにやぁと挨拶。
スカートひらり見せつけるのよ、なんて戦法をする予定はないのです。
そんな事を思っている内にもルカちゃんはうるうると瞳を湿らせて、もう目尻が赤くなっている。泣き虫なところが全然直らないその様子は、もっともっと小さかった頃のルカちゃんとぴったりかぶった。
「ミクちゃん嫌いぃい……」
「……」ほほう、このお姉さまにそんな事を言っちゃうのか「へー? そっかぁ、ルカちゃんはお姉ちゃんのこと嫌いなんだぁ。お姉ちゃんはルカちゃんのこと大好きだけどなー。
それじゃあもう服の変えっことか、新作スイーツの食べ比べとか、出来ないねぇ」
強いて『お姉ちゃん』を強調すると、ぴくっと反応したルカちゃんが慌てて立ち上がって縋るようにこっちをみる。
わたしより大きい癖に、なんだか可笑しいね。
「そっ、そんなこと言わないで……」
「えー、だってルカちゃんわたしのこと嫌いなんでしょ? わたしは悲しいけど、ルカちゃんのいやがることはしたくないもん」
「あうぅ」ぐしゃ、と端正な顔を歪ませてルカちゃんはさらに呻く「ごめん、ごめんなさい。そんなこと言わないで、ミクちゃん大好きだからぁあ」
ドレスも着てない、化粧もナチュラル、ときた制服のルカちゃんは、もう殆ど素みたいなものだ。ぐすぐすと私のカーディガンの裾を引っ張り、いじらしくこちらを見つめてくる。
その姿はまるでチワワ。私よりも身長大きいけど。
あーもー家に帰ったら牛乳に相談だ!
頑張れ十八歳の成長ホルモン! 姉の威厳をとりもどすのです!
「ねぇミクちゃん、ルカを嫌いにならないでぇええ」
「あーわかってるわかってる冗談だってばわたしもルカちゃん大好きだよ! ほらぎゅー! ぎゅーしてあげるから、おねーちゃんのほーまんなおむねにおいで!」
「……みくちゃぁあああん」
「おふぅ」
ごりごり言ってます。胸骨におでこが当たってごりっごり言ってます。
ますます牛乳に相談しろと、そう言われてるんだろう。
あー人目が痛い。薄ら笑いでルカちゃんの形のいい後頭部をなでていると、背中側からびゅるびゅると風が渦巻いた。耳をひっかくような音は、ちょっと私の目指すところ。ぷしゅうと息を吐き出すように扉が開いて、幾つも空いたその口からわらわら人が溢れてくる。
「ほらルカちゃん、電車来たよ」
「……ん」
まだぎゅーが足りなかったのか私のカーディガンの袖を摘むルカちゃんを引き連れ、電車に乗り込む。いい具合に空いた端の席に大事なマイシスターを座らせ、わたしはその隣でばっちりガード。暗く成りだしたこの時間にしては珍しく人がまばらだ。まぁまばらでなくてもわたしとルカちゃんが乗り込むとすこしだけ空間が開くことが多いのだけれど。人徳って奴って事にしておこうか。痛んだ毛先を引っ張りながらそう思う。
がたんと揺れた電車は、ゆらゆらと景色をふっとばしながら私たちを家へ連れて行く。
隣ではルカちゃんがうつらうつらと頭を揺らしていた。落ちたまつげが鮮やかな夕日のオレンジに染まった頬に影を落とす。少し暖房の効きすぎた車内で、きっとその柔らかそうなほっぺたに触れたらじんわりと暖かいのだろう。というわけできゅっと痛くならない程度に摘んでみた。むうう、とルカちゃんが眉根を寄せる。
「なぁに?」
「眠いなら寝て良いよ。起こしてあげるから」
「……んー」
「肩よっかかってもいいから。そっち冷たいでしょ」
「んんん―」
「はいはい、大丈夫、わたしは授業中寝てたから眠くない」
冗談めかしてそういうと、ちょっと非難めいた、苦笑のような視線が飛んできて、それきりルカちゃんはこくりと頭を垂れた。
ちょっと肩が重い。私の方が小さいから、ルカちゃんの首もちょっとつらいだろう。肩を貸すなら、ルカちゃんより大きい方がいい。がくぽさんくらいなら、きっとちょうどいいんだろうな、なんて考えながら。
ひゅんひゅんと影が私の前を横切っていく。絵の具をたっぷり溶いたみたいに空気はオレンジ色に濁っている。歌いたいな、と思った。
家に帰り着いたら、出迎える人もいない冷たい空気が待っているんだろう。
ルカちゃんがいても、二人程度じゃあの冷たさは暖まらない。
誰かと居たいな。歌いたいな。
景色はひゅんひゅんとふっとんでいく。
ふくらはぎに当たる熱い空気がきになって、私は少しだけ足を浮かせた。
**********
ただのパンツの話にする予定が、どうしてこうなったの極み
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学生パロディです注意注意
がくルカです
大木の因みに脳内妄想ではセーラーと学ランです
タイトルがどうなっているかはもう勝負に近いです
**********
「巡音さん巡音さん」
「……」
「うわその嫌そうな顔止めて」
「神威くん」
巡音さんは俺のことをそう呼ぶ。
「何?」
と俺は返事する。
なんかみんなが俺のことをそう呼ぶのだ。
神威君神威神威さん。なんだか俺は名字が名前のようだね。そんなことを思って俺は笑う。
そりゃ名字も名前の内だから間違ってはいないけどさ。下の名前が変な名前だから、みんな気にしてくれてるのかな。
とっくにはずした名札に書かれた名前は、神威がくぽ。
がくぽだってさ。そりゃ変だ。ぽってなんだよ。人名にあるまじき響き。
すみませんもう一度言っていただけますかっていうのは日常茶飯事。まぁ聞き難いよね。難儀なもんだ。
自分でもよくよく思いますよ。
なんだこりゃ人間の名前じゃねえよって。
なんなのか、きょうだいまでも俺のことを「がく兄」なんて呼ぶ。すると、そこだけ抜かれるとなんだか父さんとかぶってるよなぁなんて思いながら俺は返事する。
それからなんだっけ。がっくんとか、がくだけだとか、みんな頑ななまでにぽって言わないのはもういっそ素晴らしい団結力だよなぁと俺はなんだか感動です。俺自身変だと自覚あるけれど、別に嫌いってわけではないんですけどね。だって自分の名前だし。もう十七年もつきあってきたこの三文字。そろそろなれてなきゃおかしい。
答案用紙にも教科書にもジャージにも、何処にも書いてある俺の名前は、なんだか少し敬遠されているようだと思う。
実際そんなことはないのだろうけれどさ。
「神威くん、聞いてないでしょ」
「うんごめん」
俺は巡音さんには嘘は吐かない。だってどうせばれるから。
曰く、俺の嘘はわかりやすいらしい、です。全く感服だ。
素直に頷いて笑ってみせると、巡音さんはずいぶん不服そうに唇を尖らせた。リップクリームが薄く光るだけの真面目な桃色。その色彩に反するようにぽってりとしていて色っぽい。などと言ったらはったかれるかドン退きされるか。どっちも嫌だったので俺はますます口角を上げるにとどめた。
窓の外はすっかり暗くなっていて、ガラスが電灯を反射してのっぺりしている。こりゃあ帰りは送っていかなきゃなぁなんて俺は役得気分で巡音さんに視線を戻した。
そしてそれを迎え撃つは巡音さんの不機嫌ビーム。ごめんごめん。
「どう? どこまで書けた?」
「ん」
藁半紙に突き立っていたシャーペンが投げ出されて、巡音さんの手元が開かれる。
それをつまみ上げて電灯に照らす。薄い藁半紙は茶色くまだらに透けて、巡音さんのきれいな字が俺の瞳を薄く守った。
つらつらと並んだ文字を逆から読んで、あからさまに敵意しか感じない文に苦笑した。机の上に藁半紙を戻す。白く戻った藁半紙はなんだか白々しい。
「巡音さん容赦ねぇな……」
「そうかしら?」
「キヨセン泣いちゃうぞこんなん出したら。もっとソフトにしてあげましょうよ」
「だって授業がつまらなかったのは本当だもの」
「んんんん」
苦笑して、思わず唸ってしまうほどに明快かつ単純なお言葉。
微妙に的を射ているので弁解はして上げられないので教諭が哀れだった。まぁ元は数学の教師だというのだから、古文なんて専門じゃねえんだよと愚痴りたい気持ちも分かる。だがなぜその免許を取った数学教師。
むうと一つ唸って巡音さんは手元の藁半紙をにらみつける。まるで今にも念写をしますよと言った様相だった。けれど浮かんでいるのは『反省文用紙』の頑なな明朝体だけ。ほらはやく反省しなさいよと促すように罫線が浮かぶ。
「難しいのね、反省文って」
「読書感想文よか簡単だよ」
「私からしたらまだ感想文のが楽だわ。何を書けば褒められるか、分かり切ってるもの。
そこにきてこの反省文っていうのときたら、何書いたって褒められやしないんでしょ? 答えがない。奥深いわね」
「そんな事考えて反省文書くのなんて巡音さんくらいだろ」
「……そうかしら?」
ぱたぱたと長いまつげがはためく。風圧とか出そうだ。何も盛っていないその長さは、やっぱり生真面目な優等生だった。
言っては何だが、巡音さんは優等生だ。いつでも自席に座り静かに読書をしているような、いわゆる孤高の美人さんだ。まるで偽物みたいなその言葉になんだか笑ってしまう。
そんな優等生の巡音さんが今回、何で反省文なぞという似合いもしないものと睨めっこしているのか。
授業中でも休み時間でも、いつでもすっと伸びて柔く反ったその背筋と、何も手を加えていないだろうに頬に影を落とすような睫と、柔らかそうな小さな手と。とにかくきれいで、俺はなんだか目が離せなくて、じゃあとりあえず話しかけてみようかとフットワークの軽さが長所です。
『巡音さん巡音さん、なんか話しましょう』
『……何で敬語?』
そんな感じのやりとりが巡音さんと俺との初めての会話だった。
今考えても完璧すぎる声掛けであった。さすがの俺。
最初はとにかく避けられた。照れているんだと思いこんで話しかけ続けた。
その内に少しだけきちんと話してくれるようになった。案外ふつうの女の子だって分かった。
それからちょっと突っ込んだことを話せるようになった。巡音さんの思想はちょっと変わっていたけれど、新鮮で楽しかった。
やっとこさ携帯のアドレスを交換した。なんだかとても気恥ずかしい感じがした。友達とアドレスを交換するのとは訳が違う。
そうしてその次の日、つまり今日、巡音さんは授業中に使用したとして、携帯電話を没収された。
「でも巡音さんも要領が悪いね。キヨセン一応そういうのは厳しいから、気をつけなきゃ駄目だよ」
「そんなこと考えて授業受けた事、無いもの」
「だろうねぇ」
そうして俺は「何を書けばいいのか分からない」と(顔に出さずに)おろおろとする巡音さんに反省文の書き方講座を開くこととなったのだった。まぁなれてますしね。手慣れてますしね。
予備に貰った用紙はこれで最後。こんなことなら下書きすれば良かったわねなんて巡音さんは言っている。
「巡音さん、なんか頑なに何やってたか書かないけど、何やってたの? 嘘でも何でもそれ書いときゃいいと思うんだけど」
「……嘘は駄目でしょ」
「向こうだって嘘だって分かってても気にしねぇって。高校教師なんて商売と一緒でしょ。うち進学校だし、向こうだって巡音さんみたいな優等生の成績、落としたくないと思うよ」
「優等生」俺の言葉をなぞるように巡音さんは呟く「優等生ね。そう、じゃあ、適当に書いておこうかな」
「小説読んでましたとか書けば大丈夫なんじゃない?」
「あぁ、それいいわね」
頷いて藁半紙に向かう巡音さんを片目に携帯電話で現在時刻を確認しようとして、そういえば目の前の彼女か携帯を没収されていたのだと思い出して慌てて止める。壁に掛かった時計の針はぴしりと一直線になりかけていた。
こつこつとシャーペンの芯が机をたたく音に眠気を誘われていると、不意にその音が止んだ。できた、というほとんど吐息のつぶやきが聞こえる。
「こんな時間までつきあわせて、ごめん」
「いや、俺は全然大丈夫だけど」日付が代わりでもしない限り心配なんてしないであろう家族を思いつつ、下駄箱からスニーカーをひっぱりだした「巡音さんこそ大丈夫なのか? だいぶ遅いけど」
「どうせ夜ご飯は外で食べる予定だったし、平気」
巡音さんもそういうことするのか、という意味を込めてふうんと頷く。
もう外はふつうに夜だ。昇降口のガラスは蛍光灯に照らされて、やっぱりのっぺりと広がっている。
巡音さんの反省文は無事受理され、薄桃色の素っ気ない携帯電話と交換と相成った。
「神威くんごめん、ちょっとこれ持って」
「ん? はいはい」
ローファーがうまく履けないのか、廊下に座り込んで格闘しだす巡音さんである。
こういうところは本当に普通の可愛い子だ。
手渡されたのは、まだ鞄にしまっていなかったらしい携帯電話。唯一の飾り気の、河合らしくデフォルメされた蛸のキーホルダーがかちゃりと鳴る。サブウィンドウには『メール』の文字。どうやら没収されたときからこの様子だったらしい。
「巡音さん、ケータイ、メールのままになってる」
「知ってる」
「電池大丈夫か?」
「さぁ。神威くん確認して」
「え」
それはこの携帯電話を開いて、電池の表示を確かめろということか?
「それ以外に何? 私今手離せないから」
「え、え、え」
それっていいのか。メール画面が見えちゃいますよ巡音さん。
そんなことを聞きたいけれど、薄暗い中で俯く巡音さんからは「早くしろよ」とでもいうようなオーラが発されている。無言での訴えがやたら雄弁だ。
戸惑いながらも二つ折りのそれを開き、出来る限りメールの内容を見ぬようにと電池の表示を確認する。ばりばりの安全圏だった。三つのままへってもいない。
全然大丈夫、と声をかけようとして、気を抜いたのがいけなかった。思い切り画面を直視してしまう。素晴らしいまでにメールの編集確認画面だった。宛先も内容も書き込まれて、あとはもう送信ボタンを押すだけの状態。
なんだかめまいがした。
「……」
「はい、ありがと」
俺が絶句していると、どうやらやっとローファーを履き終えたらしい巡音さんが半ばひったくるようにしてその携帯を持っていった。かこかこと簡単に何か操作して、「電池大丈夫だったわね。良かった」なんて無表情を保っている。
いやいやいやちょっと待って下さいと言おうとしたところで、俺の制服の尻ポケットに嫌な振動。そのわずかな音に気づいたらしい巡音さんが、
「見たら?」
「あ、うん……」
言われるがままに携帯をとりだして、新着メールを知らせるウィンドウを展開する。
from:ルカ
subject:(無題)
:今日一緒に帰りませんか?
「登録名、呼び捨て?」
俺の手元をのぞき込んできた巡音さんがそう聞いてくる。灯りは下駄箱に遮られて、笑っているのか怒っているのか分かりゃしない。
ぱかん、と乾いた音がする。白くて四角い明かりが張り付くように巡音さんの手の中に宿った。
「め、巡音さんだって、呼び捨てで登録してたくせに」
「そうね」
かすかに見えるのは、『to』の隣を陣取る『がくぽ』の三文字。
それがなんだかまぶしくて俺は少し目を細める。
「で、返信は?」
「女子高生じゃないんだから、男はそんなに早く返信できないの」
to:ルカ
subject:Re:
:ついでに晩御飯も食べませんか
ちょっとその文字を眺めてから、送信のボタンを選択。
**********
高校生と来たら夜遊びと携帯と反省文だろうと言う偏った何かを存分に発揮しました
人間パロはやってるけど、学生パロはやったことなかったなぁということで。
おそらく高二くらいのイメージで書いてました
もうなにがなんやら
和風パロで、ハロウィンねた
もういろいろ注意としか…
*********
「とりっくおぁ、とりーと」
「……」
「とりっくおあとりーと」
trIck!
「ルカ、ルカ」
低く落ち着いたその声に呼ばれ、ルカは足を止めた。
心中にふわりと落ちてきた多幸感を噛みしめ、ゆっくりと振り返る。
最近急に寒さが増したからと干していた布団が腕の中からこぼれかけたが、なんとか持ちこたえた。
「……若、ミク?」
てっきり声の主だけだと思っていたルカは、そうして眉を軽く上げる。
まるで子猫か何かのように脇の下から彼に持ち上げられているミクは、それでも珍しくおとなしくされるがままになっていた。
「ミク、もう一度」
「……とりっくおあ、とりぃと」
ぽかんと開けられた口から飛び出た言葉は、つい先日彼女に戯れに教えたそれそのもの。
少しばかり間抜けに発音されたそれを聞き、彼は涼しげな眉を軽く寄せていた。
「ルカ、これはどういう意味だ?」
「とりっくおあー、とりぃと」
さらに間延びさせながらミクも首をかたぶける。
あなたには教えたでしょうに、と思わすこぼれ落ちた笑いを止めることもせずに言うと、彼の不機嫌そうな眉間の皺は深まるばかりだった。
「はろうぃん」
「Halloween、です」
「……そうか」
昔の話だ。
ルカがまだこの屋敷に囲われておらず、髪も伸ばしておらず、父親の背中に甘えるのが好きだった頃、彼女の家には海の向こうから来たという家庭教師があった。
美しいブロンドの髪に、今でだとてはばかられるような露出の大きいドレスを、さもそれが自らの正装だというように自信満々に翻らせていた彼女は、ルカに先進的な思想を教えたがった。海の向こうでは女性は家にはいるばかりではないのだとか、美しいなら女性がスーツを着ても良いに決まっているだとか、いつか英語は世界に共通の言語となるだろうからだとか、まだ十になるかならないかのルカには少しばかり荷の重い話題。顔を合わせる度にそんな話を押してきた彼女をルカは少し苦手に思っていたが、海の向こうの文化や生活に関してを聞くのは何よりも新鮮だった。
この国にはない多くのまつりごとが海の向こうには存在する。逆も又然り。そしてそのうちの一つがハロウィン、つまり万聖節の前夜祭。
『アン、今日もきれいなおめしものね。それはその、前いっていたゆうめいなおみせのものなの?』
『いいえルカ、これはワタクシの手作りですのよ。ここらではサテン生地を手に入れるのも一苦労でしたが、中々によいモノが作れました。
ルカ、この服がなんだか分かりますか?』
『……わからないわ。真っ黒で、もふくのようですこし怖い』
『そう、でもすこし違いますわ。これは、魔女の仮装です』
『魔女? ラプンツェルやシンデレラに出てきた?』
『GREAT、よく覚えていましたね。
今日は万聖節の前夜祭です。日本で言うところの盂蘭盆絵のようなもので、世に死霊が溢れかえります』
『おばけ?!』
『ルカは恐がりですね……大丈夫、それらから身を守るために、人々も仮装をするのですよ
ほら、こちらにルカのぶんの仮装を用意しておきました。それから、とっときの呪文も教えてあげますよ』
『呪文? アン、なんだかほんとうの魔女みたいね』
『あら、いつまでも美しい女性は魔女と言うでしょう? 褒め言葉ですわね』
そんなおぼろげな記憶を辿りながら、目の前でミクと舌足らずに発音を確認し合う彼をみる。正座をしたルカの膝の上を陣取ったミクは、本当に珍しいことに普段は敵視している彼をにらみつけることもなく、年相応に幼い様子で彼に応じていた。行事ごとに浮き足立っているのかもしれない。普段のつんけんとした態度とて、もう引っ込みが付かない意地の域であって、心の底からのものという訳ではないらしい。
彼はといえば、顔にこそ出ていないがそれが嬉しくて仕方ないようだった。
まるで親子のようだ。まるで家族のようだ。
差し出がましいとしか言いようのない思いだが、想うだけならば誰にも咎められまい。
自分の目の前で展開される愛おしくて仕様のない光景に、ルカは思わず顔を弛ませた。
「へー、なんか忌み名みたいで面白い行事だねぇ。ねぇ、若」
かんらからと笑ってそう言うカイトを、彼は緩やかに睨みつける。凍てつくようなそれもしかし何のその、カイトはやはり朗らかに笑って狐の面を着けたミクの為に文机から貸し包みを取り出す。
両手でそれを受け取ったミクは、おぼつかない手つきでそれを包む和紙を開いた。
「……わぁ」
ぽろぽろとこぼれ落ちそうなほどに広がったのは、色とりどりの金平糖。
まるで菓子とは思えないほどにかわいらしいそれに、面の向こうのミクの瞳が輝く。その様を慈愛顔で見つめるカイトだった。
「悪戯されたくなきゃお菓子をくれろ、ってか。いい恐喝の手本だね」
「……おまえはなぁ」
「ん?」
まるで何と言うことこないように首を傾げる兄貴分に、もうあきれる器量も残っていない。
終いには「おまえもほしいの? 全く若も餓鬼だな」などとほざきだしたのを放り出し、彼はミクを連れて座敷を出た。
包みをしっかりと握りしめたミクは、おとなしく彼に引かれるままに歩いていく。
廊下には殆ど冬と言って間違いない日差しが差し込み、すうと吹く風は冷たく澄んでいた。
ルカは何を思ったのかあの後急に自室へと引っ込んでしまった。
どうしたものかと思いながら彼は自分の人差し指を緩く握る小さな手を見やる。その表情は仮装代わりという狐面に隠れて見えない。
不意にくんと指か引かれた。
行き場もなく無為に歩を進めていた彼は住ぐに足を止める。自分の歩みを止めた主は、面をかたりと取り去って、迷い無い眼で彼を見上げていた。
「とりっくおあとりーと」
「……菓子はないぞ」
「知っている」
「……」
「だから、いたずらする」
視界からその瞳が消えたかと思うと、ぎゅっ、と腰元に小さな手が回った。
ほんのかすかに香る甘い香りは、金平糖のもの。
みどりの髪がくしゃりと音を立てた。
「……」
ぱさりと彼は自分の睫が羽ばたくのを聞いた。
「み、」
「いたずら」
「……」
「こうしたらお前様はうごけない」
ぎゅうと細く細く柔らかな腕に力がこもり、彼を緩く緩く締め付ける。
すぐにでもふりほどけるその腕。すぐにでも咎められるそのいたずら。
「……あら若、」
「ルカ」
襖を開けて現れたルカは、ぱさりぱさりと瞬きをして彼を見、それからその腰元にくっつくミクを見た。
すこし状況のつかめないような顔をして、しかしてすぐにそれは柔和な微笑みとなる。
「どうされたんですか?」
「……悪戯だそうだ」
「若、お菓子はお持ちではなかったのですね」
ころころと笑うのを気まずく目をそらすと、ルカはうれしそうに自分の頭に両手をやった。
いつもつけている髪留めがはずされ、その代わりにと言わんばかりに見覚えのない飾りが付いている。まるで動物の耳を模したような毛のそれは、
「狼女、ですかね」
「……」
「それでは若、trick or treat?」
「……」
「無いのなら、私もミクに倣って悪戯させていただきますね?」
「ねぇメイコ、あれは一体なんだろうな……」
「さぁ」
「とりあえず、とりっくおあとりーと」
「あんた仮装して無いじゃない」
**********
なんだこれとしか言いようがない
人間パロ
未だにリンが出てきてなかったなーということで
無駄にぐだっとしてます
ポエムポエム!
**********
その紙に目を落としたリンは苦い顔でうめいた。
「身長、伸びてる」
「当たり前だろ」
これでも成長期なんだからな、と言ってその手から紙片――僕の身体測定のシート――を奪い取る。交換していたリンのシートには、申し訳程度にミリ単位で伸びたことを表す身長と、これまた申し訳程度に増えた体重とを示す文字が書かれていた。
この様子じゃ本人お悩みの胸囲の成長はあまり期待できないだろう。
そんな事を思っていると、すっかり不機嫌そうな顔になったリンにシートを奪い取られた。
乱暴に引ったくった所為でしわが寄ったそれを丁寧に握って、リンは僕をにらみつける。
「なんなのよ、レンばっかり男の子に成っちゃってさ」
「はぁ?」
もう、知らない。
リンはそんな風なことをつぶやいた、のだと思う。
その声は柔らかくて小さすぎて、僕の耳に届く前に掻き消えてしまった。
いいこわるいこ
「へー、良かったねぇ、さっすが成長期。めざせがくぽ抜き」
「え、それ普通にカイトよりでかいぞ。っていうか俺よりでかいレンくんとか想像つかん」
「うん俺も言っててちょっと違和感感じた」
うーん、そろそろ三兄弟説も苦しくなってきたのかなぁ。
そんなことを言って、カイトさんは僕の背中をぱんぱんと軽くたたく。
六限目が終わる一七分前に携帯電話に『一緒にアイス食べよう』というメールが舞い込んだ。無類のアイス好きのカイトさんと、それに付き合わされるがくぽさんという図で正しいのだろう。この二人と友人のような先輩後輩のような、よくわからないつきあいを持ってからというものの、よくそういった連絡を渡されるようになった。
「だってこんな大の男二人が、学生でもない二人が、二人っきりでアイスって、怪しいでしょ? その点レンくんが来てくれたらほーらただの仲良し三兄弟。俺長男がくぽ次男レンくん三男」「むさいことにはなんにも変わりないよなぁ?」「学校帰りの弟にアイスを奢ってあげる兄! 良い図だね全く」「おいじゃあ俺にもおごれよおにいちゃん」「うわ気持ち悪っ」「なにそれ酷い」
これの送信者がミクさんやルカさん、そうでなくとも女の子ならなぁと思いながら僕はそれに是非と返信した。
「っていうかリンちゃんだっけ? お姉さん。まだ仲直りしてないの?」
幸せそうな顔でイチゴケーキフレーバーを溶かし食っていたカイトさんが僕のチョコバナナフレーバーをちらちらやりつつ聞いてくる。おそらく狙われてるんだろうなぁと思いながら、ワッフルコーンを少し砕いてスプーン代わりにして差し出した。がくぽさんのように直接がぶりつかれたら、ちょっと堪らない。
こともなげにそれを受け取ったカイトさんは「ありがとう」ともさもさやりだす。
「いや、っていうか、まぁ仲直りも何も、別にお互いひきずってませんし」
「あー、きょうだいってそういうとこ適当だからな。俺も妹と喧嘩してもうやむやにどっかいってた」
「あーはい、そんな感じです」
「ふーん」
カイトさんはこともなげに流したけれど、僕としてはがくぽさんに妹がいたことに驚きを覚えた。二人ともどうにも実生活が掴めない人柄なのだ。霞を食って生きてますと言われたら信じてしまいそうと言ったら、おそらくカイトさんは「俺は音楽を食って生きてるんだよ」なんて言うのだろう。
チョコナッツフレーバーをとっくに食べ終えたがくぽさんは手持ちぶさたにショーウィンドウの向こうの通りを見つめている。
他の客は僕含むカラフルな頭髪の三人組にじゃっかん退いている感があった。僕の其れはぎりぎり天然で通せる――というか天然素材だ――けれど、がくぽさんとカイトさんの二人はそれでは効かない。未だに僕は一人やリンと二人で居るときとはまた違ったこのたぐいの視線に慣れないでいた。
「そーういえばメイコも、俺が身長抜かした時はなんか怒ってたなぁ」
「あー、なんかその図想像付く」
「いやぁ、でも当時は抜かしたっつっても一センチかそこらだったんだよ? まだ力とかはめー、イコの方が強かったのに、めっこめこにたたかれたからね!」
「……めーいこ?」
「……メイコって言った!」
「めーちゃんは卒業したんじゃなかったのかおい。レンくん聞いたか今の」
「ばっちり」
「うえぇえっレンくんまでそんな!」
そんなくだらない会話をしながら、ふと窓の外に目をやると、見慣れた金色がこちらを見ていた。なんだか灰色に見える人混みで、ぽつんと色を発したその髪。
手でも振ってやろうとする前にそれはふらりと方向を変えて、灰色に紛れ込んでいった。思わず拍子抜けして口を噤む。
「わけわかんねぇ」
「わけわかんない」
ああ神様、どうやったらあのころの素直で優しくてでもちょっと生意気で私より小さかったレンが帰ってくるのでしょうか!
そんな事を言ってもどうしようもないことくらい、私は誰よりも知っていた。
レンは少しずつ私の知らない大人になっていくのだ。私がレンに教えない事があるように、レンも私に教えないことを作っていく。例えば可愛い雑貨店が駅前に出来たなんてレンに教えても別に一緒に行く訳じゃないし、signal-Rの新作のワンピがすごく可愛くて欲しくてしょうがないなんて話をレンとする訳じゃない。おいしいと評判のアイスクリーム屋さんがキャンペーン中だから行きたいって思ってても、だからそれは別にレンに言うような事ではない。
いっつも一緒だった双子が、大きくなってもずっと一緒だなんてそんなことは本当は滅多に起こらない事象。
特に私とレンなんて、男女だし趣味はどちらかというと正反対だしで、むしろ何で小さな頃いっつも一緒に居れたかが不思議なぐらい。
そう、だからきちんと理解は出来ているつもり、だった。
最近のレンの帰りが遅いことも知っていたし、時々声を枯らしていることも知っていた。
何となくそういうことをしている、そういう人たちと仲良くなっているという噂も聞いていた。
「身長も抜かされるし、私はなんだか置いてきぼりだね」
「はあ?」
私の鞄のストラップを握ったレンが顔をしかめる。
ほらその顔だって可愛くない。ほんのちょっと前までのあどけない文学少年みたいだったのはどこへ行っちゃったんだか。こういうのが成長って言うんだ。私は知っていた。これでも現代文やらの成績はいい方だから。
「何訳わかんないこと言ってんの」
「……」
「っていうか身長身長って言うけどさ、当たり前だろ。リン、男の成長期舐めてない?」
男だってさ。
知ってるし分かってるつもりだったんだけど。
私は相変わらず暗くなる前に家に帰り着いてなきゃ不安なのに、レンはそうじゃないらしい。
なんだかね、それって姉として複雑なんですよ。
庇護するべきだった弟だったのになぁ。
「……何で男の子ってこんなに簡単に男になっちゃうんだか」
まだ私はパパとママの下で笑ういいこでありたい。
だからその手をそっとほどいて、振り返らないようにして駅へと向かった。
レンの声が追いかけてくることは無かった。
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微妙に消化不良
続きみたいなのを書くような書かないような
小話
ルカとミク 現代パロ
いろいろとただれてるので、注意注意
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どんなに辛くても私たちは泣かないし、暴れないし、弱音は吐かないし、正しく笑ったままで居る。
善良で、健全で何一つ間違ったことはしていない。
だから、それなのに。
なんだか頭の奥がぼんやりと重いのは、合成樹脂が染み込んでいるからだ。
プラスティック人間の行く末とその頭部
「結局死ぬしか解決法はないのよ」
ルカはそんな風に言う。
冷たくてぼんやりとした瞳とざらつきのない偽物みたいな白い肌。艶やかな髪は腰まで伸びていて、神様が手ずから作り上げたような肢体を持つ彼女は、だから美しかった。こんな一都市の高校に埋もれているのがひどく不自然なくらいに。
しかし私は知っている。
彼女がこんな場所で埋もれている理由を。
そうでなければ彼女は私なんて触れられもしない世界へ選ばれていって当然なのだ。それなのにそうならないのは、すべて彼女のその性格が理由。
ひどく鋭利で何者も受け入れようとしないその思考。
「そうすればみんな解決する。憎たらしいことにそういうことになってる。そうでしょ? ミク」
「私には、」
そんなルカと対峙する私は、唯一彼女に対抗しうると思っている自分の声を耳朶に含ませながら、言う。
ゆるんだように作る笑顔。重力への抵抗をあきらめたような笑顔。どこかの誰かの笑顔をペーストしてきたようなそれを、ルカは鬱陶しそうに見やった。そんな表情をするために生まれてきたのだとでも言うようだね。
「よく、わからないや」
思考放棄。
それがこの場で一等全うなソート。
死や命なんて物を深く考える意味はない。そういった思考はそれだけで乱す。何を? 無心を。
健康でまっとうな思考を私たちは続けなくてはならない。
それなのにルカときたら、なんだ。
「……帰る」
「うん、じゃあ一緒に帰ろうか。もうすぐ暗くなるし、一人で帰ると危ないよ」
「いらない」
すぱりと言われた言葉に、思わずまなじりが垂れる。
あんたなんかいらない。そうやってルカは世界を切り離して捨てていく。そうしていつか自分だけのかけらになってぱっと消えてしまいたいのだろう。
けれど私は捨てられないし、ほんとの事を言うとルカは一つだって世界を切り捨てられていない。だからルカは消えないし、私に向かって冷たく言い放つ。
リノリウムはオレンジ色を乗せている。
窓の外を悠々カラスが飛んでいった。
あぁ、今日も良い日だった。
当てられた数学の問題は昨日予習した箇所だったし、休み時間にカイト君からお菓子を分けてもらえた。行きの電車も思ったより混んでいなかったし、いつも見かける中の良さそうな二人組も元気そうだった。いつもの通りグミを居眠りから起こすとお礼を言ってくれたし、お弁当には好きなおかずがあった。部活でもがくぽ先輩からほめてもらえたし、その放課後はルカとおしゃべりが出来た。そういえば今日はいとこの姉妹が遊びに来るって母さん言ってた。
あぁなんてすばらしき毎日。そんな風に思わなくては成らない。
それが私たちの生きていく上での義務で、そうでなければいけないのだ。
ルカはそれがちっとも分かっていない。
彼女は窓から見下ろした景色を美しいと思うことすら罪悪だと思うのかもしれないね。
「……ねーえルカちゃん」
「何」
まだ居たの、と私から一切視線を動かしていなかったくせにルカはそう言う。
いたよ、と笑うとやっぱり顔を歪めた。
「屋上行ってさ、飛んできなよ」
「……は?」
「きっといい眺めだよ。私ね、ルカちゃんにきれいな景色、見て貰いたいんだ」
これはまっとうなしこう。
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『プラスチック人間の埋められた頭』 とか聞きながら
けだるげなあの雰囲気が好きです
けどこれはもう何がなんだか
AIさんからリクエストをいただいた、人間パロディのぽルカです
やっぱり字面酷い
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「やっほルカさま。来たよー」
「……やっほ」
ルカの青い瞳を、赤いプラスチックが縁取っていた。
思わずその赤を目でなぞってから、がくぽはかくりと首を傾げる。
「ルカさま、眼鏡なんてしてたっけ?」
「伊達」
ああすばらしきかなこの、
『ルカちゃんが他のバンドのヘルプ要員に行くことになったんだけどさぁ、心配だからがくぽさん着いてってあげてくれない?』
電話口から聞こえたその言葉に、がくぽは一も二もなく「いくいくー」と返事してからふと言葉を止めた。
「ミクちゃんはいかないのか?」
『あー私その日友達とデートぉ』
「へぇ」ミクのにやっと笑う様子が頭に浮かぶ「いいなぁJKとデート」
『えへへ、JKの特権ですう』
その言葉を聞きながら、君みたいなJKって居るかいという言葉を飲み込んだ。おれみたいな男だってそうはいないけどさ。そんな風に思いながら電話の向こうの彼女の、体に悪そうな緑の頭髪を思い出す。それから彼女の妹の艶やかな桃色の髪を。
姉妹ガールズバンド『ネギトロ』とはよくよく交流があった。活動範囲が殆ど被っていたのがその一要因だ。
機械音みたいにきれいなボーカルと、がなるような楽器の音が珍しく、印象に残っていた。
それからいつの間にかカイトとミクが仲良くなっていて、それにつられるように余った二人で固まることが何となく多くなったのだ。
『ルカちゃんさぁ、あれでめっちゃおっちょこちょいだから、誰か着いててあげないとほんと駄目なんだって。あたしがついてってあげればそれでいいんだけどさぁ』
「おっちょこちょい……そんな風には見えないけどな」
『がくぽさんは知らないだけだよう! ルカちゃんの本性知ったらびっくりするよ!』
「ふうん?」
本性。
んな大げさなとそのときのがくぽは笑ったのだ。
彼女の姉とのそんな会話を思いだしながら、向かいの席に座る。
待ち合わせに指定された喫茶店は彼女らしい落ち着いた雰囲気だった。桃色の髪が木目に浮いて、なんだか笑ってしまうが、自分も人のことはいえないので口を噤む。いつも通りにゴシック調の、しかし比較的カジュアルなワンピースの彼女に、合わせるつもりで若干ゴシックを気取ってみた自分(ビジュアル系もどきにしかならなかったのが残念でしょうがない)さぞかしこの二人組は浮いていることだろう。
そんな浮いた二人組に物怖じすることなくメニューを聞きに来る、サイドテールを揺らした店員に「アイスコーヒーお願いします」と告げてがくぽはルカに向き直った。
ルカは手元の楽譜に瞳を落としていたが、そこまで真剣な様子でもなかったので声をかける。
「まだ行かなくて大丈夫なのか?」
「……開始、七時なの。早めにいって併せはしたいから、六時には向かうけど、まだ余裕はあるわよ」
「七時開始」
かくんと自分の首が傾くのをがくぽは感じる。
ルカに指定されたのは四時半だ。それの五分前と思ってこの席に向かったのだが。
「お、俺今日ベース持ってないぞ?」
路上セッションでもしたいのか、と恐る恐る聞くと、ルカは大きな瞳をぱちくりと瞬かせた。そんな言葉は予想だにしなかったというようなその様子に、がくぽまで困惑してしまう。口を半開きにして言葉にならない何かを小声で洩らした。
「あ、い、いや。時間余るだろ?」
「余らないわよ」
「え?」
まず今からこの店を出るでしょう? とルカが細い指を折った。
流れるようにキーボードをたたくその指の先にはパールブルーのマニキュアが塗ってある。
彼女の姉に少しだけ似た、機械の合成音声のような声。人のものとはちょっと思えないくらいにきれいな声を、がくぽは気に入っていた。ルカさまも歌えばいいのにね。女王様のように毅然とステージに立つ様子からつけられたあだ名で、内心につぶやく。
「そしたら箱に向かうでしょう? 今日はミクちゃんが連れて行ってはくれないから、一時間はかかるわよ?」
「え」ちょっと待て今からいくライブハウスは「こっからなら、徒歩十分」
「それからちゃんと晩御飯は食べましょうね。奢るわよ」
「あ、いや、悪いって。年下に出させるわけにはいかんだろってか待って、ルカさま!」
思わずルカの肩をつかむ。いつもじゃれ合ってるカイトやキヨテルその他男どもとは段違いの感触に一瞬思考が飛んだ。細い。骨ばっかりじゃないのかこれ。なのに柔らかい。力を込めたら砂糖菓子か何かのように溶けてしまいそうだ。
ちゃんと食ってるのかとそっち方面に心配を抱きながら、はっと我に返ってルカに向き直る。ルカは肩を跳ね上げた形のまま世界のすべての時間が止まってしまったかのように静止していた。
幸い今日行くと聞かされたライブハウスはなじみの場所だ。
「俺に着いてこい」
「……」
これがミクの言っていた"本性"か。
おっちょこちょいというかなんというか、それを見越してしまっているから手に負えない。
がくぽの言葉を聞いた瞬間、大きく目を見開いたルカは、それからあわててうつむきこくこくと頷いた。
「じゃあ、良い頃合いになったら行くとして、……時間が余るな。ルカさま、どっか行きたい場所とかあるか?」
「……ルカ」
「あ?」
「ルカって呼んで」
ルカはうつむいたままでそう言う。
三度傾けられたがくぽの首の骨がばきりと気泡を吐き出した。
「……ルカ?」
「っわ、わんもあ」
「ルカ? ルカ、呼び捨てていいのか?」
こくこくこく、首がこわれんばかりに頷いてみせる。
ふうんとがくぽは思った。やっぱりまだ十七歳だもんなぁ、年相応なところあるよな。うつむく様子が酷く可愛らしく思えて、微笑んでしまう。
「んじゃルカ、とりあえず出るか。その辺適当にぶらぶらしよう」
「っうん」
「デートだな、デート。どこ行く?」
茶化して言って、ふと気づく。おお、これはまさしくJKとデートだ。
彼女が立ち上がると、桃色の髪がそれにつられてふわりと浮かぶ。三つ編みにして胸に垂らした自分の紫の髪がふと視界に入った。
店の中にいる他の客は、こちらが見ると目をそらす。そんなのは、この髪が黒かったときから変わらない。
「がくぽ、わたし、行ってみたかったお店があるんだけど」
「お、じゃあそこ行くか。何て名前の店だ? ググって地図出す」
(ああすばらしきかなこの、くっだらないせかい!)
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人間パロのぽルカはほのぼの担当です
シリアスに思い悩んだりするのはミクとかがやってくれるよ!
何か力つきた感が酷いですが、こんなものでよろしければAIさんお持ち帰り下さいませ
また、リクエスト企画はまだ続行中なので、大木に「こんなん書けよ」みたいなのありましたらどうぞメールフォームか企画記事のコメント欄へどうぞ
トエトかわいいよトエト というぽルカ
ぽルカ!
もう最近ぽルカが好きすぎて一体私は何処へ行くんでしょうか
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「えっと、えっとあのえっとえと」
「はい。どうしましたか、ルカさん」
「えっと、あの」
ぎゅっと帽子を握りしめ、俯く様子は愛らしい。
何か用だろうか、トイレか? いや、さすがに彼女はそんな歳ではないものな、と神威は様々なことを思いながらその言葉の続きを待つ。
「あの、えっと、えと」
「ん?」
「か、かむいせんせー」
「はい、神威先生です」
「っき、きらい!」
「え」
素直にならないあのこに付き合うにあたって
「え、え、え、……えぇえ?」
突然の拒絶宣言に神威が思わず愕然としていると、言った方の彼女も驚いたのか、うつむいていた顔を跳ね上げ、「あっ」と小さく悲鳴を上げた。小柄なルカと視線を合わせるためにしゃがみ込んだ体勢のまま呆然としている神威を見て、顔を高揚させぱくぱくと口を開閉させる。
神威はといえば、もう茫然自失だ。
彼女とはそれなりに仲良くやっているつもりだった。
この院に手伝いに訪れるようになって、早二ヶ月。神威はあまり人付き合いの上手い方ではなかったが、小さな子供相手だったら話は別だと知る。
ほかに何人も仲良くなった面々はいた。
だがルカはふと気がついたら側にいるような不思議な子供で、殊更印象深く神威の中に根付いていたのだ。
たこ焼きが好きで、いつも猫を模した帽子をかぶっている。
口べただが、歌ったときの朗々とした声がとてもかわいらしい。
何かのフラッシュバックのように、神威の脳内にルカの姿が浮かび上がる。
初めて対面したとき、木の後ろに隠れながらこちらを伺っていたときの様子。
一緒に唄を歌い、そのハーモニーに二人で感動したときの、照れたような笑み。
バレンタインデーにみんなで作ったというクッキーを恥ずかしげに神威のエプロンのポケットに滑り込ませた小さな手。
院の子供たちはみな好きだが、その中でも特に好意的に思っていた、向こうも恐らく好いてくれていると思っていた彼女に、
「る、ルカさ」
「うっうそだもん! うそだもん!」
なにその超絶拒絶。
「えええ……えぇええ……」
「がくぽくん、どうしたのー?」
「め、メイコ先生」
「あら、なっさけない顔ねぇ」
たたたっ、と走り去ってしまうルカの背中を捨てられた女のごとく腰を落として見送っていると、背後から声がかかった。
振り返るれば、一抱えもある洗濯かごを抱いたメイコ教諭がにやにやと笑って座り込んだ神威を見下ろしている。真っ赤なエプロンが翻って、颯爽とした印象が焼き付いた。かごを抱えたままに片手を棚に伸ばし、危なっかしい手付きで洗剤を取ろうとしているのか。
「どーしたのよ、そんな恋人に捨てられた女みたいな顔して」
「い、いま、ルカさんに……」
「ルカ?」
とりあえずと立ち上がり、メイコの手の先から洗剤を取り上げて持たせ、かごを奪い取る。
あらありがと、と流れるように礼を述べ、メイコは手の中に現れた洗剤をみた。
「きらい?」
なぞられるようにカイトの口から飛び出た言葉に、思わず眉が垂れ下がる。
「……うぅ」
「ずいぶんショック受けちゃってんのよねー」
「だ、だってルカさんにですよ」
「がくぽくん、嫌われてたっけー?」
「そ、んなことはない……と思ってましたけど」ぐう、と机にうなだれた「ちょっと、自信なくなってきました……」
飄々とした態度が常の神威のそんな様子を見て、メイコとカイトはからからと笑う。
どうにも何事も楽観的に捕らえるきらいのある彼らの快活な笑い声は、時には多大な救いとなる。だが今回ばかりはそれはずしりと神威の心にのしかかった。きりりと曖昧に痛む心臓にううう、と絞り出すように呻くと、流石に重症と気づいたかメイコがその肩を叩く。ちなみにカイトはまだ笑っていた。
「まぁまぁ、先生ってのは嫌われてなんぼの商売よ」
「うっ、……ううううぅぅうう」
「メイコ先生、それ追い打ち」
「あら?」
神威はがくんと更に肩を落としてしまう。
嫌われてなんぼ。そう言う彼女は、だが子供たちから非常に好かれている。規律や行儀に厳しいきらいがあるため恐れられてもいるが、それは嫌悪ではなく畏怖だ。
まぁまぁと神威の背中をさするカイトも、柔和な笑みとあたりの良い態度、けれどもきちんと締めるときは締める性質できちんと子供たちに懐かれている。
それなのに自分と来たら、だ。
「……何か、悪いことでもしちゃったんですかねぇ……」
ぐったりとしながら呟く神威を見、メイコとカイトはまたお互いを見、くすりと吹き出した。再度響く笑い声に「ううう」と呻く。
「なんなんですか、もう……」流石にそんなにも笑われるとダメージがでかい。ちょっと泣きそうになりながら神威はイスをたった「洗濯物干してきます」
「い、いやぁごめんごめんがくぽくん」
背中から追いかけてくる笑い混じりの謝罪を聞き流し、部屋から出た。
ぱたん、と態度とは裏腹に丁寧な仕草で閉められた扉を見やり、メイコとカイトはもう一度くすくすと笑う。
「いやぁ、ルカがきらい、ねぇ」
「あの子、どうにも好きなものに素直になれないって感じだものね」
「好きなら好きなほど、肝心なときにつまっちゃうんだよねー」
「まぁそこがかわいいんだけどねぇ」
「ねー」
「それよりもがくぽくんよ! あの顔、みた?」
「見た見た。あれは子供に嫌われたっていうより、好きな女の子に嫌われたって顔だったねぇ」
「年相応なとこもあるのねぇ」
「六つ差かぁ……」
「まぁ、全然ありでしょ」
「がくぽくんにならルカ、任せられるかな」
「か、かむい、せんせい」
園の庭の片隅にある洗濯物干場。
指先がふやけていくのを感じながら洗濯物をつるしていると、背後から例の透き通った声がかかった。
思わず自分の背筋を大きくふるえたのを認め、神威は一つ深呼吸をしてから振り返る。ひきつらせた表情は、いつも通りに機能しているはずだ。この園でもこんな風にすることになるとは、と思う。
嫌われてなんぼだと、メイコは言っていた。
嫌われていようとも、どんな子供にも慈しみを以て接したいと神威は思っていた。
「ルカさん、なんですか?」
木の陰に隠れていても、隠れきらない白い猫をもした帽子がぴくぴくりと生きているようにふるえる。
不安げな瞳がこちらを見上げた。
「えっと、えっと、あのね、」
「はい」
「あの、えっと、きらいっていうのは、うそ。うそついて、ごめんなさい」
ぱすっと軽い感触が足にぶつかる。
小さな手のひらが神威のズボンをぎゅっと握った。
「かむいせんせー、だいすき」
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ロリコンじゃないよ!ただの歳の差だよ!
ルカ10歳、ぽ16歳くらいのイメージで
ぽは老成してる感じ
この10年後とかを妄想すると大変美味しくいただけます